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ミスターN
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『雨上がりの夜』

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その言葉を聞いて、うれしくなった私は、美希の体を思いっきり抱き着いて、締め付けた。
「ありがとう!美希!」
「うわ~、苦しいよ、律子。」
「律子『さん』でしょー。」
「わかったわかったの。律子『さん』。」
 私は本気でうれしかった。私の中で美希の存在がどれだけ大きかったのか、失いかけて初めて気づいた。今まで「美希」という存在が当たり前だった時には、気づかなかったし、気づこうともしなかった。私は『竜宮小町』の担当プロデューサーである以前に、『765プロダクション』の一員だったのだ。美希も春香も千早も、みんなみんな、私たちの仲間だ!美希がそれを思い出させてくれた。
うれしくて、うれしくて、私はいつまでも美希に抱き着いていた。
 それから私は、美希のためにお茶を淹れ直してきた。今度はちゃんとお湯を沸かしなおしてきた。
私と美希はソファーに座って、お茶をすすっていた。
 美希が私に話しかける。
「律子・・・さん。3日前のこと覚えてる?ここで春香と亜美真美と話していたこと。」
 少し頭をひねって思い出した。
「演技の話、だっけ。」
「うん。泣くときの秘訣。」
 そうだ。美希はあの時、自分の秘訣については「秘密」にしていたのだ。
「ミキはね、悲しくて泣く演技をするとき、『家族』のことを思い出していたの。パパもママもお姉ちゃんも、みんなで私なんか最初からいなかったかのようにふるまって、3人だけで楽しく団らんを過ごして、私だけそれを遠くで見ている。そんな様子をイメージするだけで、悲しくて・・・苦しくて・・・あっという間に涙が滝のように流れてくるの。」
「美希・・・」
 そう言っている美希の目にはまた涙が浮かんでいた。
「だけどね、ミキ気づいたんだ。」
「何に?」
「765プロのみんなと離れ離れになっちゃったら・・・家族からハブられるのと同じくらい・・・うんうん、それ以上に、悲しいって。」
 美希は、カップを手に取り、ハーブティーに口をつけた。そしてカップをテーブルに置く。
「律子・・・さん、さっき私のために本気で泣いてくれたんだよね。恥ずかしがらずに、私のこと『好き』って言ってくれたんだよね。」
 言葉に出されると・・・恥ずかしいではないか!私、勢いに任せてずいぶん恥ずかしいことを言っていたのだな。
「あー、顔が赤くなってる。かわいいの。」
「うるさい!先輩をからかうもんじゃないの。」
 美希は屈託なく笑っていた。それもすぐにまじめな顔になる。
「ミキね、多分初めてだと思うんだ。美希のことを本気で『好き』って言ってくれた人。ミキは、そんな人を失いたくないって思ったの。」
「美希・・・。」
「律子・・・さんだけじゃない。春香も千早さんも、他のみーんなも、ついでにプロデューサーも、ミキにとって大切な人。そんな大切な人たちを失ったら、ミキ絶対すごく悲しいと思ったんだ。ミキ、絶対にそんな悲しい思いだけはしたくない。たった1回の人生なんだもん。だったら、やれることは、やってしまいたい!パパ・ママ・お姉ちゃんに軽蔑されるのは嫌だけど、それでもミキは・・・アイドルをやりたい!」
 私はにっこりとほほ笑んだ。
「今の言葉、そのままそっくりご両親方に聞かせてあげたいわ。美希がどんな決意で、アイドルを続けるのか。それさえわかれば、ご両親方もきっと気が変わると思うから。」
「あとはプロデューサーの腕次第なの。」
 私はフフフと笑った。
「そうね。でも大丈夫よ。あの人は、有能なプロデューサーだから。」
「少しは期待しておくの。」
 美希はティーカップをつかむと、最後の一口を飲み終えた。それに合わせて私もお茶を飲みほした。
 時計の方に目をやる。すでに時刻は午後10時半になっていた。
「さ、カップを片付けたら、家に帰ろうか。」
 美希の眉が潜まった。私はそれを見て満面の笑みを浮かべた。
「私の家に。」
「えっ?」
 美希は驚いたように、キョトンとした顔をした。
「さっき美希のお母様に、言われちゃったの。『もうあの子はうちの子ではありませんので、好きになさってください。』って。」
 その言葉を聞いて、美希が悲しそうに下を向いた。
 構わず私は続ける。
「だから私、美希を家に住まわせることにしたの。」
 それを聞いて驚いたようにこちらを見返した。
「お言葉に甘えて、好きにさせてもらうわ。うちはアパートだから狭いし、安給料だから実家みたいに贅沢させてあげられないけど、何とかやっていけるわよ。」
 驚いて目を丸くしていた美希の顔が、パッと花を咲かしたように明るくなった。
「律子さん!」
 よっぽどうれしかったのか、美希が私のもとにやってきて、私に飛びついてきた。
「こらこら、あぶないって。もう、美希ったら。」
「律子さん・・・律子さん!」
 笑顔で抱き着いてくる美希は、本当に愛らしくて、まるで妹ができたみたいだった。
「まったくもうー、美希は甘えん坊さんね。」
「律子さん、だーいすき、なの!」
 まったく・・・本当にかわいい子ね。この子は。
 私は美希のキラキラした金髪を、いつまでも撫でまわしていた。
 どれくらいたっただろうか。もう時間が深くなってしまったので、そろそろ家路につこうという事なった。
私は給湯室でティーカップを洗い、美希は服を自分のかばんに詰め込んだ。私は一足先に傘を持って玄関口へとやって来ていた。
「美希―、行くよー。」
「待って!今行くの!」
 美希も自分の置き傘を持って、事務所の扉の前まで来た。私が事務所を施錠するので、私が最後に出なければならないのだ。
 美希が小走りでやってきて、扉を開けた。
「あっ、雨止んでる!」
 私も事務所の電気を消して、事務所から内階段のところへと出た。これまでザーザーと降っていた雨が嘘のように止んでいたのだ。
「ほんとだわ。」
「じゃあ、もう傘はいらないね。戻してくる。」
 美希が事務所に又入ろうとする。
「いいじゃない。持って帰りなさいよ、また降るかもしれないし。」
 美希は笑って返すのだ。
「いいもん、その時は律子さんの傘に入れてもらうから。」
 私は傘を持って帰れというわけね・・・。普段なら突っ込みを入れるところなのだが、何だかかわいらしいから、許してあげよう。
「はいはい、分かったわよ。」
 美希が傘を置いて、事務所から出てきた。事務所を施錠して、階段を下りていく。外に出て空を見て気が付いた。まだ雨のにおいは残っているが、空は晴れ上がっている。これは万が一にも降りそうにないな。
「ねえねえ、このあとラーメンを食べに行かない?」
 美希がそう提案してきた。そういえば、私も美希も、プリンしか食べていない。お腹はペコペコだ。
「いいのー?夜にそんなもの食べちゃって。太るわよ。」
 美希は得意げな顔をした。
「いいもーん、ミキは脂肪が胸に行くタイプだから。」
「まったくもう。」
 私たちは笑いあっていた。まあ、今日くらいは大目に見よう。
「見て見て、星が出てるの!」
 空を見上げた美希が指をさした。美希が指さした方向には、北極星が瞬いていた。
「本当ねー、きれいだわ。」
「うん!」
 雨上がりの夜の空は、まるで今の私たちの心もちを表しているかのように、きれいに澄み渡っていた。
作品名:『雨上がりの夜』 作家名:ミスターN