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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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メテオラさんの いただきます

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 日が沈み、夜の帳が降り、家々の明りが点りゆく。
 そのアパートの一画にもまた、光が満ちていた。

 普通の高校生一人に、名だたるクリエイター二人。
 そして――この世界の住人でない、ヒロインと賢者のいる一画にもまた。

「おいおい、メテオラ、お前礼儀正しいもんだなあ」
 居間から玄関へ向けて、松原は感心したように、語りかける。
「わざわざあんなふうに呼びかける奴、こっちの世界にはなかなかいないぜ」

「奇異だっただろうか?」
「いいえ!」配達されたピザの箱を、小柄な身体で慣れなそうに抱えてくるメテオラを、颯太が駆け寄り、手伝う。「そんなことないですよ」

「そうそう!」
 コンビニから調達してきた食べ物や飲み物をビニールから取り出しながら、まりねは語りかける。「あの配達さん、すっごく嬉しそうな顔してましたよ!」
 ハムたまやレタスのサンドイッチ。おにぎりやジュース。先に届いた出前の寿司。
 スナック菓子にビール。
 色とりどりのごちそうが、テーブルや床を埋めていく。

「うわあ~! こうして並べると、豪勢ね」
 満面の笑顔を浮かべ、セレジアは、まりねと松原へ向けて語る。
「ありがとう、二人とも。こんなに、ごちそうしてもらっちゃって」
「あの、僕からも、お礼を……」

 メテオラと共に、もちもちモッツァレラと熟成サラミの山盛りピザ二箱をテーブルに――テーブルのギリギリのスペースに――おきながら、颯太も言う。
「本当に、いいんでしょうか」 

「な~に! 若いんだから、食え食え」
「いいのいいの。こんな機会、めったにないんだし!」
 松原もまりねも、快活に答える。

「ごちそうになる。ありがとう」
 メテオラが笑顔を浮べ、色とりどりの食べ物を見渡した。

「この世界の食べ物は、重厚だ」
 彼女は、語る。落ち着いた微笑み。けれど目の前のごちそうを前にした瞳は、心なしかきらきらとすら見えた。
「それも、味だけではない。この食物のひとつひとつに、大きな縁が幾重にも重なっている。肉に野菜、この食物の材料を育てる人々。手を加え、加工し、調理する人々。そして、それを届けてくれる、彼らのような人々。彼らの労働や苦労の上で、私達は、この夕食を、享受する。もちろんそこに過度に畏まることはない。しかし……私はこれらの食べ物の背景にあるものも、一緒にかみしめたい」

 一息ついて。

「そして、この縁の交わりあう世界を、私は、やはり守りたい」

 ぐぅ~。
 大きな音。
 その音の主は、言わずもがな。
「失礼……」メテオラは、顔を赤らめた。「長々と話すばかりでなく……」

 皆、思わず微笑んだ。
「例え明日、世界が消えてなくなっても、とりあえず腹は減るよなぁ」
 松原が語る。
「まあとりあえず、みんな。乾杯といきますか。飲み物注ごう」

 メテオラは微笑んだ。そして、目の前のごちそうたちに手をあわせた。

「いただきます」