五十音お題。
ア行
あいしてる(来神時代/イザシズ)
シズちゃんは憂鬱そうに空を眺めていた。規定をことごとく守っている彼の制服がずたぼろになっているのに気にせずに彼方を眺めているのが至極面白くて、気に食わなくて口から乾いた笑みが零れた。
彼の机を吹っ飛ばしたり、重いものを持ち上げて投げ飛ばす、鬼神のような働きをてんで感じさせない状況に暴力を好いていない現状が伺えて、それ故にシズちゃんを激情に駆らせるのが滑稽で楽しくてやめられない児戯のようなものだ。
「シズちゃん、」
「……あ? んで手前がいんだよ臨也」
足音たてて近付き声をかければ振り返ってきてはくれるものの、無視を決め込んでいるのかそれ以上何も話しかけてはこなかった。
面白くないと思いつつ隣に座れば嫌なものでも見るような視線が当てられる。
「今日も傷だらけだね」
「また絡まれてただけだ」
それで会話は終了した、と言わんばかりに目の前に置いてあったパンを口に含んでもくもくと食べ始めたシズちゃんにため息をつく。馬鹿なこの男は未だに喧嘩を売られる原因が俺にあるとは知らないようで、新羅位しかいないコミュニケーションがとれる相手だと位置付けているようだ。
「そっか、シズちゃんは災難だねぇ、髪の毛染めたのが悪かったんじゃないの?」
「戻す気はないがな」
髪を指で撫でつける様子にはどこか繊細さが混じり込んでいて粗雑にものをクラッシュさせる姿からは想像もつかない。
「じゃあ、いいこと教えてあげる」
「勝手に言ってろ」
「今日の喧嘩も前の喧嘩も全部、俺が咬んでいるってね!」
黒いスラックスから携帯を出し写真の一枚を見せてやる。そこには画面一杯に人を殴るシズちゃんの絵。
そしてからシズちゃんの顔を見ると額にうっすらと青筋をたてて屋上のフェンスに手を掛けた様子が見えた。
「あはは、怖いなぁ」
茶化せように指させばお気に召さなかったらしくて青筋が三倍増しした。
(あいしてる)
息だけで声にならないように言ってから、フェンスを引っ剥がそうとしている彼から逃げるように階段を駆け下りた。