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奏で始める物語【夏】そのいち

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 すっかり葉桜となり、新入生もそれぞれの所属する部活を決めた頃。学校はゴールデンウィークに入ろうとしていた。
 教卓に立つ三年Z組の担任教師――坂田銀八は四方八方に跳ね上がる己の銀髪を触りながら面倒くさそうに手にしている連絡事項のプリントを読み上げている。内容はゴールデンウィーク中に生徒に与えられる課題、補講の案内、そしてお決まりの。
「まぁ、皆分かってるだろうが、休みだからって羽目を外しすぎないようになー。面倒な事になって折角の休みをそんな事で潰されるのは先生はごめんです」
「いや、思っていても言っちゃ駄目でしょう!?」
 定番の新八のツッコミが入ったところで銀八はプリントを教卓の上に置き、話を終える。
 公平を規してくじ引きで決められた席も皆既に馴染んできていた。近藤には残念な結果にはなってしまったが、銀八個人としては満足の結果だった。
 窓側の席の前から四番目。そこにお目当ての彼が居た。彼はよく窓の外を見ている。授業中は至って真面目に――他のやかましいZ組連中にも見習わせたい――受けているが、こういう時、HR等では殆どだ。
 あえて何故か、という事は考えない。銀八は彼を見る事が出来ればそれで満足だからだ。そして、ああやって余所見をしてくれるからこそ出来ることがあった。
「さて、土方君は先生の今の話をどのくらい聞いてたのかなー?」
 少し大きめの声でそう言えば、頬杖をして外を見ていた土方は身体を反応させた。生徒達の視線も緩やかに彼に集中していく。
「――聞いてました。課題をちゃんとして、羽目を外さないように気をつけろって」
「はーい。よく出来ましたー」
 わざとらしくパチパチと手を叩いて笑顔を向けると、苦虫を噛み潰したような不機嫌な表情になる。
 それを見ることが銀八にとって楽しくて仕方が無い。勿論笑っている顔が一番可愛いとは思っているが、どうも自分の性癖は特殊なようだ。
 己の欲求を満たした銀八は猿飛の「あーん! 私にもその馬鹿にしたような笑みを向けてください!」という雄叫びをまるっと無視をして、HRを終了させた。
 途端に気を抜いた生徒達が教室の独壇場に上がった。
 神楽と沖田がいつも通りくだらない話題で攻防戦を繰り広げて。風紀委員長として近藤が桂の長髪を注意したかと思えば、逆にストーカー行為を指摘され乱闘間近の険悪さに。銀八に飛びつこうとした猿飛に笑みを崩さずお妙が嫌味を言えば女子同士特有の陰険な空気が。
――うーん、どうにもこのクラスは通院した方がいい生徒が多すぎるな。
 今更ながら気付いた事実に頭を痛めることなく、銀八は欠伸をしながら教室を出た。扉を閉めた後に山崎の悲鳴が聞こえた。恐らくは土方に八つ当たりでもされたのだろう。銀八は口角が上がるのを抑える事が出来ない。
 自分でも大人げないと呆れるしかないが、銀八は好きな子にちょっかいを出したがる典型的な小学生の男子のスキンシップを行う。怒った顔で自分を見つめる土方を見ると幸せな気持ちになれるのだ。
 先程も言ったが、どうも自分の性癖は一癖あるらしい。
 所謂S思考。
 以前から薄々は気付いてはいたが、土方への恋心に気付いた頃からそれは徐々に銀八の奥底で頭をもたげだしたのだ。そして、それを至極容易く受け止めた銀八は己の欲望に忠実になった。四月中、銀八は土方に事ある毎にちょっかいをかけまくって、その度に変わる表情を見て心を満たした。
 決して土方をこの恋情に巻き込むつもりはない。だが、好きな子を前にして我慢しきれる程銀八は大人ではなかった。
「銀ちゃーん!」
 後ろから声をかけられ、首だけ振り向く。そこには便底メガネをかけた留学生の神楽と新八、そしてお妙の姿があった。それぞれ沖田や猿飛との戦いを終えて銀八を追いかけてきたらしい。
 足を止め、三人が追いつくまで待ってやる。
「何か用か?」
「銀ちゃん、ゴールデンウィークの予定はどうなってるアル?」
「予定? また何でそんな事聞くんだ?」
「実はですね。僕達皆で休み中の補講を利用して勉強会をしようって話があるんです。それで、どうせなら先生が出勤する日がいいなって」
「お前ら休みの日まで担任に会いたいか?」
 銀八としては素直にそう思い、気遣ったつもりだったのだが、神楽はそれが気に食わなかったらしい。頬を膨らませて不機嫌をアピールする。
「何言ってるアル!? 銀ちゃんは私達と会うのが嫌アルカ!?」
「嫌って……そうじゃなくてお前らがだなぁ」
 憤怒している神楽は銀八の胸倉を掴み、その身体を大きく揺さぶる。これは銀八が力を抜いているのではない。神楽の力が常人の域を超えているためである。
「ちょ、おま、やめ! マジきぼちわる……!」
 銀八の顔が青ざめるのを見て新八が慌てて神楽を止めに入る。
――「止めるなアル! お前は銀ちゃんと勉強したくないアルカ!? これだからダメガネは童貞だって女子達に噂されるアル!」「そういう問題じゃなくて、このままじゃ先生が病院行きになっちゃうよ! っていうか、何その噂!? 誰がしてるの!? 誰が流してるの!?」「勿論私アル!」「偉そうに言うことじゃねーだろぉぉぉっ!」――
 漸く解放され、苦しげに咳き込む銀八の背中を優しく撫でる手が。見上げるとそれまで傍観していたお妙が優しい笑顔で立っていた。
「神楽ちゃん、先生となら勉強頑張るって張り切ってたんですよ。他の子達も休み中なのに、先生と会えるなら登校してきてもいいって子が多くて」
 勿論、私と新ちゃんも――と、続け様に言われて銀八は視線を泳がす。
 自分が生徒から慕われる類の教師であることは自覚していた。しかし、こうまで直接的に言われるとむず痒いものがある。
 只でさえ普段はのらりくらりと本心を隠して生きている自分である、こういう時の子供の素直さは言葉の通り身に染みて色々考えさせられてしまう。
「――まあ、俺も受験生の担任としてそろそろ本腰いれなきゃならん頃か」
 呼吸が落ち着いた頃合に銀八は三人から視線を逸らしながら言った。
 途端に神楽はパッと花が咲いたような笑顔になる。
「本当アルカ!? 嘘じゃないネ!?」
「当たり前だろ。先生だぞ、俺は」
「いや、先生なら平気で嘘言いそうなんで」
 神楽にもぎ取られそうになりながらも死守したメガネを直しながら、平気で辛辣なことを言ってのける新八も、その表情は凄く嬉しそうだ。後ろに立つお妙も。
「あー、もう本当だ。本気だ。約束だ。ゴールデンウィークはてめぇらの勉強見てやるよ」
「やったアル!」
 両手を上げて喜ぶ神楽と新八達は早速皆に知らせてくると踵を返し、教室へ向かっていった。その背中を見送りながら銀八は不図思った。
――皆って、そう言えば誰が来るんだ? 土方来るかな? あいつ真面目だから勉強会だし、来そうだけど。
 その後、準備室に戻った銀八の元へ再び神楽達が姿を見せ、日にちと参加予定の生徒の名前が書かれた紙を銀八へ寄越した。そこにお目当ての名を見つけて銀八は口角を上げた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 胸を不安でほぼ占めていた新学期は早くも一ヶ月を過ぎた。