春宵恋景色
桜もそろそろ見納めだってのに、全く冬将軍もそろそろ政権交代を考えたらいいんじゃなかろうか。
『――区間は現在大雪警報が出ている影響で運転を見合わせております』
構内アナウンスを聞いて、とっととタクシーを使うにはわりと躊躇を必要とする自宅に帰る選択肢を捨てたのは正解だった。
連休前に何としても、と必死の思いで(長門の力を借りながら、ではあるが)懸案事項を片付けたその矢先に出戻りするのは正直癪だ。
だが、やけに広い会社の仮眠スペースには、誰が持ち込んだか知らないがヒーターに加えて湯たんぽとフットバスまで常備してあるし、不必要なまでに設備も良い。
何てったって、会社のエントランスに佇む受付嬢の朝比奈さんと黄緑さんのお出迎えに勝る暖房器具は俺の家には無いからな。
おかえりなさぁい、と、あら忘れ物ですか、をしっかり目に焼き付け、エレベーターに乗り込む。
なんとなく病室を彷彿とさせるドアを開けると、会社の一部とは到底思えない程豪華なその部屋は、予想通りからっぽだった。
「いやー今日も眼福眼福・・・・・っと」
何しろ事故とはいえ一日2回も天使達のお出迎えを受けてしまったんだし、明日にでも谷口辺りに自慢してやろう。
家族サービスで連休が全滅だぜ、一日ぐらい休ませろよなどと傍から聞けば幸せ極まりない愚痴を一日中聞かされたお返しだ。
最近はめっきり酒の付き合いにも顔を出さない腐れ縁の友人は、昔の軽々しさからは想像もできないが驚く無かれ、目下二人の愛娘にご執心である。
奥さんが厳しくってお小遣いくれないらしいよ、と爽やかに旧友の家庭事情を酒の肴にしていたもう一人の腐れ縁も、今頃は家族団欒の真っ最中だろうか。
「はー・・・・」
フローリングに似せた模様のリノリウムの床に、溜め息が響き渡る。