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甘い水の中で3

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甘い水の中で 3


シャアに監禁されてから、そろそろ一月程が経つ。鎖に繋がれた生活は鬱陶しいが元々インドア派で、幽閉生活にも慣れているアムロはここでの生活に特に不便を感じる事もなく、どちらかと言うとシャイアンに居た頃よりも快適に過ごしていた。
顔を合わせるのはシャアと数人の使用人。シャツ一枚の姿を使用人達に見られるのは流石に嫌だった為、シャアが居ない時だけでもと、なんとかボトムを手に入れた。
ただ、これまたシャアの物の為、裾がかなり長い。ムカつくが本当に長い。そして、ウェストもゆるい為、ベルトで締め上げ、裾も折り返して履いている。
十分恥ずかしいが足を晒すよりはよっぽどましだ。
今日もダボダボの服を身に付け、鎖をジャラジャラ引きずりながら部屋を歩き回り、大きめのソファに座ってコーヒー啜る。
「流石に良い豆使ってんなぁ。軍の支給品とはえらい違いだ。」
暇潰しに、何冊かシャアに手配してもらった本を読みながらコーヒーを啜る。
と、そこにドアをノックする音がする。
しかし、当然ながら外から鍵が掛かっている為アムロがドアを開ける事は出来ない。
シャアが来たのかとも思ったが、シャアはいちいちノックなんてしない。
何事かと思いながらドアを見つめていると、ガチャリとドアが開いた。
突然の事に驚き、開いたドアを凝視していると、そこから黒髪の青年…いや、まだ十代の少年とそれを追うように明るいブラウンの髪の美女がドアを開けて入って来た。
アムロはコーヒーカップを手にしたまま、ただ呆然と二人を見つめる。
そんなアムロの元に、黒髪の少年がつかつかと歩み寄り、まじまじとアムロを見つめる。
「あんたがアムロ・レイか?」
ぶっきら棒な物言いに少しカチンときて少年を睨み付ける。
「まずは自分から名乗ったらどうだ?」
「何!?」
そんな少年を一緒に入って来た女性が諌める。
「ギュネイ、待ちなさい。大佐の許可がまだ取れていない!」
女性は少年の腕を掴むとアムロに向き合う。
「お騒がせして申し訳ありません。私はネオ・ジオン軍大尉 ナナイ・ミゲルと申します。こちらはモビルスーツパイロット候補生のギュネイ・ガスです。」
丁寧な対応に、アムロも姿勢を正すと二人に向かって答える。
「アムロ・レイです。ここの鍵はシャアから?」
自分の閉じ込められている部屋の鍵を誰でも自由に手にできるとは思えない。おそらくシャアが渡したのだろう。
「はい」
「ならシャアの許可は下りてるって事でしょう?美女の来訪は大歓迎です。」
アムロはコーヒーカップをテーブルに置くと立ち上がる。
「よかったらコーヒーでも如何ですか?今、淹れたところなので。」
にっこり笑うアムロにナナイは戸惑いつつも「では、遠慮なく…」
と答える。
アムロは頷くと、コーヒーサーバーの元まで足枷についた鎖をジャラジャラと鳴らしながら歩いていく。
その光景を見て、二人が驚きに目を見開く。
「…その鎖は!?」
ナナイの問いにアムロが「ああ」と足枷を一瞬見て、ナナイに視線を移す。
「うるさくてすみません。シャアの奴に逃亡防止だって言って着けられたんです。全く、何考えてんだか…」
ブツブツ言いながらもコーヒーを淹れるアムロに、どう答えていいものかと視線を彷徨わせる。
当然、隣のギュネイも呆然と足枷と鎖を見つめる。
おまけにアムロの服装は明らかにサイズの合っていない、おそらくシャアの物で、その首筋には紅い刻印が刻まれている。
何となくアムロとシャアの関係を察するが口に出す事は出来ず、ただ促さられるままソファに座りコーヒーを受け取る。
二人の前に座り、アムロもコーヒーを飲む。
一口飲んでソーサーにカップを戻し、にっこりと二人に向き合う。
「それで?俺に用件って何ですか?」
優しく問うアムロにナナイは背筋を伸ばし、アムロに視線を向ける。
「実はアムロ大尉にお願いがあって参りました。」
「お願い?あ、その前に、もしかして俺がここに居るってずっと前から知ってました?」
「え?あ、いえ。アムロ大尉を捕らえた事は知っていましたが何処におられるかまでは…。」
「今日になってここに居るって知らされた?」
「はい。まさか総帥府内の大佐の私室にいらっしゃるとは思いませんでしたが…。」
と、そこまで話してナナイはハッとする。
そのナナイにアムロがニヤリと笑う。
アムロはここに来てから一切この部屋を出ていない。連れて来られた時も意識を失っていた為、この部屋が一体何処にあるのか分からなかった。
誘導尋問に嵌りまんまと場所を教えてしまったナナイは小さく溜め息を吐く。
「ははは。まぁ、でもここにあなた達を来させたって事はそろそろ出してくれるつもりだったんだろうし気にしないで。」
にっこり笑うアムロに、ナナイは
『ああ、一筋縄ではいかないかもしれない』と苦笑いを浮かべる。
「ごめん。話が逸れてしまったね。それで俺にお願いとは?」
「はい。実はこちらにおります、ギュネイ・ガスの教官となって頂き、モビルスーツパイロットとして一人前になるように鍛えて頂きたいのです。」
ナナイのその言葉にアムロが眉をひそめる。
「教官…ねぇ」
アムロはコーヒーを一口含むと小さく溜め息をつく。
そして、チラリとギュネイに視線を向ける。
「ナナイ大尉、彼は…強化人間ですよね。」
「よくお分かりになりましたね。」
「まぁ…ね。何人も見て来たから…。」
そんなアムロの物言いにギュネイが怒りを露わにする。
「なんだよ!強化人間なんて相手にしたくもないって言うのか!?」
憤るギュネイにアムロは小さく横に首を振る。
「ごめん。そんなつもりは無いんだ…。」
「じゃあ、何だって言うんだ!」
「ん…いや…。」
『今まで見てきた強化人間達は皆、辛い想いを抱え、悲しい最期を遂げて行った…。』
「ギュネイ、それくらいにしておけ。答えにくい事は誰にでもある。」
「大佐!」
いつの間に入って来たのかシャアが扉の前に立っていた。
「アムロ、私にもコーヒーを淹れてくれないか?」
「はぁ?自分で淹れろよ。」
優しく微笑むシャアに思い切り嫌な顔をして答える。
アムロのその態度にナナイとギュネイがギョッとする。
仮にもネオ・ジオンの総帥に自分でコーヒーを淹れろなどと、このスウィート・ウォーター、いや、この宇宙において誰が言えようか。
しかし、シャアは気にするでもなく。クスクス笑いながら自分でコーヒーを淹れに行こうとする。
「大佐!私が!」
思わず立ち上がるナナイを手で制すると、シャアは自分でコーヒーを淹れてソファに戻ってきた。
そして、当然の様にアムロの隣に座る。
「で、これは貴方の提案なのか?」
「いえ、私が大佐にお願いしました。」
咄嗟にナナイが答える。
「貴女が?」
「はい。私はニュータイプ研究所の所長をしております。」
「ニュータイプ研究所…」
アムロの眉間にシワが寄る。
「ギュネイについては元々ニュータイプの素養がありましたので、強化人間と言っても連邦が行っていた様な無茶な洗脳や投薬などはしておりません。パイロットとしての資質も申し分ありませんが、とにかく経験が無いのと、ニュータイプとの接触が一切無い為、ニュータイプとしての戦い方が解らないのです。」
作品名:甘い水の中で3 作家名:koyuho