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DEFORMER 5 ――リスタート編

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「撤回しろ」
 夜道のため、声を抑えての口喧嘩だ。
 まったく、こいつは、本当に色気がない。
 だが、こうやって、くだらない言い合いができるなら、それでいい。



***

 すぅ、と大きく息を吸った。
「よし」
 鞄を持ち、自室を出る。
「アーチャー、行ってくるな」
 居間の前を過ぎながら、声をかけて玄関に向かう。返答なんか、聞く余裕がない。精神的に……。
「士郎、何を慌てている」
「う……」
 靴を履きながら、ちらり、と背後を窺えば、壁に肩を預けて不機嫌な顔でアーチャーが立っている。
「別に、慌ててるわけじゃ……」
 まともに顔を見られず、玄関戸に手をかけると、褐色の手が引き戸を押さえた。
 素早い……。
「あの……」
「士郎」
 朝っぱらから、なんだって、そういう声で呼ぶかな……。
「な、なん、だよ……」
「気をつけろよ?」
「わかってる」
「あと――」
 可愛い、と耳の後ろで囁きやがる!
 文句を言おうと振り返れば、待ってましたとばかりにキスで俺の文句は塞がれた。
 朝からやりたい放題だ。俺が、制服着るだけで精いっぱいの精神状態だってわかってるはずなのに、こいつは……。
 シャツと髪を引っ張って、どうにかディープなキスから逃れれば、楽しそうに笑ってるし……。
「なに、笑ってんだよ!」
「いや、なに、真っ赤だと、思ってな、くく……」
 笑いながら言うな……。
「もう、行ってくる!」
「ああ、早く帰って来い」
「ぐ……」
 そんな、いい笑顔で言われると、なんか、すっごく…………、うれしいだろ……。
「アーチャー」
 さっき乱した髪を撫でつけると、驚いたように瞬いてる。
「昼前には帰って来るよ」
「了解、マスター」
 少し屈んだアーチャーは、リップ音を立てて軽いキスをくれた。
「行ってきます」
 熱い顔はどうしようもないけど、少し落ち着いて家を出ることができた。
「毎日これじゃ、ダメだ……」
 反省しながら通学路を歩く。
 スカートがスースーする。違和感が半端ない。
 だけど、若葉を芽吹かせた桜を見上げて、二年前と同じ道を辿る。
「帰ってきたんだな……」
 生死をかけた聖杯戦争すら俺には非日常だったというのに、そのまま二年も、おかしなことになっていて……。
「浦島太郎もいいところだな……」
 俺からすれば、二年前の続きみたいだ。この春から高校三年生だし。だけど、俺以外は時間が二年過ぎている。同級生はもういない。後輩だってもういない。
「編入生ってことになるんだったっけ?」
 学校では表向き、編入生ということになっている。別に支障がなければなんでもいい。前例がないわけじゃないから、珍しいけど現実感がある、とは藤ねえの意見だ。
「とにかく、卒業は、しなきゃな」
 俺を探してくれたみんなのためにも。
「あ、こういうこと言えば、またアーチャーに指摘されるな……」
 そういう考えはやめろ、ってアーチャーに言われた。誰かのためではなく、まず自分を先に持ってこい、と。
「アーチャーだって、人のことは言えないだろ……」
 誰かのために戦って、傷ついてきた張本人のクセに……。
「だから、わかるのか……」
 その、愚かさが。その、くだらなさが……。
 アーチャーの言うことはもっともだと思う。だけど、そうそう今まで培った性分というのは、変わるわけじゃないからな……。
「気をつけることにしよう」
 意気込んでみることだけはやってみた。


 ああ、緊張した。
 とりあえず、学校は終わった。
 新学期の朝礼とか、担任の挨拶とか、自己紹介とか、とりあえず、終わった。たぶん、無難に済んでるはずだ。担任は藤ねえだし、特に問題はないだろう。
 名前は、衛宮シノと名乗ることになった。語呂が似てるからいいんじゃない、という遠坂の適当な意見。
 また偽名か。
 だけど、ヤシロよりはましだ。ヤシロはやっぱり、なんか……、
「アーチャーが喜ぶから……」
 まだ、俺は引っかかっているみたいだ。あのミュージアムで過ごしたヤシロのことを、アーチャーが求めてるんじゃないかって……。
 遠坂があの魔術師がつけた名前なんか却下と息巻いてくれてよかった。アーチャーはまんざらでもない顔してたからな……。
「まだ……、求めてんのかな……」
 上履きを履き替え、校舎を出る。それぞれに散っていく生徒たちは、俺より最低でも二つは年下。
 知っている顔がない。
 俺の同級生は、もう卒業して、進学してるか社会人かになっている。
(ここで過ごした俺は……)
 校舎を振り返って、在りし日を思う。
(衛宮士郎は、ここには、もういない……)
 少し、胸が苦しいのは、未練があるからだろうか?
(向き合っていけるのか? 俺は……)
 安易に復帰を決めてしまったんじゃないかと不安になる。家路を歩きながらずっとそんなことを考えて、武家屋敷の塀の側に至る。
「あ……」
 門の前に、人影。黒のジーンズは相変わらずだけど、今日は、白っぽいシャツを着ている。足取りが軽くなる。
「た、ただいま」
 弾む息を押し込めて言えば、
「ああ、おかえり」
 穏やかに笑って迎えられる。
 不安も、少し滅入っていた気分も、全部消えていった。一緒に門をくぐって、家に入る。
「緊張した」
「そうか」
「藤ねえが担任だった」
「意図的だな」
「やっぱり、心配されてるんだな」
「そうだな。あの人が担任にしろって、ゴネている様が浮かぶ」
「言えてる」
「甘えておけ」
「え?」
「そうやってかまってもらえるのも今だけの特権だろう。大人になれば、誰しも甘える場所が減っていく。今、存分に甘えておけばいい」
 俺の頭を撫でて、アーチャーは何でも知ったふうな顔で言う。
(アーチャーには、甘える場所はあったのか?)
 大人の横顔を見上げて、そんなことを思う。
(大人になってから、少しは誰かに甘えたか?)
 そんな人も場所も時もなかったんだろうかと、少し胸が締めつけられた。
「……なんだよ、大人みたいな顔しやがって」
 胸の痞えを誤魔化すように、不貞腐れて言えば、呆れた顔で見下ろされる。
「大人だからな」
「どこがだよ」
 時々、子どもみたいになる時あるだろ。
「思い当たる節でも?」
「大いに」
「ほう。それは、いつ?」
「えっちのと……」
 ハッとして口を手で押さえた。
 あぶない。俺は何を口走ろうとしてるんだ。
「士郎、いつだ?」
 アーチャーを、ちらり、と見上げると、ニヤついている。
(こいつ、わかってて……)
 さっさと自室に向かう。
「士郎、いつなんだ?」
 後をついてきて、まだ訊いてくる。
 声が笑ってるぞ、この性悪。
「着がえるんだから、ついてくるな」
 振り向いて言えば、
「手伝ってやろうか?」
 とか言ってくる。
「間に合ってる!」
 笑うアーチャーに言い放って、部屋の障子を閉めた。



***

 月明かりもない暗い部屋で、魔力の経口摂取を行う。微々たるものだが、唾液からも魔力を摂取できる。
「ぁっ、ふ……」