螢
────それもそうね、ふふ。────
────でも、男なんでしょ、頑張って。────
幾らか山道を上った所で、霓凰は林殊の耳に口元を近付て、何かを耳打ちした。
「、、、、ホントに?」
林殊は霓凰に聞き返す。林殊の足が止まり、肩から顔を出した霓凰を見た。
霓凰が笑っている。
すると林殊は元気が出たようで、幾らか足取りが軽くなり、山道を上ってゆく。
────大丈夫よ、林殊哥哥に無理をさせたりしないわ。
ホントに疲れる前に、オンブは止めるもの。
耳の所を引っ張ると、哥哥はきっと怒って私を下ろすはずだわ。
昔、散々引っ張られて、もう嫌なのよね。ふふ、、、。────
霓凰は林殊の頭に頬をつけて、その肩を両腕で包み、ギュッと抱きしめる。
────私の、、、大切な人、、、、、。───
────今度こそ、共に歩んで行けますように、、、、。────
夏の夜気に包まれて、一歩一歩足を進める。
山道の斜面からは、合歓(ネム)の木が起ち、花を咲かせてるいる。
薄紅色の、洗った筆先が広がった様な花だった。
今夜の月明かりはさほど強くないのだが、ぼんやりと合歓の花が浮かび上がるようで、幻想的な光景だった。
この光景に願うことは一つだけだった。
─────二人の祈りは届くだろう。
────────糸冬──────────