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五十音お題。

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いいねぇ、(臨也→帝人)


 かち、かち。とノック式のボールペンを押せば本来インクを垂れ流す尖ったペン先が見え隠れする。
 みてくれはなんともないただの文房具で、実際の用途も紙に文字や絵を記し、表現するスキルであり、それ以上も勿論それ以下もありはしないのだが、ただ魅せられたように俺は凝視をする。
「なにしてるんですか」
「ん、帝人君は気にしなくていいよ。どんどん食べて」
 話が噛み合っていないのに対してため息を帝人君は吐きつつ、季節限定のハンバーガーに手を出していた。池袋駅前にある電気屋の隣に位置するように立てれたファーストフード店の中には自分達以外にも電気類を見に来たのか、サンシャイン中心の乙女ロードと呼ばれる一軍を見に来たのか理解しかねる人でごった返しており、従来の禁煙席は満席で時間限定で喫煙出来るガラスのバリケードに囲まれた場所の一角に座っていた。
「あ、今日は俺が奢ってあげるからね、好きなだけ食べなよ」
 彼がおどおどしつつも無言で口にバーガーを運ぶ素振りを中断させようと言ったのだが帝人君は相変わらず無言であった。まるで、俺が見えていないようだ。いや、意識的に無視をしているのか、目線があってもスッと逸らされてしまう。
「そんなに俺と目があうのが嫌ならお迎えじゃなくて、隣に座ればよかったじゃないか」
「……そうしたら、肩に腕をまわすじゃないですか臨也さん」
 ポテトを最後まで平らげ、塩と油で汚れた指を一舐めしてから高校男子とは思えないくらい丁寧に手を拭う素振りにぞくっとした。
「わかってるねぇ、帝人君。さすが冷蔵庫みたいな名前をしているだけの価値がある」
「なんですかそれ」
 苦笑しつつ話している間もずっとこちらを直視しない彼がなんだか悔しくて、手に持ったボールペンで机の上に投げ出された腕のすぐ側へ音をたてて突き刺せば、がちっと嫌な音をたてた。
「やっとこっちを向いたね、帝人君」
 怖がるような、どこか怯えながらも芯が通って、冷たい瞳を見返しながら、どうやったら心を覗けるか考えあぐねた。



作品名:五十音お題。 作家名:榛☻荊