【APH】間際の恋
あァ、二進も三進もいかない。
身動きの出来ない間際ならば、いっそこの身を投げ出してしまおうか…。
「お慕いしております」
率直に告げた言葉は、
「おう。俺もお前のこと好きだぜ」
あっけらかんとした言葉で返され、その放たれた言葉の中に望むものは一欠けらも無く、玉砕。いっそ、抱きついて接吻のひとつでもしてやれば、気付くのでしょうか…と、本田は物騒なことを考える。目の前のギルベルトは黙り込んだ本田を不思議そうに見やる。世にも稀な兎のような赤い瞳で。
「…師匠」
「おう。何だ?」
卓袱台の上、投げ出された彼の指先は騎士時代の名残りで武骨でありながら、ひどく蠱惑的だ。爪先は短く、骨ばった古い傷だらけのその手を美しいと思う。その指先に自分の指を絡めれば、びくりとギルベルトは身を竦ませた。
「な、何だよ?」
「さあ、なんでしょう?」
ギルベルトは自分からハグやキスをするのが大好きだ。でも他人からの接触に関して何故かひどく臆病だ。それは自分に関しても言えることではあったが、好きなものに触れたいと思うのは、生物的本能だろう。
「なんでしょうって、菊、お前、顔、近いぞ…」
ずずっと手を掴んだまま、畳の上を移動して、顔を近づけると戸惑い気味な顔をする。それでも逃げるような素振りは見せずに、ギルベルトはほんの少しだけ眉間に皺を寄せた。
(…ご兄弟、なのですねぇ…)
その顔が良く知るギルベルトの弟君の顔に重なる。少しだけ、本田は口元を緩める。それに、むうっと口が尖る。揶揄われていると思ったらしい。
「…何、笑ってんだよ」
「…いえ、やはり、師匠はルートヴィッヒさんのお兄さんなのだなと思って」
「何だそりゃ?」
「眉間の皺の寄り方がそっくりです」
「…そーか?」
傾く首。その仕草を追う。傾きに自分の角度を合わせる。
「………」
あっさりと目的は達せられ、余りの物足りなさに上目遣いに本田は見やる。ギルベルトは吃驚したような顔をして、口元を抑えていた。
「驚いた顔もそっくりですね」
キスぐらい、欧州のひとはなれているでしょうにと本田は思う。
「……お前な」
むっと次の瞬間、顰められた眉。それにギルベルトの立てられた膝に手を付いて、本田は身を乗り出す。眉間に口付け。硬直する身体。そのまま、頬の輪郭を辿り、耳殻を撫でれば、その耳はひどく熱い。
「おまっ、」