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バウムクーヘンの正しい食べ方 (仮)

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 ここ数日立て込んでいた事件の送検が無事完了し、つかの間の落ち着きを取り戻した取調班。いつもは議論が活発な控室も、今は取り調べの事後処理で静まっている。
 報告書を書くペンが走る音、身動ぎに合わせて椅子が鳴る音、ウォーターサーバーの駆動音。そして、床を滑る足音。静寂は、管理官席の前に立った真壁によって、唐突に破られた。

「梶山」
「なんだ」
「あ、いや……管理官。今ちょっといい?」

 その改まった口調に、声をかけられた梶山は作業途中の書類を脇へ追いやった。そして、了承の言葉の代わりに姿勢を正して話を促す。
 「どうぞ」と言わんばかりの目を向けられた真壁は、視線をそらして逡巡すると、顎をくいっと上げた。「外で話そう」の合図だ。

「なんだい。俺たち、お邪魔か?」
「妬けますね」
「ちょっと、勘弁してください〜」
 立ち上がりざまにかけられる冷やかしの声と、それを呆れたような笑顔で嗜める声。

 キントリのおじさまたち、誰が呼んだか通称“おじキン”は、チームの若手未婚コンビを事あるごとにからかっては、楽しんでいる。
 もっとも、若手と言っても、還暦近いおじさまたちと比べての話ではあるし、未婚と言っても、かたや死別、かたや離婚の“前持ち”ではあるのだが。潤いに欠ける取調室においては、これが結構、旬な肴となっている。

 そんな、いつもと変わらない日常だった。