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琅琊閣小噺 弍

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元宵節が過ぎれば、寒さが和らぐ。
最も、琅琊閣の冬など、金陵の冬に比べたら大したものではないが。
そして、梅嶺のあの酷しさには、はるか及ばない。
雪は全く降らず、降霜がわずかに数度あるだけだ。
朝晩に寒さは来るが、日が昇れば暖かく金陵とは比べられぬ位に過しやすい。
それでも、火寒の毒を抜く施術をした梅長蘇には、辛い季節であった。
部屋には暖をとり、夜には綿のたっぷりと入った布団を掛けて休んでも、少しも暖かいとは思えなかった。
火寒の毒は抜けたが、体に残る寒の気のせいで、体温を保てない。凍えるばかりの体となった。
こうなる事は、琅琊閣の老閣主からも、藺晨からも聞いていたが、ここまで辛いことになろうとは、想像以上だったのだ。
かつて、火の男とまで言われ、寒さとは全く無縁な体だったのだ。こんな体をどう想像出来ようか、、、。

今朝はいつもよりも暖かく、そのせいか調子も良く、寒い朝はいつまでも床から抜け出せぬのだが、今日は違った。
朝から辛く無く、体が動くのは稀だった。

いくら、金陵よりも暖かいとは言え、長蘇の居所では火を置かねばならなかった。
換気のために障子戸も開けられていた。
その開いた障子戸から、人影が現れた。
飛流が、来たのだった。飛流は、長蘇のいる楼閣の上層階の居所に、軽功を使って外から直接入ってくるのだ。
琅琊閣の複雑な廊下を使って辿り着くのは、軽功を持つ者にとっては煩わらしくてしょうがないのた。
藺晨同様、飛流もまた、こうして長蘇の部屋を訪れる。飛流の方が頻度は多かった。

開けられた障子から、姿を現した飛流は、木の枝を持っていた。
こうして飛流は時々外の物を、長蘇の部屋へ持ってくる。大体が花であったり、こうした枝であったり。
時には生き物だったりもした。鳥の雛だったり、兎の子供だったり。
野に住む生き物は、時に病を持ち込んだりする心配がある為、さすがに強く止められ、渋々ではあったが、長蘇の為、飛流はその約束に従った。
だが、植物はいくら言ってもやめる事は無く、せっせと草の花やら木の実の付いた枝だったりを、長蘇の部屋へ運んで来るのだった。

ついこの前は、咲き始めたばかりの梅の枝を手折り、持ってきた。
何とも香りの良い白梅だった。
梅の花は、枝ごと折られてしまっては、実を結ぶ事も無く、そのまま枯れてしまうのだ。
「梅を折るのは、止めよ。ほかの花や木もだぞ。」
「、、、、、、、、、うん。」
どこかを見て、心ここに在らずの返答だった。
────また、折ってくるかも知れぬな。─────
苦笑する。


そして、今日もまた何か、枝を手折って来たようであった。
嬉しそうに、開いた障子戸から、座した長蘇の元へと歩いてきた。やはりその手には、何かの枝が握られていた。今日は梅ではない。
細い枝に、所々小さな葉が付き、そこに白くて長い花の様な物が下がっている。
「また今日は、変わったものを持ってきたな。」
片付けものをしていた黎綱が、飛流に声をかけた。飛流は得意そうにちらっと見返した。
板張りの室内の真ん中には火鉢があり、そこに長蘇は座っていた。
飛流は、初めて見つけた物なのか、これを見せるのが嬉しいようだった。
枝を長蘇に手渡した。
渡されて長蘇も、不思議そうに、枝に付いた花を見ていた。
「ふふ、白い毛虫がぶら下がっているみたいだな。」
長蘇は笑っていた。
栗や白樺の花のような、小さな花が沢山付き、本当に白い毛虫が下がっている様だった。
枝を顔に寄せ、その花の匂いを嗅いでみる。
特徴のある匂いはしない様だった。

突然、長蘇が咳き込んだ。
初めは二、三度の軽い程度だったのに、咳はどんどん酷くなる。
「宗主!。」
黎綱が急いで駆け寄って、背をさするが全く治まる気配はなく、それどころか皮膚の所々が、赤く腫れだしてしまった。
「宗主!!!」
「飛流!閣主を呼んできてくれ!!」
黎綱は頼むが、飛流の姿はそこには無かった。
突然の事で、驚いて何処かへいってしまったのか。
「誰か!!誰かいないか━━━!」
長蘇は苦しそうに咳込み続け、吐血までしてしまった。
その白い手の指の隙間から、紅い血が滲んでゆく、、、。
「ああっ!!」
「宗主、お待ち下さい、呼んできますから。」
苦しむ長蘇を残し、走って部屋の外へ出ていった。



藺晨が長蘇の部屋へ来たのは、半刻程、時間が経過してからだった。

咳込み、体力を消耗し、ぐったりとなっていた。
それでも止まらなかった。力ない咳をし続けていた。
意識も留まっているのかどうか、藺晨が問いかけても答えは返ってこない。
長蘇はただ、幾らかでも咳が治まり、状態が好転するのをじっと耐えて待っていた。

藺晨は脈を診て、針を打とうとするが、咳で体が動き、難儀をした。
黎綱が長蘇を支えて、針を打つ部分を固定して、幾本かの針を打った。

暫く時間を要したが、次第に咳の回数は減り、長蘇の状態は落ち着いていった。
虚ろだった意識と視線も、少しずつ力を帯びていった。

「私だ、分かるか?」
長蘇は藺晨を見て、ゆっくりと頷く。
「突然咳込み出して、、、、。一体どうしたんでしょう、こんな酷い咳は初めてです。」
黎綱も度肝を抜かれたようだ。
「何があった!」
「何をした!」
黎綱に問う。藺晨の口調は厳しかった。
黎綱はその態度に、たじろいでいる。
「何も、、、何かを口にした訳でもなく、宗主を冷たい風にあてた訳でもありません。」
「、、、何も、、、何も、、、、分かりません。」
何か自分に落ち度があったのだろうかと、考え込み、しょげている。
「ああ、そう言えば、、、、。」
「飛流が来た。」

「飛流?」
藺晨の眉間にシワが寄る。
「飛流がここに、その枝を持って来たのですよ。そう言えばそこから具合が、、。」
わずかに数歩、離れた場所に放り出された、特徴のある花の付いた枝を見て、藺晨の眉間は更に険しくなる。
「あれは榛子の雄花だ。」
「この琅琊山には無い植物だ。」
「相当離れた所に行かねば、手に入らぬ。コレを本当に飛流が持ってきたのか?」
暖かい土地柄故に、ない訳では無いが、この山には無く、琅琊山を出て更に二十里程も行かねば手には入らぬ。
飛流の能力ならば、行けぬ事も無いだろうが、それでも楽ではないはずだ。
かつて、出歩いた折にでも見つけていて、長蘇に見せたいと思って、わざわざ取ってきたのだろうか。
「あの枝が来てから、咳が出たのだな?」
コクリと長蘇が頷いた。
「希に体質で、食物や花粉に過敏に反応する者がいる。」
「お前は、榛子を食べるか何かすると、かゆみが出たり腫れたりしたのか?」
また、長蘇が頷く。
「そうだったんですか!」
「コレが、榛子の、、、、、。」
黎綱が、驚いている。
黎綱は知っていたのだ。だから、榛子の入った点心や料理が、長蘇の口に入らぬ様、気を配っていた。
だが、さすがに榛子の樹木や、ましてや花などは見る機会もなく、まさかこれが榛子の花だとは、思いもよらなかった。。
金陵では、榛子など生えてはおらず、赤焔軍が南方に遠征しても、開花しておらねば知る事も無い。
「コレは雄花だ。花粉でも吸い込んだのだろう。」
作品名:琅琊閣小噺 弍 作家名:古槍ノ標