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鳥籠3

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鳥籠3


シャアに抱かれてから数ヶ月。アムロはまだシャアの鳥籠の中に居た。
その頃になると、シャアは数日間任務で屋敷を空ける事も多くなり、アムロは段々と自室に籠るようになっていった。
「アムロ様、お食事です。」
家令の老紳士がドアをノックしアムロに告げる。
「…シャアは?」
アムロはドアをそっと開け、家令に尋ねる。
「旦那様はお仕事で出掛けております。本日はお戻りにならないそうです。」
家令のその言葉にアムロは小さく溜め息を吐く。
「…そう…。ごめんなさい。食欲が無いので食事は要りません。折角用意して貰ったのにすみません。」
アムロのその様子に、家令の老紳士は悲しい表情を浮かべると、そっとアムロの頬に手を添える。
「アムロ様、旦那様は明日の午後には戻られるそうなので、その時に元気な姿をお見せ出来るように少しでも召し上がって下さい。」
「……でも…」
「私からのお願いです。聞いては下さいませんか?」
優しく微笑む老紳士にアムロは「NO」とは言えず、暫く考えた後小さく頷きダイニングへと移動した。
歩くアムロの後ろをペットロボット“ハロ”がピョンピョンと跳ねながらついて来る。
『アムロ、ゲンキナイ。シャア イナイ サビシイ』
「ハロ!うるさいよ」
アムロの心情を語るハロに老紳士はそっと笑みを浮かべる。
アムロが連邦の白い悪魔と呼ばれたモビルスーツパイロットである事は知っていた。
しかし、シャアが連れて来たのはパイロットとはとても思えない小柄な少年だった。
連邦の研究所で過酷な人体実験を受け、自力で食事を摂ることも困難な状態だった為、研究所では鎖骨の下辺りに挿した点滴で何とかギリギリの栄養を摂取していただけだったと言う。
そして、その細い腕には薬物を投与されたらしい注射痕がいくつも残されていた。
そんな地獄の生活から救い出し、外の世界から守ってくれた人間を少年が慕うのは自然な流れだろう。たとえ、それが戦時中敵として相対した相手であろうとも…。
そして、シャアもその少年をとても大切に想っているのが伝わって来ていた。
外出から戻ると必ず留守の間のアムロの様子を確認し、シャワーを浴びるよりも先にアムロの元に向かう。そこで他愛もない無い話をして暫しの時間を過ごす二人はとても楽しそうだった。
しかし、二人の間には何か、目に見えない距離がある事にも気付いていた。
特にそれを感じたのはアムロの『僕はシャアのものだから』という言葉を聞いた時。
端から聞いているとそれはまるで愛の告白の様に思えるが二人の間では決してそんな甘い言葉ではなかった。
その言葉を聞き、シャアが悲しい目をする事に気付いていながらアムロは敢えてその言葉を口にしている様に感じた。
そして、その言葉を言った後シャアの視界の外でアムロも辛い表情を浮かべていた。
此処に来た当初は実際にまだアムロは暗示に掛かっていたのだろう。そのセリフを言う時の目は虚ろで、まるでガラス玉の様だった。
しかし、日が経つにつれその瞳に命が宿り、その言葉が別の意味を成してきた。
その変化にシャアも薄々は気付いてはいたと思うが、自ら暗示を掛けた事実から、それが暗示によるものかアムロの本心なのか確信が持てなかったのだろう。
二人の心はいつも何処かですれ違っていた。
それは互いに肌を合わせた後も変わる事はなかった…。


老紳士は、此処がアムロの為の鳥籠である事を理解していた。
数人の信頼できる者だけを置き、おそらく自軍にはアムロの存在を知らせずに匿っている。
アムロも鳥籠に閉じ込められている事に気付きながら決して出ようとはしなかった。
此処は唯一二人が共にいる事が出来る場所なのだろう。
しかし、そんな生活ももう直ぐ幕を閉じる。
シャアは数週間後には連邦に潜入捜査に入るという。それを感じ取っているのか、日に日にアムロの様子が暗いものへと変わっていった。

「アムロ様。胃に優しいものを用意しました。少しでも結構です。お口に入れて下さい。」
ダイニングでは料理を用意してくれた老紳士の妻と女性の使用人が優しい笑みを浮かべて席へと促した。
「…あ…、は…い。」
アムロは戸惑いつつも席に座り食事を摂る。
そしてデザートにはアムロの好きな苺が出された。
それを口に含むとアムロが小さく微笑む。
「…美味しい…」
そう呟くアムロを見て、女性二人が目を見開く。
アムロの瞳からはポロポロと涙が溢れていた。
「ふふ…。凄く…美味しいです。ありがとうございます。」
「アムロ様…」
その様子に、アムロの心は限界に来ているのだろうと悟る。
「アムロ様、旦那様は決してアムロ様を手放したり致しません。ですから泣かないで下さい…。」
その言葉にアムロは少し驚いた様な顔をするが、直ぐに表情を隠し優しく微笑む。
「ありがとう…。」
けれど、使用人達にはひしひしと伝わってきていた。アムロが既に全てを諦めてしまっていると…。

アムロが部屋に戻った後、食器を片付けながら若い女性の使用人が溜め息をつく。
「何とかお二人がずっと此処に居られると良いのに…。」
「…そうね。」
老婦人も辛そうに答える。
「始めは連邦の白い悪魔が来るって言うからどんな野蛮な人間が来るんだろうって思っていたけど、実際に来たのは弱々しい少年だった。」
「……。」
まともに歩けない少年をその腕に抱きしめて心配げに見つめていたシャア。
食事の摂れない少年に自らの手で食事を与え看護していた。
甲斐甲斐しく世話を焼くシャアに、この少年は主人にとってどれだけ特別な存在なのだろうかと思った。
しかし、共に過ごすうちにシャアの心情が少し理解できるようになってきた。
アムロには『手を差し伸べたい』そう思わせる何かがあったのだ。


ーーーーー

翌日、予定よりも早く朝一番でシャアは屋敷の門をくぐった。
「アムロ…。」
ベッドに眠るアムロの髪をそっと撫ぜる。
「…ん…シャ…ア?」
まだ目の開けきらないアムロは虚ろな瞳をシャアに向けると、髪に触れる大きな手を両手で包み込み自分の頬に充てがう。
そして、その手のひらにそっと口付けた。
「…愛してる…ずっと傍にいて…」
それだけ告げると、すうっとまた穏やかな寝息を立て始めた。
「…アムロ…?」


アムロが目を覚ました時、そこにはもうシャアの姿は無かった。
「あれ?やっぱり夢だったんだ…。僕…変な事言った気がする…。」
アムロが顔を赤く染めていると扉をノックする音がする。
「あ、はい!」
「おはようございます、アムロ様。朝食の準備が整いました。」
「わかりました!直ぐ行きます」
アムロは急いで身支度を整えるとダイニングルームへと向かった。
「シャア…もう帰ってきたかな…」
ダイニングの扉を開けると、そこには待ち焦がれた人が優しい笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「シャア!」
「アムロ。おはよう」
「おはよう!帰ってたんだね!」
その言葉にシャアは一瞬驚いた顔を見せたが直ぐにいつもの様に微笑み返した。
『覚えていないか…』

一緒に朝食をとり、食後のコーヒーを飲み終えた頃、シャアがカップを置きながらアムロに告げる。
「大切な話がある。後で部屋に行くから待っているように。」
作品名:鳥籠3 作家名:koyuho