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DEFORMER 9 ――オモイコミ編

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 まだ、答えが見つからない。
 待ってほしい、まだ、もう少し、俺に時間をくれ!
「やめろ、お前が血を流すことなどない」
「そんなわけに――」
「私のために傷など作るな!」
「黙ってろって、言ってるだろ!」
 アーチャーとナイフをめぐって鬩ぎ合う。
「士郎、手を離せ」
「嫌だ!」
「お前が血を流すことなどない」
 血を流すとか、そんなこと、どうだっていい。今はただ、アーチャーとの時間を引き延ばしたいんだ。
 だから、譲れない。
「手を離すんだ、士郎。お前をこれ以上傷つけるのは、たとえお前がいいと言っても許さない」
きっぱりと言い切るアーチャーに、もう反論とかも出てこない。
「っ……、……っ……」
 まだだ。まだ……、俺は……。
 何度も首を横に振る。
 頼むから、まだ、俺に時間を……。
 言葉にもならず、声すら出せず、ただ、俺は嫌だと首を振るしかない。
「士郎……手を…………、っ……」
 俺の意志が固いことに諦めがついたのか、アーチャーは小さく息を吐く。
「……では、指の先に」
 アーチャーがナイフを取り上げて、俺の左手を取り、刃を小指に触れさせる。たいした痛みもないのに、赤い線が指先にできた。
「すまない……」
「なに、謝ってんだ、これは、俺が未熟なせいで……」
 ざらりとしたアーチャーの舌の感触に、ぞわ、と首筋が震えた。
「っぁ……」
 別に、アーチャーの舐め方がいやらしいわけでもないのに、俺の小指を咥えたアーチャーを見て、体温が一気に上がる。空いた手で口を押えた。変な声が漏れそうだ。
「っ……ぅ……」
 傷口を強く吸われて、少し痛んだ。
 必死に、まるで、渇ききっているみたいに、滲む血を吸っているアーチャーを垣間見る。
 顔が熱くなってくる。たぶん俺は、首筋まで真っ赤だろう。
(やっぱり飢えてるんだろうな……)
 現界すれすれで、アーチャーは魔力に飢えているから、小さな傷口から滲み出る俺の魔力を含む血を、アーチャーは必死に……。
(アーチャー……)
 胸が、きゅう、と詰まってくる。
 伏せた瞼、白い睫毛が鈍色の瞳を隠して、久しぶりに近くにアーチャーがいることを実感している。
 そっと白い髪に触れれば、アーチャーはハッとしたように俺の小指から口を離した。
「すまない。痛かっただろう……」
 首を振って否定する。そんなのどうってことない。
「平気だ。それより、ごめんな、こんなのじゃ……、足りないだろ……」
「……ああ」
 俺の手を離したアーチャーは目を伏せたままで答える。
「遠坂に、頼んだから……」
「な……、凛と直接供給をしろと言うのか?」
 目を剥くアーチャーに慌てて補足する。
「ち、ちがっ、そ、そうじゃ、なくて、遠坂が、しばらく、魔力を補填してくれるって、話になって……」
「……そうか」
 ほっとした顔をするアーチャーに胸が熱くなる。
 アーチャーは、以前と同じに、マスターである俺からしか供給を受け付けないって思ってくれているみたいだ。
 どくんどくんと脈動がいつもよりも速い。同時にずきずきと胸が痛い。今すぐにでも流されてしまいたくなる。俺は無条件でアーチャーを引き留めたくなる。こんなんじゃ、ダメだってわかってるのに。
 ちゃんと話さなきゃならないのに、俯いてしまう。遠坂と話し合ったことをアーチャーに話して、アーチャーの了承を取らないといけないっていうのに、俺を見ず、視線を落としたままのアーチャーを、ただ見ているのは、やっぱり難しい。
 どれくらいそうしていただろう。俺もアーチャーも突っ立ったままで、俺たちを目にした人は、暑い最中に何をしているのかって訝しがるだろう。
「士郎……」
 不意に呼ばれて、迷いながら顔を上げる。アーチャーと視線がかち合った。
 頬に触れる手が温かい。鈍色の瞳が俺を映している……。
 そのまま瞼を下ろそうとして、キスを待っている自分に呆れた。
(こんなのは……ダメだ……)
 何も結論が出ていない。流されてはダメだ。
 再び項垂れて、アーチャーの胸をそっと押し返した。
「ご……、めん、俺、まだ、割り切れなくて……」
 言い訳は、アーチャーを責めるような言葉になってしまった。そんなつもりはないのに、ただ俺がきちんとしないといけないだけなのに……。
「……ああ、そうだな」
 アーチャーの声が自嘲を含んでいて、その顔を見ることができなかった。
 傷つけたと思う。俺だってキスを拒まれたらショックだ。
「ごめん……」
 謝ることしかできない。
「いや、私も……、謝らなければならないことばかりで……」
 アーチャーの声は聞いたこともないくらいに弱々しい。
「か、帰ろう、魔力も十分じゃないんだし、その、暑いし……」
「……ああ」
 歩き出した俺の少し後にアーチャーは続いている。
(並ばないんだな……)
 気配は感じるけど、なんだか、このまま消えてしまわないかと不安に駆られる。だから……。
「ん」
 振り返って手を差し伸べた。
「士郎?」
「早く」
「あ、ああ……」
 催促すれば、アーチャーは近づいて俺の手を取った。
 握り合っていない、ただ掌を重ねて、ほどけない程度に軽く指を曲げているだけ。
 だけど、肩に触れる温もりが感じられる。
 見上げた横顔は、少しだけ笑っていて、なんだか、泣いてるようにも見えた。


DEFORMER 9 ――オモイコミ編 了(2017/7/29)