ヒカリ 6
アムロはジオングの胴体の中心、コックピットが有るであろう場所に照準を定め、ライフルを放った。
「シャア!!!!」
ライフルから放たれたビームは真っ直ぐと軌跡を描き狙った場所へと命中する。
しかし、そこにコックピットは無く、頭部が切り離され離脱する。
「なっ!違ったか!?」
違った事に悔しさと共に安堵する心にアムロは頭を振ってもう一度攻撃を仕掛ける。
しかし、今度はジオングの頭部から放たれたビームを受けてしまう。
「しまった!」
その爆風に紛れて要塞の中に姿を消したシャアを追いかけ、アムロも要塞の中に突入する。
アムロはガンダムを自動操縦にしてコックピットを離れると、シャアの気配を感じる場所に向けてライフルを撃ち放つ。
その攻撃はジオングの頭部を直撃する。しかし、同時にジオングの攻撃を受けたガンダムは脚を失いその場に倒れ伏した。
そのガンダムを見つめながら、アムロはシャアの気配が要塞の奥へ移動するのを感じる。
「シャア!決着を付けよう。例え刺し違えても貴方を倒す!!」
銃を構えシャアの元へと向かい暗い通路を突き進む。
『アムロ…来い!!』
シャアはアムロの気配を感じながら決戦の場所へとアムロを誘なう。
そして、甲冑の立ち並ぶ広間でシャアはアムロに向かい剣を投げ渡した。
「アムロ、決着を付けよう。剣を取れ。」
「シャア!!」
アムロは剣を手に取るとシャアへと立ち向う。
始めは慣れない剣に戸惑いながらも、兵士として訓練を受けたシャアに怯む事なく果敢に向かっていく。
次第にコツを掴み始めると、持ち前の反射神経と運動能力をフルに使い徐々に間合いを詰めていった。
「ふふ、やるな。アムロ」
「シャア!貴方を…信じてた!!」
ガシャンと剣と剣が絡み合い、ヘルメット越しに睨み合う。
「私は君やララァを戦いに使わないとは一言も言っていない。」
「…分かってる…、分かってるよ!僕が勝手に貴方に求めてたんだ!でも!貴方なら…ニュータイプを理解してくれている貴方ならって…!」
アムロは一旦剣を弾くと後ろに下がる。
「はぁはぁはぁ…」
アムロの息が上がり呼吸が乱れる。
「まだ薬が抜けていないのだろう?それにまだ足にも力が入るまい?」
「う…るさい!」
飲まされた睡眠薬と昨夜の情事の影響、そして自身で突き刺した足の傷の痛みにアムロの顔が苦痛に歪む。
「アムロ、何故此処に誘い込んだかわかるか?」
「…ニュータイプでも…軀を使った技は訓練した者には及ばないと…思ったからだろう?」
「ああ、その通りだ!」
シャアが剣を振りかぶりアムロに襲い掛かる。
「それがなんだ!!」
その剣を受け止めアムロが叫ぶ。
「そんなの関係無い!!僕は貴方を倒す!!」
「上等だ!!」
ガシャンと剣と剣が何度もぶつかり合い、互いに一歩も引かない攻防が繰り広げられる。
と、そこに二人の思惟を感じ取ったセイラが現れた。
「やめなさい!二人とも!!貴方達が戦う事なんて無いのよ!!二人とも互い求め合っているのに何故殺し合うの!?」
「下がっていろ!アルテイシア!男と男の戦いに口を挟むな!」
「兄さん!」
「セイラさん!!邪魔をしないで下さい!これは僕とシャアの問題だ!!ここで決着をつけます!」
「アムロ!!」
二人は大きく振りかぶり、同時に剣を繰り出す。
「嫌!!」
セイラが両手で顔を覆い叫ぶ。
シャアの剣がアムロの右肩を貫く。
そして、アムロの剣がシャアのヘルメットに突き刺さった。
二人はそのまま身体をぶつけ合い睨み合う。
その瞬間、二人の間に宇宙が広がった。
そして…遠くでララァの笑う声がする…。
「今…ララァが言った。ニュータイプは戦いの道具では無いって…判り合えるんだって…」
「しかし…私には君たちの力が必要だ!」
「貴方だって…ニュータイプだろうに!」
二人の身体がその勢いのまま壁に激突する。
「あうっ!!」
アムロが肩の痛みに苦痛の声を上げてうずくまる。
「アムロ!!大丈夫!?」
セイラはアムロに駆け寄るとそのまま背中に庇い兄を見上げる。
「兄さん!もういいでしょう!やめて頂戴!」
すると、シャアがヘルメットとマスクを取り去りセイラへと視線を向ける
その額からは一筋の血が流れていた。
「兄さん!?血が!」
シャアは折れた剣の突き刺さったヘルメットを放り投げて自嘲気味に笑う。
「ヘルメットが無ければ即死だった。」
シャアはセイラの元まで歩み寄ると後ろにいるアムロの顔を見つめる。
「アムロ…。仲間の元に帰るがいい…。しかし、次に会い間見えた時は今度こそ君を私のものにする。」
シャアはアムロのヘルメットを脱がせるとその頭を掴み、深く口付ける。
「あ…!んんん」
シャアの舌が歯列を割り、角度を変えてアムロの口腔内を蹂躙する。十分に堪能すると、シャアはゆっくりと唇を離し、濡れたアムロの唇をそっと指でなぞる。
「次に会った時には決して離さない。忘れるな!」
アムロの琥珀色の瞳を見つめ、フッと微笑むとスルリと手を離し身体を離す。
「あ…」
アムロの口から切なげな声が漏れた。
「兄さん!兄さんはどうするの?」
「私にはまだする事が残っている。」
「まだそんな事を言っているの!?」
「アルテイシア、私は今までザビ家に復讐する為だけに生きて来た。これだけは譲れない。」
「兄さん!」
セイラの瞳から涙が溢れる。
「アルテイシア…。いい女になれ」
そして、最後にアムロを優しい瞳で見つめると背を向け飛び去って行った。
「シャ…ア…。」
アムロの瞳からポロポロと涙の雫が溢れ出し、周囲に散らばっていく…。
「シャア!!!」
アムロが力一杯その名前を叫んだが、シャアは最後まで振り向かず、その視界から遠ざかって行った。
「シャ…ア…のバカ…野郎…」
そして、後に1年戦争と呼ばれたこの戦争はジオン公国の敗北という形で幕を閉じた。
その後、アムロは連邦に危険分子と判断され退役する事も許されず、ホワイトベースの仲間とも引き離されて北米シャイアン基地に7年もの間幽閉される事となる。
周囲の奇異の目に晒され、鬱屈した日々を送っていたアムロはティターンズとエゥーゴの抗争よる混乱に乗じてシャイアン基地を脱走し、元ホワイトベースの仲間であるハヤトの率いるカラバに合流した。
そして、アムロはそこで運命の再会を果たす。
金色に輝く夕陽の中で再会した彼は、昔と変わらぬ美しいヒカリを放ちアムロの心を魅きつけた。
赤と金の入り混じった美しいヒカリ…。
暗い鳥籠の中で恋い焦がれ、求め続けた希望のヒカリ!
アムロはガンダムmk-Ⅱのマニュピレーターの上で叫ぶ。
そのヒカリの持ち主の名を。
「シャア!!」
end
2017.6.2