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「何か願い事はありますか?」

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 「人間に、なってみたい」
 それなりの覚悟を持って発した願い。
 悪魔は、それまでとまったく変わらない素振りで
 「お安い御用だ」
 と言うと、背中から真っ黒くて大きな翼を生やした。
 そして、両手を前に揃えて
 「その前に、一つ」
 その動きを私の言葉が制した。
 「…なんでしょう」
 とくに気分を害した様子もなく、手のひらの上の何かをかき消すような仕草をしながら、悪魔がこちらを見た。
 「その願いは、息子も一緒に叶えてもらえるのか?」
 悪魔の瞳が、丘向こうで満足そうに横たわっている彼の方へと向いた。
 「息子?…あぁ、二つ目の願いがまだ有効か、ということですね。まぁ、『同じ願いを』という文言でしたから。それに…今更二人に増えようと、もとが鯨ですからあまり変わりませんし。お安い御用だ、かまいませんよ」
 答えを聞き、一つ息を飲む。
 そして、意を決してそれを問うた。
 「その場合…あんたに食われるのは私だけか?」
 音もなく翼が消えた。
 悪魔は、しかしとくには表情を変えずに
 「どうして、それをご存知なのですか?」
 ただ静かにそう聞いた。
 「これでも、我々の情報網は広いのだ。我々の仲間は世界中にいるし、我々の声は水を通して遠く長く響いていくからな」
 「そうですか…覚えておきます。では何故、それを知っていて僕に願ったのですか?」
 「我々鯨は、この深くて暗くて寒い海で一生を終えるものだ」
 それが自然の道理。鯨として生まれた以上、そのことに不満はない。
 「だが…あんたが私の前に現れたときに思ったんだ。可能なら、息子にだけは外の世界を見せてやりたい、と。そして噂通りなら、あんたにはそれが出来る」
 「なるほど。では、自分を条件に含めたのは?」
 「あんたは食材になんらかの感情を味わわせてから食うのだと聞いた」
 「…そこまで噂になっていましたか」
 私の言葉に、悪魔はため息をつきながら頭を抑えた。
 「それに…私はもう十分生きた。あとは息子が好きなように生きてくれればそれでいい」
 息子は、とうに独り立ちしてもいい頃だ。人間になったあとは、簡単に状況説明だけしてやってあとは別々に暮らせばいい。
 「そういうことですか。納得しました」
 「何か問題があるか?」
 「先に答えたとおりです。願いに問題はありませんし、あなたの事情は僕には関係の無いことです。…あぁ、一つだけ問題があるとしたら…」
 「なんだ?」
 「その事情が、息子さんにバレないよう気をつけてください」
 「…ああ」
 そうして悪魔は再び、その背から真っ黒くて大きな翼を生やした。
 前に揃えられた両手から炎が立ち上る。
 深海にも関わらず揺らぐことのないその炎を見つめていると、吸い込まれる感じがして、気がつくと私は