GOAL
東京タワーのライトアップに背を向けて、梶山は窓際の席に座った。観光客なら感嘆して写真のひとつでも撮りたくなる夜景も、職場の窓越しではまったくありがたみを感じないものだ。理由はわからないが、むしろ、ある種の物悲しさすら覚えてしまう。
コーヒーは買ってくれるけれど、椅子を引いてはくれない。なるほどね。手は差し伸べてくれるけれど、甘やかしはしてくれない。気を使われたり、特別扱いされたり、憐れまれたりするのが苦手なのを、わかってくれている。
右腕に提げたカバンを椅子に置き、私も東京タワーを背に、梶山と隣り合うように座った。
人差し指で不器用にプルタブを弾いていると、爽快な音を立てて開けた缶を口にしようとしている梶山と、ふと目が合う。
「ああ……すまない」
「いやあ、すみませんねぇ」
管理官様の手を煩わせて……と、おどけた調子で言う。
片手では、缶コーヒーは開けられない。手のひらで転がしていた缶を梶山の前に置き、冷たそうな白い手に開けてもらう。
一人で缶コーヒーを飲んで考え事だなんて、私には最初からできやしなかったんだ。
再び手元に戻された缶コーヒーを、ぐいっと呷る。
懐かしいなぁ。昔よく飲んだ気がする。文句を言いながら、眠い目をこすり、疲れた体に鞭を打ち、お互いに鼓舞し合って……あれは目の前の男がまだ上司じゃなかった頃。たまに忘れそうになるけど、一応先輩。
立場が変わっても、昔も今も変わらない。顔を合わせれば軽口を叩き合うけれど、結構、それに救われてきたような気もする。
「ありがとう」
「あ?」
……いや、コーヒー。ありがと。
-Fin-