メテオラさんの いただきます
「不思議なお客さんだったなあ……外国人?」
とっぷり日の暮れた道路を、その青年はバイクで走る。
荷台には、宅配ピザの箱。配達先は、まだ少なくない。今日は、いつにも増して、注文が多い気がする。いつにも増して、忙しい。
しかしながら、青年は、どこか胸中に高揚感を覚えていた。
その口元には、微笑が浮かんでいた。
彼は、思い出していた。
一人の小柄な――奇異な少女のことを。
どこか、この世界の住人じゃないような、白髪の少女のことを。
「しかも、可愛い」
誰が聞いてるでもないのに、力説する側で、目の前の信号が黄色になった。
停止線を越えないよう、バイクを止める。
「あの顔どこかで……そういえば、まるで、この前まで嵌ってた……」
目の前の交差点を、まばらな歩行者が行きかっていく。
思いにふけるその中で、歩行者信号は点滅し、赤信号に変わる。
「『追(つい)アヴァ』に出てきた、あのキャラみたいだ。名前は確か……」
前の信号が、青に変わった。
「んなわけないか!」
青年は、バイクを発進させた。
彼の脳裏に、今一度その姿が浮かぶ。
ピザを受け取り、静かに、優しく微笑む少女の姿を。
(ありがとうございます。お兄さん。どうか、運転にはお気をつけて)
今日の運転は、いちだんと、安全第一だ。
☆終わり
作品名:メテオラさんの いただきます 作家名:炬善(ごぜん)