光の翼
ゆっくりと息を吐き、それから銀二は自分の顔を掴むようにして覆い、笑いだす。
しばらくして森田は自分が口にした言葉に恥じ入るかのように小さくなった。格好をつけた言葉の一つ一つが、笑われても致し方ない気障なものだったことを思い返せば、顔が熱くなるばかりだ。
「……そんなに笑わなくたっていいじゃないですか」
「これが笑わずにいられるか、ええ?」
銀二はまだ笑いがこらえられないとでも言いたげに手の甲で口元を抑え、身を起こす。
「……どうせ俺には似合わないことを言いました」
銀二をかき口説いたのと同じ口で森田は拗ねた言葉を吐くとそっぽを向いた。
銀二は再び煙草に火をつける。今度は一口、二口と、自分を落ち着かせるように吹かして、灰皿で火を消した。
「……くれてやるよ」
静かに、まるで告解のように、銀二は告げる。
「こんな老いぼれの残りかすでよけりゃ、くれてやる。到底お前が捧げてくれるものとのつり合いはとれねーが……お前が望むんならいいだろう。で、どうする。俺を囲ってその後は? どっかの爺さんみたいに地下に閉じ込めて飼い殺すか?」
からかうように銀二は自分の両手を広げ、どうにでもしろと森田を誘う。森田は立ち上がった。そして、銀二に手を伸ばす。
「とりあえず、旅行なんてどうだろう? 銀さんが思うより、きっと世界は明るくて広いよ。俺は銀さんの翼なんだろう? 世界がどのぐらい広くて美しいか、俺が見せてあげる」
裏の世界に身を投じながらも光を失わなかった男は、闇を隅々まで照らすように眩しく笑った。