春を待つ頃
「来月から、パリに駐在することになったよ」
一息ついたところで、サーシャが言った。なるほど、それでここへ来たのか…と俺は思った。動揺を抱えたまま国外へ出るのが不安だったのだ。西側へ赴く前に、本音は本音として吐き出したうえで、自分の進む方向を見定めて舵を切りたかったのだろう。目の前の彼はもう揺らいではいない。またエセ外交官だ、と言って笑う彼の顔に、先ほどまでの迷いの色はすでになかった。
「いいじゃないか。君には外交官役が似合ってるぜ」
俺がそう言うと、サーシャはおどけたように肩をすくめて見せた。
再びストリチナヤに手をのばしながら、俺はふと、今年いちばんのマツユキソウをジーナにも見せてやりたくなった。ガラじゃないことぐらい分かってるが、たまに俺が花を買ったって、バチは当たるまい。
俺は何気なく尋ねてみる。
「…ところでマツユキソウ、どこで売ってたんだ?」