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Lovin 'you after CCA 6

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Lovin 'you after CCA 6
~永遠のもう少し ~

“あともう少し その距離がただ遠い
恋になれない二人
好きでしょうがない 好きでもしょうがないと
わかっているのに”

カランっとグラスの中の氷が音を立てる。
琥珀色の液体の中で照明の光を受けながらキラキラと揺れる氷を見ながら、アルは愛しい人の瞳を思い出す。
「アムロ…」
ウィスキーの入ったグラスを手に取り、灯りにかざしてその輝きに見入る。
本当に欲しかった琥珀色の輝きは他の男のものになってしまった。
解っていた…、とうの昔に諦めていた事だが…やはり心の奥底では受け入れきれてはいなかった。
運命の波に揉まれながら一生懸命に生きる彼女の幸せを誰より望んだ。
そんな彼女を、できる事ならば自分が幸せにしたかった。
しかし、今、彼女に幸せを与えているのは彼女が何よりも望んだあの金色の男。
地位、頭脳、美貌、カリスマ性、全てを兼ね備えていながら、どこか弱い所も持つ男。そんな人間臭いところも彼の魅力の一つなのだろう。
そして、そんな男を自分も決して嫌いでは無かった。
アルは、「はぁっ」と溜め息を吐くと、一気にグラスの中身を飲み干す。
「僕もいつまでも情けないな…。」
病院がテロリストの襲撃に遭ってから、そろそろ1週間が経つ。
色々な事後処理が一段落ついて、ようやく自宅に帰る事が出来た。
アクシズショック後、ロンデニオンにアパートを借りて住んでいたが、アムロの妊娠を機に主治医としてスウィート・ウォーターに居を移した。病院に程近いところにあるアパートメントの一室でアルは一人、酒を煽る。
アムロの出産まではとにかくバタバタと忙しくしていたから気にも留めなかったが、それも落ち着き、誰も居ない一人の部屋にいる事が無性に寂しくなった。
「家庭が欲しいなぁ…」
アムロが連邦に復帰するまでは、月のアナハイムエレクトロニクス社の宿舎でアムロとカイルとライラの4人で家族として住んでいた。
偽りとはいえ、愛する人と可愛い子供達と暮らした日々はとても楽しかった。
アルは手元の端末を操作してアルバムデータを呼び出す。
画面に表示されたそこにはカイルやライラとアムロが微笑む映像があった。
自動再生で次々と映像が表示されていく。
カイルの誕生日を祝い、ケーキの上のろうそくを吹き消すカイルの嬉しそうな顔。ライラが誕生した時のもの。一緒にピクニックした時の…、そして、カイルを出産して少ししてからの…アムロがセイラの屋敷でカイルに授乳をしている映像。
確かカイルのDNA鑑定の結果を知らせに行った時のものだ、授乳をするアムロがあまりにも綺麗で神聖なものに見えて、思わず見惚れた。
そして、どうしてもそれを残したくてシャッターをきった。
アルは映像を止めてそのアムロを見つめる。
「アムロ…。本当に君の事が好きだよ…。」
グラスを手に、映像に見入るアルの瞳から涙が零れる。
「どうしたら…君を諦められるかな…」



翌日、まだ体調の安定しないアムロと双子達が入院する病室へと足を運ぶ。
コンコンと扉をノックすると中から愛しい人の「どうぞ」という声が聞こえる。
スライド扉を開けると、にこやかに微笑むアムロ…と無駄にキラキラした彼女の夫、そして彼の右腕であるナナイ大尉がこちらに目を向けていた。
「クワトロ大尉、ナナイ大尉もいらしてたんですね。」
「お邪魔しております。Dr.ウォレス。」
「ああ、アルフレッドか…。」
と言葉を返すクワトロ大尉にあまり余裕がない。
どうしたのかと側に寄ると双子の一人を腕に抱きあたふたしていた。
シャアのその動揺する気配を感じているのか赤ん坊が愚図り始める。
「どうした、なぜ泣く!?」
完璧な男が赤ん坊を相手に四苦八苦している姿はなんとも可笑しく、でもとても微笑ましくて思わずクスリと笑う。
「アルフレッド!笑っていないでなんとかしろ!」
「はは、すみません。立ち上がって少し身体を揺らしてみて下さい。」
言われるままに赤ん坊をあやすと愚図っていた顔が笑顔に変わる。
「おお!」
喜ぶシャアを、アムロがクスクス笑って見つめる。微笑ましい家族の光景。けれどそれがチクリとアルの心に痛みを与える。
そんな想いを首を振って振り払い、笑顔を作ってアムロに歩み寄る。
「体調はどう?」
手元の端末を操作して今朝の検温で測定した体温や血圧を確認しながらアムロに尋ねる。
「うん。今日は大分体調が良いんだ。双子達も保育器から出られたし順調だよ。」
微笑むアムロにつられて思わず笑みが浮かぶ。
「そうみたいだね。熱も無いし血圧も正常。そろそろ退院しても良いかな。他の医師とも相談して退院日を決めるよ。」
「ホント!?ありがとう!アル!」
「ああ、カイルやライラも寂しがってるだろう?ライラの時はカイルが寂しがって大変だったからね。」
「ああ、そうだったね。でもあの時はアルが毎日カイルを連れて来てくれたし、後半はカイルと一緒に病室に泊まってくれたから…。」
ライラの時は帝王切開だったのと、麻酔によりアナフィラキシーショックを起こして生死の境を彷徨ったアムロは結局1ヶ月程入院する事になった。
「いや、アレは僕じゃ手に負えなくって、体調が悪いと分かってたけどアムロに頼るために無理やり病室に泊まったんだよ。」
「カイル、毎晩大泣きだったんだって?」
「そうだよ!本当にもうどうしようもなくって、まだカイルは一歳だったから言葉は通じないし。」
「ははは」
「それに…、きっとアムロが苦しんでいるのを感じ取っていたんだと思う。」
カイルはニュータイプだ。幼い頃から人の機微に鋭く、特にアムロの事についてはその僅かな感情の変化にも敏感に反応した。
「…そうだね…。あの子…私が不安定な精神状態の時は絶対に私のそばを離れようとしなかった…。」
辛そうな表情を浮かべるアムロをシャアが見つめる。
そんな二人に少し心が痛む。数々の障害を乗り越えて、ようやく二人と子供達は共に居ることができる様になった。
…7年…、それは本当に長い年月だ…。でも、アムロは諦めなかった。それ程までにアムロはシャアを愛していた。
「アクシズショックの後…、ラー・カイラムからネオ・ジオンに戻るクワトロ大尉にカイルがついて行くって言った時、本当に驚いた。」
「アル?」
「でも、カイルは感じ取っていたんだね。クワトロ大尉と心が通じて…一緒にいる様になって…アムロの心がとても安定した事を…。だから離れても大丈夫だと判断したんだ。」
僕では与えられなかったアムロの心の安定。
分かってる…分かってた。好きでしょうがない…でも、好きでもしょうがないって事は…。

「カイルやライラが生まれた時…アムロの側には君が居たんだな…。」
ふと、シャアが赤ん坊を見つめ悲しげな表情を浮かべる。
そんな彼に小さく溜め息を吐く。
「貴方が僕に言ったんでしょう?アムロを側で支えてくれって。」
「それはそうだが…」
何か納得いかない、というか、寂しげな男に少し同情する。しかし、今は全てを手に入れてるだろう?と少し嫉妬も覚える。
けれど、結局なんだかんだ言っても自分はこの男を嫌いになれない。
作品名:Lovin 'you after CCA 6 作家名:koyuho