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DEFORMER 9 ――オモイコミ編

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 くすくすと笑う遠坂に少しムッとした。
「だからね、アーチャーがロンドンに行くって言った時に、帰ってくるまでにフォルマンの魔術をマスターしておこうって、ね」
「え……?」
「アーチャーを座に還す気は、あんた以上に、私はなかったのよ」
 驚きで何度か瞬く。
「今もその気持ちは変わらない。守護者なんてロクでもないことやってるより、私は、あんたの傍でアーチャーに笑っていてもらいたい。それは、聖杯戦争の頃からの私の微かな願望。こんな形で叶えられて、正直、驚きだし、棚ボタだと思っていたの。できれば今後、家事雑用で雇いたいとか考えてもいるし」
 ぽかん、として、遠坂を見つめる。
「ま、それは、今は関係ないわね。とにかく士郎、あんたがどうしたいのかをきちんと考えて。それまで、私がサポートするわ。ただ、無期限、というわけにはいかないから、ひと月の猶予ってことで、いいかしら?」
「う……ん……」
 一か月で答えが出るんだろうか?
 そんな自身はないけど、頷くしかない。とりあえず現状維持で、俺に考える時間を与えてくれる遠坂に感謝だ。
「あ、一つ言っておくけど、ほんとに現界ギリギリの魔力しか与えないから、無理はさせないほうがいいわよ。アーチャーにもその辺、きちんと説明しておいてね。あと、もちろん無料ではないから、あとで請求書、書いてあげる」
 遠坂は、ちゃっかりしていた……。



 あれから――クロスケからアーチャーが抜け出てから二日、遠坂の話をアーチャーに伝えないと、とは思うけど、話をする勇気と、なかなか踏ん切りがつかないのとで、アーチャーを呼べない。
 アーチャーは気を遣っているのか、姿を見せない。だから、早く話をしなきゃって焦りつつも、ほっとしていた。
 だけど、そんなに悠長なことをしている場合ではなかったことに、俺は気づかされることになる。
 朝食の後片付けを終えると、
「士郎」
 その声に振り返る。
「少し、付き合ってくれないか」
 驚いたままで、すぐに声が出ない。
「士郎、少し――」
「い、嫌だ」
 思わず口から出たのは、拒否の言葉だった。
 少し目を瞠ったアーチャーは、すぐに目を伏せた。
「最後くらい、いいだろう?」
 その言葉にもその表情にも、ぎくり、とする。
「わ……わかった……」
 断る理由を見つけられなくて頷く。
(最後だなんて……)
 そんな言葉をアーチャーから聞くと、落ち着かなくなる。
 本当だろうか?
 大袈裟に言ってるだけじゃないのか?
 隙を見て、また供給しようとするつもりじゃ?
 疑念が拭えないままアーチャーについて家を出て、少し前を行く背中を垣間見る。
 変わらないと思う。
 聖杯戦争の時とも、俺たちが恋人だとか銘打っていた時とも、全然、アーチャーの背中は変わっていない。
(なのに……)
 気持ちが冷めたとか、そういうことじゃないのに、見え方が違うと思う。
(無条件に追える背中じゃなくなってしまった……)
 俺が引き留めたりしてもいいのかどうか。俺が好きだなんて言ってもいいのかどうか。アーチャーは、今、俺をどんな風に……?
 俺を好きだと言ってくれたけど、それって、どういう“好き”なんだ?
 嫌いじゃないって程度か?
 それとも俺と同じような?
 確かめようもないし、そんなことを訊く勇気、もう……。
 前を行く背中は、なんにも答えをくれない。
(どこに行くんだろ……)
 アーチャーの行動が読めるわけもなく、アーチャーの考えすらもわからず、疑念は膨らむばかりで、アーチャーの向かう先に不安を覚えた。
「どこ、行くんだよ」
 どうしようもなくて訊いたけど、アーチャーは答えない。
 ますます不安になる。拘束されているわけでもないから、勝手に家に帰ってしまえばいいと思うけど、それは人としてどうかと思う。
 橋を渡って、新都側の川べりへ至って、そこは、いつだったか寒い中、二人でいようって俺が言った場所だった。
「何しに……来たんだ?」
 なんだか居心地が悪い。あんなことを言った自分を思い出さなきゃいけないのは、どうにもいたたまれない。
 川面を見つめる背中に訊いても、アーチャーは答えない。
「暑いしさ、も……」
 アーチャーの姿が一瞬、ゆらりと霞んだ。
「え? あ、アーチャーっ?」
 振り返ったアーチャーは、笑っていた。
「なに、笑って……」
「やっと、私を呼んだな」
 アーチャーは笑っている。だけど、その笑顔は、ひどくせつなげに見えた。
「士郎、何一つ守れなかった。一緒にいようと言ったのに、お前の傍にいると誓ったのに、私はお前を傷つけただけだった……」
 急に、何言ってんだ……?
「すまなかった。高校最後の夏に、なんの思い出も作れなかっただろう。私は一つも約束を守れなかった。お前とずっと一緒だと……、休みになれば、どこか近場でもいいから出かけようと……、祭りも、花火も、墓参りすらも、お前と交わした約束を、私は全て反古にした。
 結局、私は、お前を貪っただけだったな。魔力供給を名目にして、お前を凌辱した。あの魔術師と変わらない。私も、お前を苛んだだけだった……、すまない」
「な……に……」
 急に、なんだよ?
 消えそうになって、最後だとか言って……。
 謝られても困る。
 そんなこと、一緒にいられないからって、なんの思い出も作れなかったからって、それに凌辱って、そんなこと、された覚えなんかない、俺は、あんたと……。
「強く、生きてくれ……、お前は、私などいなくとも――」
「勝手なこと、言うな!」
 何、言ってるんだ!
 何、ひとりで何もかもが終わったようなこと、言ってるんだ!
 勝手に、終わらせるな、あんたがいなけりゃ……。
「アーチャーは、いないとはじまらないアイテムだって、言ったはずだ!」
 ここで、この場所で、冷たい風の中で。
「士郎?」
「なんにも守れなかったんなら、今から守れよ! 俺のことも、約束も!」
「士……」
 数歩の距離を一気に詰めて、アーチャーの腕を掴んだ。
「士郎……」
「許さないからな」
「ああ、そうだな、私は、士郎に酷いことを――」
「勝手に消えるとか、許さないからな!」
「いや、それは……」
「うるさい! 黙ってろ!」
 とにかく、すぐに供給しないとまずい。
「どこか……」
 アーチャーの腕を掴んだまま、新都のビル群を見遣る。
 この近くにラブホテルはないし、家までは距離がある。
 どこに行けば、供給ができる?
「…………っ……」
 供給しなければ、と思ってから気づく。
(できるのか、俺に?)
 アーチャーと直接供給なんか、今の俺に、できるのか?
「…………」
 もちろん結論は、できない、と出た。
(どうする……)
 時間はない。早く魔力を与えないと、アーチャーは消えてしまう。
(そんなのは……嫌なんだ……)
 みっともないけど、情けないけど、俺はまだ、アーチャーを……。
「と、とにかく、」
 他に方法が見当たらないからナイフを投影した。
「士郎、それはだめだ」
「だけど、今すぐ供給しないと、」
 アーチャーの腕を掴んでいた俺の手首に、刃を当てようとしたけど、その手を掴まれて、アーチャーに止められる。
「きょ、供給しないと、消えちゃうだろ!」