五十音お題。
こいにそうぐう(戦争コンビ)
「なんでシズちゃんがいるのさ」
「それは俺の台詞だ、臨也あぁああ!」
綺麗な夕日が乱立したビルの谷間へと消えていくのをバックにまたもや喧嘩沙汰が始まった。地方から出て来たのか大きな荷物を持った若者が大量に歩いている。
━━いつもより、やりにくい。
と思った。平日や、ここいらの土地に慣れている連中ならば俺と臨也が出会った時のいざこざを理解しているので、避けて通ってくれる。けれど土日はおもしろ半分に覗く連中は多いし、人ごみがあるので臨也が紛れて逃げてしまったりと面倒極まりないのだ。
「あはは。怖いな、シズちゃんは」
コートのポケットから切っ先だけナイフを覗かせて彼は笑っていた。髪も黒、服装はどこもかしこも真っ黒だからか酷く目立つ荒んだ赤色の瞳を言葉とは裏腹にたぎらしている。
「そりゃあ、手前が煽るだけだろうが!」
「いやいや、シズちゃんが短気なだけ、だって!」
近くにあったゴミ箱を手に取り、投げつければ、横に逸れて避けられた。
あぁ、もう苛々とストレスが溜まって仕方がない。元より人が多いのは苦手なのに、目の前には臨也がいて、しかも野次馬が面白半分に携帯のカメラを向けられるものだから、自販機を持ち上げて彼らに投げつけてやりたくて、けれど危害を知らない人にまで与えるのは気分が悪いので、臨也に専念しようとへらへら笑う男を追いかける。
「手前さえ居なかったら俺はこんなに暴れねぇよ!」
「それはシズちゃん、俺に対しての新手な告白かい?」
ひょい、と大きめの鈍器が投げられそうにない脇道に入り込んだ彼は首を傾げながら目を細めながら嘯いていた。
「んな事あってたまるかよ!」
「わかった、また返事を聞きに来るよ」
近くにあった標札を引き抜いて突き刺すように相手へ押しやれば、からから笑いながら臨也は消えていった。
相も変わらずいけ好かない男だ、と思いつつ、胸ポケットから取り出した煙草に火を付けた。