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DEFORMER 5 ――リスタート編

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 士郎の手を取り、指を握ったり絡めたりするものの、引き寄せたりはしない。項を押さえることも、顎を掴むこともせず、それでも士郎が逃げずに私の舌を絡め取ることに熱くなる。ともすれば火のつきそうな身体を宥めながら、士郎と経口摂取という名目のキスを繰り返す。
 濡れた音が、やけに響く気がする。
 息苦しさからか、士郎が顎を引けば、私も無理に追うことはしない。
「は……っ……、アーチャー、まりょ、く、す、すこ、しは?」
「ああ」
 本当に微量だが、頂いたことを告げれば、眉を下げ、よかった、と笑う。
 それだけでいい。
 その身をいただくのは、週末だけにしよう。士郎にばかり負担をかけさせるわけにはいかない。
「今日は疲れただろう? ゆっくり寝ろ」
 柔らかな赤銅色の髪を撫で、布団に寝かせると、首を傾げている。
「アーチャー?」
「おやすみ」
 額にキスを落として立ち上がる。
「アーチャー」
 士郎の部屋を出ようと引手に手をかけると呼び止められた。
 学校もはじまったことだし、寝る時は一人にしてやろうと思う。でなければ、つい、私はがっついてしまう。昼間一緒にいられない時間を、夜に求めてしまう。それはいけない。士郎はもうすぐ二十歳だが、高校生という身であることだし、それに、日々疲れさせたまま登校させるのはしのびない。
「ここで、寝てくれないか?」
 今、なんと?
「…………」
 すぐに返事ができない。
「ダメ、か?」
 振り返れば、身体を起こして士郎は窺うように訊いてくる。
「いや、その……」
「ダメなら、いいんだ。引き止めて、悪かったな」
 明らかにシュンとしただろう。いいわけがない、お前は納得などしていないだろう。だというのに、聞き分けの良いことを言って……。
 そんな態度を、私に見せるな。うっかりお前の言葉に乗ってしまう。お前が求めるからだと、大義名分を得てしまう。それは、私に好都合すぎる。
「だめ……、では、ないっ!」
「え……?」
「ただ、虎に、許可を取っていない以上は……、ああ、いや、その、すでに、毎晩ここにいたことには変わりがないのだから、その、一概に許可が必要かと言えば、そうでも、ないのだが、」
「アーチャー? ごめん、何言ってるか、わかんないや」
 首を傾げたままで士郎は困惑している。
「ああ、その、だからだな、」
 士郎の布団の側に舞い戻る。
「ここにいたいのは山々だが、虎に見つかると、厄介だということだ」
「藤ねえには頼んだよ」
「なに?」
「俺がダメなんだって、アーチャーがいないと、眠れないんだって」
「士郎……」
「半分ほんとで、半分嘘だけどな」
 困ったような笑顔を見せる士郎を抱きしめる。
「なあ、だから、ここにいてくれよ……」
「はい。喜んで」
「ぶふっ! どこの居酒屋だよ」
「吹くな……」
 そう言いつつも、私も可笑しくなってきた。
「アーチャーも笑ってるだろ」
「笑っていない」
「嘘つけ、肩、震えてるぞ」
「…………ああ、まったく……」
 腕を緩めて見つめ合えば、琥珀色の瞳が私を映す。
「さあ、もう寝るぞ。子守歌が必要な歳ではないだろう?」
「アーチャーの子守歌なんか、怖くて寝てらんないだろ、剣戟の音しかしなさそうだし」
「失敬な」
 一緒に横になった士郎に布団をかければ、私の身体にもかけてくる。
「必要ない」
「必要だろ」
「まったく……」
 もっと近くに来い、と素直に言えないものか……。
 士郎の布団に潜り込み、士郎を抱きしめる。こういう状態になるといろいろとおさまりがつかなくなってくるのだが、まあ、我慢だな。
「これで、いいか?」
「悪いな、もう少しの間だけ、頼むよ」
「いつまででもかまわないが?」
「くふ……」
 士郎は肩を揺らして笑っているようだ。
「そう……だったら……」
 士郎は眠ったのか、それきり声が聞こえてこない。
「お前が眠れるのなら、いつまででもこうしている」
 このくらいお安い御用だ。だというのにお前はきっと我が儘を言っている、だとか思うのだろう。
「そんなわけがないというのに……」
 士郎が一人で眠れないのは、それに、穏やかな眠りを妨げるのは、間違いなく、あの魔術師だ。
 一年にもわたる痛みの記憶、それ以外にも何かあるのかもしれないが、今のところ、士郎にはそのことだけが強烈に残っている。
 凛は学校に通いはじめれば、士郎にも何か変化が起こるかもしれないと言ったが、何も起こらないことを祈るしかない。
「この私が、神頼みか……」
 情けない守護者もいたものだ。
 自分ではどうすることもできない事象を前に、手も足も出ないとは……。
 赤銅色の髪を撫で、額に口づけ、少し身体を離しておこうと思えば、くん、とシャツを引っ張られる。
「…………」
 胸元のシャツを握られてしまっていて逃げられない。
「はあ……。こんな控えめな我が儘、きいてやらないわけにはいかないか……」
 寝息を立てる唇を奪い、このくらいの褒美は貰ってもいいだろうと言い訳し、再び士郎を抱きしめて、私も瞼を下ろした。


DEFORMER 5 ――リスタート編 了(2017/6/13)