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天衣創聖ストライクガールズ 序章:聖杖エクスタシオ

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どかっ!
いきなりの衝撃と激痛。視界が赤く染まる。どうやら頭から出血している。
「彼」はそう認識した直後意識が薄れて行くのを感じた。
(あ、これ死ぬわ・・・)
本能で死を感じ取った「彼」の頭の中に何やらかわいらしい声が響いてきた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!加減を間違えちゃった!痛いでしょ!?痛いよね!?ごめんなさい!
でも大丈夫!大丈夫だから・・・!」
そこまで聞こえた所で「彼」の鼓動は止まった。



天衣創聖ストライクガールズ



序章:聖杖エクスタシオ



「彼」、名前を安藤龍之介といい、ここ御成町に住む一介の大学生である。彼のこれまでの人生は平々凡々なものだった。
そう、昨晩までは・・・

そして龍之介は目を覚ました。そこは彼の自室だった。彼はベッドの上で横になっていた。気分は悪くない。いや、むしろ爽快だった。
「あれは・・・夢?確か俺、ゲームやってて・・・そうそう、いきなり頭をカチ割られたような・・・ま、夢じゃなかったら俺生きてないよな。はは。」
彼はそう言いながら乾いた笑いを発した。が、ベッドから上半身を起こし、部屋の床が視界に入るとその顔は凍りついた。
「血・・・!」
そう、彼がゲームに興じていた辺りの床が、夥しい血で汚れていたのだ。
「あ、気がついたんですね!良かった!」
そこへ、聞き慣れない女の子の声がキッチンの方から聞こえて来た。龍之介は飛び跳ねるようにその方向へ視線を向けた。
そこには赤っぽい、見慣れないデザインのワンピース風の衣装を纏い、長い黒髪をたたえた美少女が安堵の表情を浮かべながら立っていた。
「だだだだだだだだ、だ、誰ー!?」
「彼」は間抜けな声でやっとそれだけ言うとベッドから転げ落ちた。

・・・・・・・・

「すると・・・なに?昨夜俺が死んだのはやっぱり事実って事?」
「はい・・・」
「ええ・・・じゃあなんで俺生きてんの?」
恐慌からやっと落ち着いた龍之介は、この不可解な状況を理解するべくこの美少女から情報を引き出そうとしていた。
「それは・・・あなたにぶつかってしまったエクスタシオが・・・」
「ちょっとまった!そのエクスタシオってなんなの?」
美少女はちょっと困った顔を見せるが、説明を続けた。
「エクスタシオというのは聖杖。私たちの世界、ウィザーディアを救う力があるとされる杖の事です。」
「また解らない単語が出てきた・・・まあいいや。多分流れとして異世界物だ、これ。」
「???」
「いや、メタな台詞でご免。続けて。」
促され、彼女は続けた。
「そのエクスタシオですが、私たちの世界には敵対勢力があります。エクスタシオの力を利用してウィザーディアを我が物にしようとするヴィーン・ボウという勢力が。」
「貧乏?」
「ヴィーン・ボウです。」
すかさず突っ込みを入れ、彼女は更に続けた。
「私たちは敵、ヴィーン・ボウからエクスタシオを守護すべく戦っていて、人々からは天衣乙女(ストライクガールズ)と呼ばれています。そんな戦いの中のある日、ヴィーン・ボウの大攻勢に遭い、ついにエクスタシオを奪われそうになる危機を迎えました。そしてエクスタシオ、杖ではありますが意思があります。それを良しとしなかった彼女は自らの能力で逃げ出したのです・・・次元を超えてこちらの世界に。」
「ん?彼女?って、杖に性別とかあんの?」
「そうですね、性別って訳ではありませんが、私たちは女性と捉えています。ほら、こちらの世界でも船を女性視したりするじゃないですか。それと同じようなものだと思いますよ。」
「へえ、物知りだな・・・って君、この世界に来たばかりじゃ・・・」
「あ、違いますよ。私がこの世界に来たのはおよそ三年前。エクスタシオは私たちのいた時空から未来に逃げたんです・・・私はエクスタシオが消えた直後にその行方を追ってこちらの世界に来て、彼女が現れるのを待っていたんです。」
「そして、昨夜現れたと。」
「はい!」
「つまり・・・巻き込まれた、って事?俺。」
少女はしまった、という顔を見せ、ごめんなさい、とつぶやいた。
「ん・・・その声、違うな。昨夜ごめんなさいって何度も謝るのが聞こえたんだけど、君じゃないのか?」
「あ!それがエクスタシオの意思の声です!話は戻りますが、あなたは一度死にました。その失われた命と欠損した体をエクスタシオが補ってるんです。」
「・・・それって俺の体の中にって事・・・?冗談だろ?」
「いいえ、本当なんです。エクスタシオはあなたと分子レベルで結合、命と体を再構成しました。ですからあなたは今生きてるんです・・・ふふ、やっと最初の質問の答えにたどり着きましたね。」
少女はそう言って微笑んだ。龍之介はその笑顔にどきっとして思わず目を逸らした。だが、
「もし今後、あなたとエクスタシオが引き離されるような事があれば、あなたは再び絶命してしまいます。」
そんなちょっと怖い事を彼女は涼しい顔で口走る。
「ちょ、分子レベルで結合って言ったじゃんか!」
思わず抗議の声を上げた龍之介。しかし、
「その手段があるという事です。私たちの世界、ウィザーディアの人間には。」
そんな重たい事実を彼女に告げられ絶句してしまう。更に彼女は追い討ちのように恐ろしい事を告げる。
「恐らく今後、私がエクスタシオの出現に気付いたようにヴィーン・ボウの者もあなたの存在を知り、エクスタシオを奪いに来るでしょう。」
「え・・・それって言い換えると俺を殺しにくるってのと同義じゃ・・・」
「でも大丈夫。あなたは私が守ります。」
少女がきっぱりと、そう言うや否や窓の外にただならぬ気配が現れた。何かプレッシャーのような感覚だった。それに同時に感付いた二人は窓際に駆け寄った。窓の外の街は人気が無くなり、全くの無人だった。そして正面50メートルほど先に、何か異形の存在があった。
「結界!やっぱり来ましたよマスター!ロボット型の敵、あれがヴィーン・ボウです!」
「ま、ますたー?」
「エクスタシオを持つ、あなたが私のマスターです!早速ですが最初の仕事ですマスター!胸に手を当てて、天衣創聖と叫んでください!」
「む、胸?こう?」
そう言いながら「彼」は右手で彼女の左胸を掴んだ。
「・・・・・・・・・・・・」
少しの沈黙。直後、
「いやあああああああああああああ!」
という悲鳴と共に乾いた音が室内に響き渡った。少女の渾身の平手だった。
「わわわわわわ、私じゃなくてご自身の胸です!」
「いててて、そそうか。だけどそれで何が・・・」
(大丈夫。任せて。)
頭の中に声が響いた。あの声だった。エクスタシオが彼に語りかけたのだ。
「・・・まったく、奇天烈な話を疑う暇も隙も与えちゃくれないのかよ・・・叫びゃいいんだな?」
龍之介はエクスタシオに対してそう言い捨てると深く息を吸い、右手を胸の中央に当てて叫んだ。
「・・・天衣、創聖!」
その瞬間、光で視界が真っ白になった。少しの後、光が収まると黒髪の美少女は先ほどとは異なる出で立ちで佇んでいた。天衣創聖とは、彼女たちエクスタシオを守護する天衣乙女にとっての武器、「天衣」を召還、降臨させる、言わば儀式である。そして少女は今、新しい武器を手に入れた。
「こ、これは!」