ヒカリ 5
そして、艦橋のモニターにガンダムを操縦するアムロの姿が映った。
「アムロ!お前!無事で!」
しかし、モニターに映るアムロは制服のままでノーマルスーツを着ていない。
「お前、ノーマルスーツは!?」
《着てる暇が無くて!それよりもこのままじゃ全滅です。モビルスーツ隊は集中砲火の出ている中央を目指して下さい。あそこが一番脆い!》
「!?分かった!」
ブライトは全機にアムロの指示を伝える。
そして、補給に戻って来たセイラに連絡を取り、アムロの無事を伝え、一旦ホワイトベースへ連れ帰ってもらう様依頼する。
「アムロが!?分かったわ。必ず連れ帰って来るわ!」
セイラは涙を浮かべ、アムロの無事を喜ぶ。
『兄さん…!やっぱり貴方はアムロを生かしていてくれた!』
セイラは今度こそアムロの気配をはっきりと感じ取ると、アムロの元にへと飛び立った。
「シャア!!」
アムロはゲルググのビーム薙刀をサーベルで受け止めながら叫ぶ。
「アムロ!?何故?薬が効いていた筈だ。」
「こんな時に…寝てなんていられない!」
接触通信で聞こえるアムロの荒い息に身体を傷付け正気を保っているのだと察する。
「君はそうまでして!」
「シャア!!ララァを撤退させてくれ!まだ…彼女が手を汚す前に!!」
「アムロ!!私の邪魔をするな!」
「シャア!!」
ララァのビット達がシャアにライフルを向けるハヤトのキャノンを狙う。
「ララァ!!ダメだ!」
アムロはビットに意識を向けビットがビームを放つ瞬間にその方向を変える!
「えっ?アムロ!?」
ララァはビットが自分の意思を無視して動きを変えたことに驚き、それがアムロによるものだと瞬時に理解する。
「どうした?ララァ!」
「大佐!ビットがアムロに乗っ取られました。」
「そんな馬鹿な!」
それを遠隔でモニターしていたフラナガンが叫ぶ!
「まさか!感度を上げて検体の無意識下で操作できるようにした為に他者の介入を容易にしてしまったのか!?」
「フラナガン!どういう事だ!?」
「大佐!サイコミュの感度を上げた為に、より強いニュータイプ能力を持つ者の介入を容易にしてしまったのです。ララァ少尉程の力を持っていれば通常あり得ませんが、アムロ・レイはそれを上回っているのです!危険です!ララァ少尉を撤退させて下さい!」
「まだ!ダメだ!」
「シャア!!」
アムロがシャアに斬りかかる。
「貴方を…信じてた!僕やララァは兵器じゃない!!」
「アムロ!しかし、今この戦時下で君たちの能力が戦況を左右する程の力を持っている事も事実だ!」
「…っ」
アムロは言葉に詰まる。
それが間違っていない事もアムロは理解していたから。
「でも!それでも!せめてララァだけは!!」
サーベルで打ち合いながらシャアと対峙する。
そこに、別の方向からシャアを狙ったビームが襲い掛かる。
「シャア!!」
「大佐!!」
咄嗟に庇おうとしたアムロよりも早くシャアのゲルググの前にララァのエルメスが入り込んだ。
ビットをアムロに奪われたエルメスにはまともな装備は無い。ララァはその機体を盾にしてシャアを庇うしか無かった。
「「ララァ!!」」
アムロとシャアの叫び声が重なる。
ビームはエルメスを直撃し、眩しい光がエルメスを包み込む。
「きゃああああ!」
ララァの悲鳴がアムロとシャアの脳裏に直接響き渡った。
「「ララァ!!!!!」」
エルメスは爆音を上げて目の前で爆発する。
「ララァ!!!あああああああ!!!」
アムロの心にララァの死の瞬間がリンクする。
『アムロ!!大佐!!』
身体に走る激しい衝撃、熱い炎が身を焼き吹き飛ばす。痛みは感じない。ただ、激しい衝撃が身体に襲い掛かる。
『あああ!アムロ!!』
そして、身体を失ったララァの意識だけがアムロの元へと舞い戻り、目を見開き泣き叫ぶアムロを抱き締めた。
『アムロ!アムロ!』
ララァの声にアムロが反応する。
「ララァ…?」
『そうよ、アムロ。私よ』
「ララァ!ララァ!」
泣き叫ぶアムロの頬を両手でそっと包み込む。
『泣かないでアムロ。貴方が悲しいと私も悲しいわ。言ったでしょう?貴方と私は一つの魂だって。私は貴方の中に還るのよ。』
「嫌だよ!僕もあの時言っただろう?ララァはララァのまま僕の傍にいて欲しいって!!」
『…そうね。私もまだアムロと大佐の傍で生きていたかった…。でも、仕方ないわ。これが運命なのよ。』
「運命?運命ってなんだよ!そんなの嫌だよ!」
『そうね…。でも受け入れなければ…。ああ…、アムロ、刻が見えるわ…。私はこうして刻を超えて貴方達を見ているわ…。さぁ、アムロお願い、私を受け入れて…。』
ララァはアムロに微笑むとアムロの唇に己のそれを重ねる。
その瞬間、ララァの身体は光に包まれてアムロの中に溶け込んでいく。
「ララァ…」
身体の中に暖かいものが重なり合っていくのを感じる。アムロはポロポロと涙を流しながらもララァを受け入れた。
「ううう、ララァ…」
「アムロ…ララァは…?」
シャアの声が聞こえる。
シャアから悲しみ伝わる。
でも、アムロにシャアを慰める余裕など無かった。それよりもシャアに対する怒りが込み上げてくる。
「…貴方が…、貴方が!貴方がララァを戦争に巻き込んだ!!ララァは戦いをするような人じゃ無かったのに!」
アムロは操縦桿を握る腕に力を込め、シャアのゲルググにサーベルで斬りかかる。
「貴方が!!!」
「アムロ!!」
アムロから怒りのプレッシャーが噴き上がる。
その凄まじいプレッシャーにシャアは操縦桿を引く。
「アムロ…。怒りで理性が吹き飛んだか…。今の私では彼には勝てん。」
シャアはガンダムに向かい体当たりを食らわせると怯んだ隙にその場を離脱する。
「アムロ…、まだ私は死ねん。為すべき事を遂げるまでは…。ララァ…私を導いてくれ…。」
離脱しながらモニター越しにガンダムとエルメスの残骸を見つめる。
そのシャアのマスクの下から一筋の涙が零れた。
『アムロ!!』
アムロの元にセイラが辿り着く。
『アムロ!聞こえて?!』
アムロの悲しみと怒りの混じった思惟を感じてセイラが叫ぶ。
『アムロ!!』
「セイラ…さん…」
『アムロ、大丈夫なの?ホワイトベースに帰艦するわよ。動けて?』
しかし、アムロからは何も反応が返ってこない。ただ、アムロの泣き声だけが響く。
セイラは動かないガンダムを牽引し、ホワイトベースへと帰艦した。
セイラの連絡を受けたブライトがデッキへと駆けつける。
コックピットから降りたアムロは制服の右脚部分を血で真っ赤に染めていた。
「アムロ!?血が!」
「貴方怪我をしているの!?」
ブライトとセイラが駆け寄りアムロに尋ねるが、アムロはただ呆然と立ち竦む。
そして、グラリと身体を揺らすとその場に座り込んでしまった。
「「アムロ!」」
ブライトに支えてもらい、セイラはアムロを医務室へ連れて行く。そして、怪我の手当てをしようと傷口を見て手が止まる。
「アムロ、貴方これ…。」
何かを突き刺した様な傷にセイラが疑問の声を上げる。
「あ…、大丈夫です。これ自分で刺したんです…。睡眠薬の様なものを飲まされてしまって…それを紛らわす為に…。」