風の元へ
また何をつかまされるのかしら、、、。
恐る恐る目を閉じて待つ。
少し沈黙の時間があって、
肩を引き寄せられ、林殊の唇が重ねられる。
これが初めての口づけでは無かったが、今日の林殊は優しく唇に触れてきて、しばらく、霓凰の感触を楽しんでいた。
こんな口づけは初めてで、戸惑ってしまう。
そして優しく霓凰の中に、、、。
優しく吸われる、、、。
身体の芯まで痺れてしまうような、、、、
甘美な媚薬を流し込まれたような、、、。
こんな大人な、優しい口づけができる人だとは思わなかった。
惜しむかのように唇が離される。
恥ずかしい、私、どんな顔をしてるのだろう。きっと恍惚としてるに違いないわ。
表情を隠すなんて、もう出来ないほどに、酔いしれていた。
そんな霓凰に、林殊は堪らなくなってしまう。
霓凰を強く抱きしめる。
林殊の鼓動が伝わってくる。
大きく激しく。
霓凰の鼓動も重なり合っていき、もうどちらの鼓動かも分からない程、、、。
「離したくない。」
絞り出すように林殊が呟いた。
霓凰はもう言葉も出せず、ゆっくりと頷いた。
ずっとこのままで、、、時が止まってしまえばいい、、、。
また少しだけ林殊の腕に力がこもり、大きな体に包まれる。
ぎゅっと包まれていた、腕がほどかれたが、霓凰は林殊の顔を見ることができなかった。
林殊の右手が頬に触れ、目を開ければ霓凰を
包む優しい眼差し。
求められるまま、もう一度唇を合わせた。
今度は軽く、、。
「懐に入れて持って行けたらいいのにな。」
「ふふ、猫みたい。」
それでも良いけど、猫を懐に持ち歩いてる林殊は滑稽で笑いがこみ上げる。
林殊兄さんは、小さい時はしつこくかまって、よく引っ掻かれていたわ。
私ならずっと懐に入っていられるかしら、。
今の私は猫の様よ。
優しく胸に抱かれ、どれ程時が経ったのか。
長い長い時間でもあるようで、ほんの一時のようでもあるようで、、、、、。
「梅嶺から戻ったら、霓凰を迎えに行く。」
嬉しい、、、。
もう声も出ず、林殊の腕に抱かれて、頷く事しか出来なかった。
幸せな時は終わりに、、、。
そして林殊は高い穆王府の壁を、たやすく飛んで越えて行く。
壁の天辺で、振り返り、霓凰の姿を確認する。
霓凰もまた、そんな林殊の姿をその心に焼き付けた。
でも、これで終わりではない。
しばらく待っていると、もう一度、塀の上に姿を現すのだ。
必ずもう一度。
そしてお互い安心して、林殊は壁の外へ、。
そして終わり。
どんなに待っても、2度目は無い。
いつからこうやって会いに来るようになったのか、、、。
穆王府の者には、これまで1度も見つかったことは無い。
もう、これで最後になるのかしら。
それとも、また、忍んで来るのかしら。
きっとまた。忍び込んで来そうだわ。
まるで風のよう。
いつも私の心の傍を通り抜け、私を包む、優しい風、、、、。
戦場でもきっと、風のように駆け回るに違いないわ。
梅嶺から、林殊兄さんは真っ先に私のもとへ来るだろう。
林殊兄さんの帰りは、きっと風が教えてくれる。
、、私は林殊兄さんの妻になる、、、、
─────終─────