五十音お題。
そそる
トムさんと静雄感情の全てを鋭利な刃物へと変換して、憎悪の対象に向かって惜しげもなく暴力を投げつける。それは飛礫のように素早く、かつ鉄球のように重い。壊して壊して壊して、いつの間にか喧嘩人形と呼ばれている彼は、名を平和島静雄という。
そんな彼であるけれど、なぜだか俺の前では酷く大人しくて大型犬のような印象を与えてくる。
「これでいいのか?」
「はい、これで」
声を弾ませて言うものだから、クスと思わず笑ってしまい、それを鏡越しに見たらしい彼は不機嫌そうに顔を歪めていた。
今は髪の毛を染めてやっているのだ。美容院で染めた方が綺麗に仕上げてくれるだろうに、彼は子供のように嫌々と首を動かして否定される。知らない人が自分の髪に触れるのが耐えられない、とか言われてしまえば断る理由もなくて、説明書を読みながらブラシで梳きながらブリーチをするのは習慣になりつつある。
昔はふわふわと柔らかかったのに、何度も色を抜いた結果として針金のように固くなった髪の毛を見るとなんだか変な気分になった。
自分が彼の一部を支配しているかのような錯覚、意味もない倒錯感を味わう。別に俺じない誰がやっても、結末が変わらないのは重々承知しているけれど、俺にしか静雄がやらせないというのに興奮を覚え、彼を独占しているような気分になるのだった。