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宇海零は好奇心が強い

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宇海零は好奇心の旺盛な人間だ。
 その日その街に降り立ったのは、調べていた物事の関連書籍のさらに関連書籍が、近隣の市町村ではその町の図書館にしかなかったからだった。
 もちろん近い市町村の公立図書館の資料は、利用する図書館を経由して貸し出してもらうこともできる。
 だが、宇海はこれまでその町に降り立ったことがないなと、ふと思った。そうなれば、宇海の行動は早い。目当ての資料に予約を入れ、学校帰りのそのままの足でそちらの図書館に出向いた。
 図書館同士を経由しての貸し出しは時間がかかるから、というのも理由の一つだが、動機といえばただただ好奇心、その一点だった。
 無事目的の書籍を借り受け、ついでに気になった本を何点か借り、宇海は少々浮き足立っていた。
 本を借りたその街が、普段宇海が利用している駅周辺に比べ治安が悪いということが、知識になかったわけではない。ただ、利用したこともなかったし、今までに全く面識のない他人に絡まれるという経験がなかったために、実感として薄かった。自分が着用している制服が、その街では目立つということなど考えもしなかったのである。
 それでも宇海は気配に疎い方ではない。何人かに後を付けられているのは察していたし、不穏な雰囲気は感じ取っていた。
 気のせいかと疑りながらも普段よりは足早にその場を立ち去ろうとは勤めていた。
 誤算だったのは、絡んで来ようとした学生たちが宇海が思うよりも強引だったことだった。
「なぁ、がり勉くん」
 路地近くで急に小走りになった相手に腕を掴まれた。
「その制服、確かお坊ちゃん学校だったよな。俺たちお小遣いに困ってるんだけどさ、少しカンパしてくんないかな」
 宇海を囲んだ学生たちは、だらしなく制服を着崩し、学生の癖に派手に頭を染めていたり、ピアスをつけていたりした。何人かは学生ではないようだが、中には下唇や鼻にピアスをしたものさえある。
 同級生などにも多少悪ぶった人間はいないでもないが、この種の人間に遭遇するのは初めてで、これは宇海の悪い癖でもあるのだが、好奇心をそそられた。
(あんなところにピアスなんて、食事の邪魔ではないんだろうか)
 不躾な視線を送ってしまった結果、周囲を取り囲む少年たちを激昂させた。
「あぁん、何ガンくれてんだおめえよぉ」
 宇海も自分が不味い状況にあることは理解している。
 宇海は比較的長身な方なので、威圧感を覚えるような相手はない。囲んでいる連中のほとんどは宇海よりも身長は低い。身体能力的に彼らに遜色があるとは思わないが、何しろ多勢に無勢だ。どのように行動するのが最も効率的か、などと思いを巡らせていた時、襟首を掴んできた少年の手が振り上げられた。
「いててててて……」
 まずは一発喰らうことを覚悟し目を閉じかけた瞬間、悲鳴を上げていたのは宇海ではなく目の前の少年だった。
「おたくら、面白そうなことしてるじゃない。なぁ、俺も混ぜてよ」
 新たな人物が登場した。
 振りかぶった手を捻り上げた白髪の青年は、油断なく周囲を睥睨している。
「へぇ、お友達と一緒だったとは気が付かなかったな」
 宇海を取り囲んでいた連中の中で、年かさと思しき青年が面白そうな声を上げた。
「なぁ、たったふたりでどうにかなると思ってんの?」
 そう言った青年は顎で制服の少年に合図を送った。少年は「っらぁああああ!」と奇声を上げながら、白髪の青年に殴り掛かった。
 その刹那、白髪の青年は己が掴んでいた手を無造作に振った。ごきり、と嫌な音がして腕を掴まれていた少年が苦悶の声を上げた。一瞬、殴りかかった少年が躊躇すると、振り捨てられた少年と共に周囲を巻き込んで転倒することになった。
「どうも。遊んでくれるってことで商談成立だね?」
 白髪の青年の唇の端が獰猛に捲れ上がる。
 宇海は助けられている立場にもかかわらずぞくりとした。
 死んだ者などは流石にいなかったが、その後の状況を適切に描写するなら、虐殺という言葉がふさわしいだろうか。
 推測される立場の区別なく、宇海に絡んできた少年、青年たちは地を舐め、うめきながら転がっていた。
 白髪の青年はといえば、流石に無傷ではいられなかったようだが、ひょうひょうとひとり立っていた。
 宇海だって何もしなかったわけではないが、白髪の青年の強さは圧倒的だった。
「なんだ、もう終わり?」
 宇海を囲んでいた連中が攻撃の意思を見せなくなると、青年は冷めた目で服についた汚れを払った。そして、先ほどまでの行動がウソみたいに、つまらなそうにその場を立ち去ろうとした。
「あ、あの……」
 宇海は思わず呼び止めたが、何を言うかは決めていなかった。焦りながら矢継ぎ早に感謝の言葉を口にする。
「助けてくれてありがとう。その……」
 後日改めて礼をするために、何か連絡先を。そうは思ったが、何と聞けばよいのかがわからなかった。
「礼なんかいらない。俺が喧嘩をしたかっただけだ。巻き込んで悪いな」
 青年は喧嘩の最中に折れてしまったのだろうタバコのソフトボックスを取り出すと、中の一本を咥えた。ライターで赤く火を灯されたタバコから、白い煙が上がる。
「じゃ、気を付けて帰りなよ」
 青年は一口タバコを吸い、煙を吐き出してから再び咥えなおすと、今度こそ宇海の前を立ち去った。
 なんだか無性に悔しくなって、宇海は白髪の青年の後を追いかけたが、路地を出た時にはすでに白髪の青年は煙のように姿を消していた。



 図書館の本は借りたら返却しなければならない。
 自分の生活圏にある図書館からでも、郵送でも返却は可能だったが、宇海はわざわざ借りた街まで足を運んだ。
 もちろんあの青年に再び会えるかもしれないという期待があってのことだ。
 残念ながら行きに会うことはかなわず、無事に書籍を返却して帰路につくことになった。
 駅近くまで来て、そういえばこのあたりで絡まれたんだったな、とふと足を止め周囲を見渡した。
 すると、見覚えのある顔を見つけた。
 白髪の青年ではない。
 宇海を取り囲んでいた少年たちの一人だ。
 よく見れば前回見た顔はその少年の周囲に他にもあり、彼らが徒党を組んで行動しているのがうかがえた。その中心に怯えたような表情の見慣れない顔がある。
 彼は今日のカモなのだろう。性懲りもなくカツアゲをしようとしているらしい。囲まれているのはいかにも貧弱な体躯の気弱そうな少年だった。
 本当なら大声で叫ぶなり、警察を呼んでくるなり、第三者を介入させるのが最も穏当な解決方法だというのは宇海も理解していた。
 だが、囲まれて小突かれている少年を見た瞬間、身体が勝手に動いていた。
 身体能力にはそこそこ自信はあるが、喧嘩の経験はほとんどない。それでも苛めだかカツアゲを見過ごせない程度には宇海の正義感は強かった。
「お前たち何をしているんだ」
 駆け寄り声を掛けると、悪事を働いている自覚はあるのか、少年たちは身をすくませた。しかし、宇海の姿を認め、また宇海が一人なのを見ると、少年たちはいらだったような顔を見せた。
「あっれー? がり勉ちゃん、今日はひとりなの?」
「何勘違いしてんの? 正義の味方のつもり?」
作品名:宇海零は好奇心が強い 作家名:千夏