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霓凰は手のひらで太皇太后の涙を拭い、優しく抱きしめた。抱きしめた霓凰もまた泣いていた。


その後、穆王府の雲南王と、林府からは林燮の代理として晋陽公主が呼ばれる。
林家としては、霓凰を嫁に迎えることには異論は無い。
いささか渋るだろうと予想していた雲南王だったが、太皇太后が仲立ちしてくれるのならばと、あっさりと了承した。
「私は、どうせ結べぬ縁ならば、早々に引き離した方が良いと考えていた。二人の事は誰も彼も皆知っているのだ。
二人がこのままの状態で、この先別の者と結ばれれば、その者から何かと疑いの目を向けられ、円満の家庭を築くのは難しくなるだろう。霓凰は女子であるのだ、尚更である。」
「たが、この難しい縁を太皇太后が縁を結んで下さるのならば、話は別である。」
「小殊もまた、この陵を背負う若者の一人となろう。そのような青年と縁を結べるならば、喜ばしい。」

そう、晋陽公主に言ったという。


何かと騒動はあったものの、これで晴れて林殊と霓凰の縁は結ばれた。
その夜、なんと穆王府は霓凰の部屋の前に、また林殊が現れたのだ。
「さすがに今晩は来ないと思ったのに。」
林殊は微笑んでいる。
そして林殊は、無言で小さな籠を渡した。
籠の内側には、麻製の黒い布が貼られている。
「これは何?」
「開けても良い??」
林殊が頷く。
ゆっくりと籠を開ければ、中には螢がいた。
水辺の草が、一緒に入っていて、螢はその草に止まって光っていた。
そして数匹が、ふわふわと光りながら籠の外へと飛んでゆく。
「今度は生きてたわ。」
「うん。」
また一匹と、籠から飛び出す螢をしばらく見ていた。
「またあそこに見に行ける?」
「うん。」
「今度は、堂々と行けるかな、、、。」
「うん。」
「もう!、"うん"ばっかり!!。」
「、、、、うん。」
林殊はここに来るまでずっと、何を話そうか、あれこれ考えていたのだ。
だが、うん、という言葉しか出てこない。
決して、霓凰とは結ばれぬと、いつからか諦め始めていた自分。
思いもかけず、こんなてん末になった事、太皇太后の苦悩や思い、霓凰の父としての心、雲南王としての心、、、、。
霓凰を目の前にしたら、何をどう話していいのか分からなくなった。
林殊は霓凰が持つ籠を受け取り、二人の間に置いた。
そして、霓凰の手を取ると、霓凰の部屋の前の階段へ歩いて行った。
林殊は階段に座り、手を繋いだまま、空いた手で隣に座る様にとんとんと段を叩く。
霓凰は、その通りに林殊の隣に座った。
林殊はしばらくダンマリのままであったが。絞る様に声を出した。
「びっくりしたな、、、、。」
「うん、、、、驚いたわ。」
色々と話したい事は沢山あるのに、林殊はもう、これ以上の言葉が出てこない。
会話の無い時間ばかりが過ぎ、霓凰はずっと螢が舞うのを見ていた。ふと横をを見れば、霓凰を見ていた林殊と視線が合った。
握った手に、少しだけ力がこもる。
どちらが求めた訳ではなく、、、、、互いに唇を重ねる。
ほんの短い口付けだった。
初めて交わした口付けだった。
繋いだ手から、お互いの鼓動や心が、混ざり合う様だった。

もう夏である。昼も夜も暑いこの季節。
だが今夜は、柔らかな心地良い風が時折そよぐ。
二人、いつまでも螢を見ていた。、



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


その後、あの川に螢を見に行く事は一度も無く。

林殊が赤焔軍に入ってしまったからだった。

だが、金陵にいる限りは霓凰の元を訪れた。
穆王府の塀を越えてではあったが。
雲南王は、薄情な婿、呼ばわりしたが、足繁く通ったら通ったで、これ又難癖を付けそうなので、霓凰はこの件は黙っておいた。
何度か立ち寄れぬこともあったが、文や土産を塀から投げ入れたり。
会えなくとも、離れていても、心は繋がり互いに存在を感じ合っていた。

あの日が来るまでは──────────。





......................................................



夜も進み、川の方から風がそよぎ、心地良い。
霓凰は水辺から少し離れた場所に転がった大石に腰を掛け、林殊はその近くに立って、黙って螢光り飛ぶ様を見ていた。
二人で螢を見たあの日、まさかその後に起こる悲劇など、どう見通せたと言うのだろう。

婚礼など、もう二人にはどうでも良く、"縁など初めから無かったのだ"とまで、周囲に言われた霓凰には、ただ一緒にいれるだけて幸せを感じるのだ。
二人共、夢見心地の毎日だった。
、、、いつまでもこうと言うわけにもいかないが、、、、、、、今だけは、、、。


もう、今は会えなくなった懐かしい人達が心に浮かび、この川辺に来てくれた様な、懐かしさと、優しさと、、、、。
まるで、二人を祝福してくれているような、、、。
螢達が連れて来てくれたのだろうか。
思い出と共に、その面差しやその声がよみがえり、心が優しさで満ちてゆくようだった。
争い事や、大切なものを守る為に、気の休まらぬ日々もあったのが、はるかに遠い事のようだ。
────会いたい─────
────梁は安定して、今はこうして二人でいる事が出来るのだと、伝えたい────

────いいえ、もうとっくに知っているのかしら────
霓凰に笑いが零れるが、、、つぅと一筋、涙が流れる。
だって、満ち足りているのだ、幸せなのだ。
ふと、林殊を見れば、霓凰の視線に気が付き、林殊もこちらを見た。
霓凰が、幸せそうなのが嬉しいのか、目を細めて穏やかに微笑んでいる。
────もうこの先からは、この笑顔が私を包んでくれる、、────
だが、ふと思い出したのだ。
────いいえ、違うわ。
昔からずっと、この微笑みに私は守られてきたのよ。
幼い日々も、、、、青春の日々も、、、、、、
側にはいなかった、あの日々も、、、、
そして諦めたあの日々も、ずっと、、、、ずっと私はこの眼差しに守られてきたんだわ。────

林殊が隣に座って、共に螢を見た。
「、、、、おばあ様を思い出した。」
「、、、、私もよ。」
二人、同じ事を思っていたのだろう。霓凰の涙は止まらない。
「泣き虫め。」
林殊が、頬の涙を指で拭い、霓凰の肩を引き寄せた。
互いに相手に自分の体を預け、二人寄り添い、懐かしい、大切な人々を想っていた。
忘れられぬ鮮明な過去、、、、あの頃に心は帰ってゆくのだ。



来た道をもどることにし、歩き出した。帰りは上りである。
二人、並んで来たはずなのに、霓凰が遅れていることに気がついた。
「どうした?」
振り返れば、十歩程後ろに、霓凰がつっ立っていた。
「林殊哥哥、、歩けない、、。」
「は?、なんで?私が背負ってここまで来たんたぞ。」
「、、、、つーかーれーたー、、、。」
霓凰はその場にしゃがみ込んで、うずくまってしまった。
「、、、、霓凰、、と、、、」
年を考えろ、と言おうとして、、、止めた。
無言でゆっくりと、霓凰に背を向けて林殊はしゃがんだ。
「ふふ。」
立ち上がった霓凰は小走りに近付いて、背中に被さる。
林殊は立ち上がってしっかり背負うと、歩き始めた。
だが、明らかに不本意そうで覇気は無い。
作品名: 作家名:古槍ノ標