東方『神身伝』
「んで、ここはどこなんだよ。」
冬馬はとある森の中を歩いていた。
意識を失い、次に目を覚ました時には木々が生い茂る森の中だったのだ。
幸いにも、日が出ていて明るくなっていた御陰で、歩くことは出来ているものの、完全に当ても無く、小一時間は彷徨っている。
「マジでありえないぞこの状況。あの女見つけたら・・・・・・・どうしよう。」
勢い良く文句を言うものの、あっさりと自分の意識を奪った女性を、どうこう出来る気もせずに、肩をおとす。
「ふ〜、取り合えず、このまま夜になるのはまずいしな〜、。」
冬馬は立ち止まり空を見上げる。
太陽は丁度真上の辺りに見え、木々の葉から差し込む木漏れ日が、とても幻想的な物を思わせるが、今の冬馬にそれを満喫すほどの余裕は無い。
「とにかく進もう。」
うだうだと考えていても仕方が無いと、再び足をうごかす。
「ん、待てよ・・・・・・。」
何かに気が付いたのか、再び立ち止まり上を見上げる。
「行けるか、行けるのか?」
何かを自問自答すると、足の感覚を確認するようにぶらぶらと振って柔軟をする。
軽い柔軟を終えると、意を決したようにその場に勢い良くしゃがみ込み、地面を力いっぱい蹴る。
すると、冬馬の身体は羽のように軽く舞い上がり、10メートル近い高さまで飛び上がったのだ。
「うお、マジですげえ。」
再び自分の驚異的な身体能力に驚くが、飛び上がったその目的を思い出し、周りへと目を向ける。
「なにか、何か有ってくれ。」
曖昧な希望を口にしながら、360度全てを見渡す、そしてその目に入ってきたのは、高台にある神社だ。
建物は良く見えないものの、赤い鳥居が目立つ御陰で発見することが出来た。
「あった〜〜〜〜。」
歓喜の雄たけびだった。
見ず知らずの土地で、永遠に続くかと想われた探索に、終わりが見えた。
「そんなに距離も無かったし、これなら夕方には着きそうだな。」
着地をすると、神社が見えた方角に向かって、力いっぱい地面を蹴り走り出す。
しかし、次の瞬間・・・・ゴッチーン。
想像以上のスピードと勢いが出たため、見事に顔面から木に突っ込む。
「○×@#☆△〜」
鼻に手を当て、その場にしゃがみ込むと言葉にならない声をだして蹲る。
「忘れてた・・・・・・。」
赤くなった鼻をなでながら呟くと、前方に気を付けながら、今度こそ、神社のあった方向に向かって走り出した。
驚異的な身体能力の御陰で、思っていたより、大分と早く到着する事が出来た。
高台の上にある鳥居を見上げる。
そこには、『博麗神社』と書かれている。
「はく・・・れい・・・・・・。」
確認するようにその文字を読むと、そこ続く階段をゆっくりと上っていく。
「・・・・・・人が居ますように。」
神にでも祈るかのように呟き、あがって行くと、綺麗に掃除された境内と、真正面にあるお賽銭箱が目に入る。
鳥居を潜り、真正面に有ったお賽銭箱の許まで進むと、キョロキョロと周りを見渡す。
「そんな挙動不審でどうしたの?お賽銭でも盗むつもりかしら?」
急に真後ろから、女の子の声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには赤く大きいリボンをした、脇の露出した巫女服姿の女の子が立っていた。
「いえ、そんなつもりは。」
すぐさま、賽銭泥棒では無いことを伝えるが、少女は疑いの眼差しを向けてくる。
そんな顔をしなければ可愛らしい容姿をしているのに、勿体無い。
とか、何時もの如く仕様も無い事を思っていると、少女が再び口を開く。
「じゃあ、何の用かしら?っと、見た事の無い格好してるわね・・・・・・まさか迷い人?」
冬馬は、病院で寝巻きの代わりに着ていた、黒いジャージ姿だった。
恐らく、目の前の少女は、その服が見馴れない物だったのか、若干怪訝な顔を向けて、呟いた。
「確かに、迷っていますし、此処が何処かも解らないんです。
気が付いたら森の中に居て、そこからこの神社が見えたので・・・・。」
ごく普通の服装を怪しむ少女に、疑問を感じながらも、冬馬は自分がここに来た経緯を話す。
少女は冬馬の言葉を聞いてから、暫く黙って考え込む。
「いいわ、着いて来て。」
そう言うと、神社の裏側えと歩いていく。
着いていくと、そには家があっり、その縁側には湯飲みと急須がお盆に置かれていた。
どうやら、ここでお茶を飲んでいた最中らしい。
でも、何時後ろに回りこまれたんだ?
そんな素朴な疑問が浮かんだ時に女の子が声をかけてくる。
「さあ、上がって。」
「あ。はい、どうもお邪魔します。」
軽く会釈をして、靴をぬごうとするが、病室からそのまま出てきた冬馬は裸足のままだった。
床が汚れるのを申し訳なく思い、その場で足を叩き、擦る様にして出来るだけ汚れを落とす。
その様子をみた少女は、クスクスと可愛らしく笑いながら「別に良いのに。」と言ってくれた。
逆にそう言われると気を使いたく成ってしまう。
そうして、部屋に入ると、卓袱台の所にある座布団に案内され腰掛ける。
その正面に少女は座り、小さく息をすると、凛とした表情で冬馬を見つめる。
「では自己紹介から。
私は博麗 霊夢。この博麗神社の巫女をしているの、貴方は?」
「僕は、水上冬馬と言います、先程も言ったとおり、気が付いたら森に居て、そこから此処が見えたので、ここに来ました。」
お互い、簡単に自己紹介をすませると、早速本題に入ってきた。
「早速話を聞かせてもらうわね。
気が着いたら森に居たと言っていたけど、その前に何か変な事は無かったかしら?」
冬馬は思い当たることが多すぎて、何から話して言いか迷ったが。
冷静になり、信じてもらえるかどうか解らないが、狼と出会ってからの事を全て少女に話した。
霊夢と名乗ったその少女は、話を全て聞き終えた後、再び黙り込んで何かを考え始める。
暫くの沈黙の後に、再び口を開く。
「狼の事は解らないけど、恐らく貴方を此処に連れて来たのは『八雲紫』と呼ばれる妖怪よ。」
「よ、妖怪・・・ですか。」
迷い無く少女の口から出てきた『妖怪』と言う言葉に、驚き思わず繰り返す。
「ええ、そして此処は貴方達の世界から隔離された世界『幻想郷』と呼ばれる世界。」
更に少女の口からは、信じられない事が出て来る。
妖怪に、隔離された世界・・・・・・俄かには信じられないことだ。
でも、紫と呼ばれる女性の不思議な力。
そして彼女の言った『貴方の存在できる世界に連れて行って差し上げますわ』の言葉。
霊夢の言葉通りなら、その力とその言葉に説明を付けられる。
ここがその存在できる世界なのか・・・・・・。
冬馬は自然と考え込んでしまう。
「紫が言っていた、『貴方が存在できる世界』と言うのは間違いが無いかもしれないわね。」
そういって、霊夢は立ち上がると、縁側まで歩いていき、冬馬に振り返る。
「見ていて。」
そういうと、霊夢は信じられないことにその場に浮いて見せたのだ。
紫と呼ばれた女性も、何事も無いかのように空中に浮いていたが、そんなものはアニメや漫画の世界だけの話だと思っていた。