五十音お題。
さす
(覚醒帝人様と臨也/若干病んでる)僕は彼の手の甲へボールペンを突き刺してやった。忘れた頃に皮膚を伝って、赤い血が水玉模様を作っていく。それはひどくチープに見えた。これが身体に必要不可欠な存在なのだ、これがある所為で僕らは酸素と栄養を行き渡らせいるというのにこんな簡単に体外へ排出されていいものか不安である。
「ねぇ、臨也さん」
彼は相変わらず、相も変わらずへらへら、なにが楽しいのかわからないが笑っている。きっとそれは常人である僕には永遠にわかりやしないのだろう、本当に気味が悪い位に笑い続けている。
「どうして、そんなに笑うんですか」
「どうしてだと思う? 悩んでごらん、帝人君!」
だらだら零れていく血液を赤く長いべろで一舐めした。目の朱と相俟って獣のように見える、否。化け物のようにでも。
「僕は臨也さんはがなにを考えているのかわからないです」
「そりゃそうだよ、帝人君。俺達はいつまでも理解しあうなんて出来ないんだ」
先程舐めたのにも関わらず、滴ってくる血に嘆息してから彼はもう一度手のひらを口元まで持っていって、ぢゅ、と血を啜っていた。
「だから、人間は素晴らしいんだ。自分も判っていない連中が、友達だ絆だなんだ言って他人を判ったふりして、喧嘩して。あぁ、だからやめられない! 俺はずーっとこんなみすぼらしい世の中に住んでいるんだよ」
帝人君、と僕の名前を呼びながら寄ってきた。赤いそれで唇は艶やかな色合いになっている。他人を自分の世界観に染め上げ、それをパーツにゲームを仕立て上げ、最後に美味しい場所を浚っていく。まるで一つ現象になりつつあるそれは、致死量に少し足りない麻薬のように長らくの間苦しめるに相応しい毒々しさを醸し出している。
「どうしました、臨也さん」
「やだなぁ、帝人君。クールぶって実は寂しがりやなんじゃない?」
「は、なにを言ってるんですか。僕はこの町を綺麗にする為だけに暴れまわる化物ですよ」
「君がこの町を綺麗にするするのは、友達とまた仲良く過ごす為でしょ?」
尖った八重歯を見せて笑う彼に怒りがふつふつ込み上げる。臨也さんに僕のなにが理解出来るというのだ、先程自分さえも理解出来なくてどうのこうの言ったのはどこの誰だ。
「僕は貴方に理解などされたくありません。黙らないともう一度、刺しますよ」
「それは怖いから黙っとこうかな。別に俺は老婆心で言ってあげたのに」
「いい迷惑です」
気分がすこぶる悪い。本来非力なのが僕の筈なのに、今日は簡単にボールペンへとひびが入った。