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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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損と嘘【スパコミ・サンプル】

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 あの夜の事件から暫くたった夜のことだった。
 帝人が非日常の中心に立ったのだと錯覚する程の夜から一晩経った翌日は、あの夜が嘘のように日常のままだった。
 ハンズ前に集まった大規模なダラーズの集会さえも池袋という街は一夜にして飲み込んでいく。
 ただ、翌朝帝人のに親友の紀田正臣が興奮気味に聞き伝えだと語たる話を笑いながら聞くだけだった。彼が大袈裟に語る度に、そして知らないことも混ぜる度に、驚きながら帝人はアレが現実であったと改めて確認する。
 それ意外は何も変化の無い日々だった。ただ、以前より格段にダラーズの噂を耳にする程度で、街は変わらずに動いている。
 もう何も起こらないのだろうか、このまま日常に埋もれていくのだろうか、それに安心しつつも惜しいと思う気持ちを帝人は抱えていた。


 そんな夜だった。


 いつもの定例チャットを済ませた後、帝人の収入源たるネットビジネスを片付けていた。今日のチャットはいつものメンバーに一人足りなく、管理人ある『甘楽さん』が現れなかった。
 珍しいこともあると『セットンさん』と話していたところだった。
 ネット上では『彼女』ということになっている『甘楽さん』の正体は、折原臨也だ。それを知ったときは少なからず動揺した。同時に、少しばかりの寂しさも感じた。
 ダラーズを創設した頃。徐々にメンバーも抜けていき、親友とも連絡が取れなくなった帝人に声を掛けてきたのは甘楽だった。
 甘い響きの名前と、豊富な話題の『女性』に未だ交際経験のない帝人が心惹かれるのは仕方が無いことだ。
 チャットを続けていくうちに少々難儀な人だとは思ったが、何処か憎めないところがあった。そうでなければ、このチャットを続けはしなかっただろう。
 少なくとも、帝人には『彼女』への少なからずの好意はあったのだ。それが砕かれたあの夜は、少し切なくて嬉しかった。見破れなかったことへの自戒と、彼女の正体を知ったほんの少しの優越感があったからだ。
 『彼女』の不在に少なからずの不安を抱きながらチャットは進んでいった。セットンに急な仕事が入りお開きになるまでそれは続き、その後帝人は仕事を片付けていた。
 仕事も終え、後は寝るだけだと気が緩んだ瞬間、その音が部屋に響いた。
 チャイムというよりかは、ブザーに近い玄関ベル音が低く室内に響いた。古いアパートに備え付けられたそれは、年輪を感じる鈍く低い音を立てる。滅多にならないそれが、こんな夜中に鳴るとは思わず、ビクリと帝人の背筋が震えた。
 恐る恐る、慎重に扉を開けた先には、笑顔の折原臨也が立っていた。衝動的に閉めたくなるのを堪えて、用件を伺う前に青年が口を開いた。
「悪いんだけど、匿ってくれないかな」
 彼の声はとても甘く、騙り名である『甘楽』のように甘く弾んだ声で囁く。
「間に合ってます」
 衝動的に帝人の口から出た言葉は、勧誘を断る為の言葉だった。不釣り合いなそれに臨也は笑いながら応えた。
「匿ってくれないなら、ここでシズちゃん迎え撃つけど、いい?」
 言葉よりも意味に震えた帝人は、ゆっくりとチンを外していく。これ以上このアパートを壊されては困るからだ。
 つい先日も、あの夜のきっかけと帝人にとってはなった事件もこの部屋で起こった。矢霧製からの刺客に襲われた日、玄関が壊された。壊したのは、目の前にいる臨也なのだが、その踏み込みがあったお陰で今の帝人がいるのだから、臨也を恨むことは出来ない。
 その後、修理と管理人への説明なども彼が全て受け持ってくれた。どう言った説明をしたのかは分からないが、管理人からは酷く心配された。古いアパートの中でこの扉だけ新しく、そしてセキュリティは少しだけ向上している。
「シズちゃんが遠ざかるまでで、いいからさ」
「少しだけですよ」
 お願いとおどけたように両手を合わせる臨也に、仕方がないと室内に勧める。もとより何もない部屋は、見られて問題のあるモノなど何一つもない。
 ただ帝人が気に掛かったのは、本当に臨也の天敵である池袋の喧嘩人形平和島静雄が近くに居るのかというところだった。彼がここに臨也が居ると知れば、こんな古い木造のアパートなどひとたまりもないのだ。木造だろうか、新しかろうが、静雄の前では紙くず程度でしかないだろう。標識を引き抜き、自販機を担ぎ投げる男だ。それを見る度に、池袋の天気予報は雨よりも、花粉よりも、自販機や血の雨を警報した方が良いと思うほどだ。予測できないことが、恐ろしい程にそれらは日常に溶け込んでいる。
「お構いできませんけど」
 どうぞと促せば、臨也は遠慮を微塵も感じさせない足取りで室内へと進んでいく。まるでこの部屋の主のようだ。冷蔵庫すらない帝人の部屋には、人を持てなす用意などあるはずもなく、もちろんするつもりもなかった。むしろ、なにか手土産の一つくらい持って来てくれればと思うが、それが平和島静雄だと言われれば黙るしかない。
 痩身とはいえ、あの静雄と渡り、逃げ切れるだけの筋力を持った臨也の身体は、不思議な程に重さを感じさせない足取りで畳に腰を降ろした。臨也よりも軽いであろう帝人が歩くだけで、軋むボロアパートでは考えられないことだ。
「気にしなくていいよ」
 そう微笑む臨也に、気にして欲しいと帝人は思う。もうすぐ日付が変わろうかとという程の時間だ、深夜と言っても過言ではない。常識的にアポなしで人を訪ねる時間ではない。
「いやー、こんな時間なら居ないかなって思ったんだけどさ、出くわしちゃってさ」
 非常識だということを臨也が理解していることに帝人は安堵したが、それでも訪ねて、助けを求めてきたということは緊迫した状況だったのか、そんな態度は初めてみた。街で見かける二人は助けを求めるとかそういった様子を見せずに、静雄の猛攻を軽やかに避ける臨也の姿ばかりだ。
「それでどうして僕なんですか?」
「えっ? 近かったから、この辺だったよなって思ってね」
 それ以上の理由はないだろう。ただこの辺りに臨也が用があるとは思えず、ここまで逃げてきたのか、逃げた先がこの辺りだとかそんなところだろう。
 今日のチャットに現れなかったのは、逃げ回っていたということか、当然と言えば当然の内容に帝人は心配していた自分を馬鹿らしいと思ったが、逃げている相手のことを思えば生死の関わる問題でもあったと思う。
 だが、既に寛いでいる青年の姿を見ると、とても生命の危機から逃れてきたとは思えない余裕を感じる。玄関前に立っていた時も、息一つ乱すことなく涼しい顔で立っていた。本当に彼は逃れてきたのか、疑わしく感じる。


続きは本で~