二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

明日香さん、はなしてください!

INDEX|1ページ/7ページ|

次のページ
 

第一話 明日香さん、離してください。



「今週は恋バナ回だよ!」
 高等部十一年の小金井ミーナさんと中等部八年の流冥弐久寿《るめいにくす》はそう言うと有無を言わさず放課後の教室から私を連れ出します。いえ、今週はワンダー・ウィークです。今日は、その最後の日ですから。
「いやあ、昨日の今日だしね。いろいろと聞きたいじゃない。弐久寿からも昨日の動画の反響も聞きたいし」
 それは私も知りたいです。でも、今日は金曜日。本来なら埋火武人《うずみびたけと》くんの家に伺って武人くんの亡くなったお祖父さんのコレクションのSFを借りようと思っていたのです。先週も先々週も事情があって行くことができませんでしたから。SF飢餓状態です。恋バナなぞやってる余裕はありません。
 でも、そんなことでミーナさんは許してくれません。部室への道すがら私を説得にかかります。
「だってやっとゴタゴタがおさまったんだし。明日はあしたで文化祭のビブリオバトルで忙しくなるんだから今日という機会を逃すわけにはいかないでしょう」
 だったら明日のためにも早く帰ってビブリオバトルのために練習したいじゃないですか。それはBB《ビブリオバトル》部部員のミーナさんも一緒でしょう。
「ねえ、弐久寿。昨夜の速報の反応ってもう来てる?」
 私の意見は無視ですか?問いかけられた弐久寿は少し上を向いて答えます。
「いくらか来てるね。YouTube《ようつべ》のコメントに書き込んでくれてる。ただ……」
 昨日の図書室でのビブリオバトルの様子は弐久寿が所属しているメルマガ部が動画であげて速報として流してくれました。でも、ミーナさんが言ってるのはビブリオバトルではなくてその後の私の発表の反応のことでしょう。私も気にはなりましたが父と共同で使っているパソコンであの動画を見る勇気はありません。
「空ちゃんに好意的なコメントは全体の三分の一かな。実際にあの場にいて拍手をしてくれた人とか。ただ、拍手をくれた人の中でも『雰囲気に流された』って言って反対意見に変更している人もいたね」
 ああ、それは仕方ありません。あの場で反対と唱える勇気のある人はそうはいないでしょうから。それにしてもちゃんと私にとって不利な情報でも正直に言ってくれる弐久寿に好感が持てます。
「反対意見ってやっぱり感情的に反対している人が多いの?」
 ミーナさんがそう尋ねると弐久寿は
「そんなことないよ。今回はBIS《うち》のメルマガに貼ってあるリンクからいかないと見られないようになってるからね。ほとんどがうちの生徒か先生のはずだから感情的な意見はほとんどない。……それでもやっぱり『モラル的に問題だ』とか『フィクションなら許されるけど』っていうのが多かったね」と返します。
 そういう意見がでるのは覚悟の上です。むしろ、その程度で良かったくらい。
「感情的な意見は『ズルい!』くらいだったかな」
 弐久寿の口調に私もミーナさんも思わず笑ってしまいました。そうですね。たしかに「ズルい」ですね。なにしろ我がBIS《ビーアイエス》(美心《びしん》国際学園)の数少ない男子のうちの二人(けっこう女子人気高し)を彼氏にしてしまったのですから。
「でも、そんなのばかりじゃないよ。たぶんこれは好意的な方だと思うんだけど『わたし、輿水銀《こしみずぎん》くんの二人目の彼女に立候補しま〜す♪』っていうのがあったよ」
 弐久寿のぶりっ子口調にミーナさんは笑いましたが私は笑えません。
「それは好意的だよね。だって空は『奪いたい人は堂々とアタックしてください。実力で奪ってください。もっともそう簡単には渡しません』って言ったのに『二人目の彼女に立候補』なんだから。空とも仲良く銀くんの彼女になりたいってことでしょう。ちゃんと理解してる証拠だよね」
 ミーナさんの言ってることはわかります。私も最初はそれを考えていました。だって私が武人くんと銀くんの二人を彼氏にするんですから、武人くんや銀くんにも複数の恋人がいてもおかしくないんです。私だけが複数の恋人がいて二人には私しかいないのはフェアじゃありません。
 それはわかっています。だから本来なら「あなたも武人くんや銀くんの彼女になりましょう」が正しかったはずなんです。それができなかったのは、かえって反発が増えると予想したから。ただでさえモラルに反することを宣言しているのですから、そこに輪をかけて煽るようなことを言うのは賢明ではないと思いました。
 それならば「堂々と奪いにきて」の方が安全なはず。……というのは建前です。
 本当はそんな状況に自分が耐えられるか自信がなかったから。銀くんとの初デートの時に彼から聞かされた武人くんの秘密。あの時の自分の感情はその時は説明がつかなかったけど今ならわかります。武人くんがもう「大人」になってると知った時、その場面を想像して私は顔も名前も知らないその女性に嫉妬していました。
 そんな私が銀くんや武人くんの二人目の彼女と仲良くできる自信がありません。むしろ奪われたほうが気が楽です。
「それでその子はどこの誰かわかるの?」
 ミーナさんは銀くんの二人目の彼女候補についてさらに弐久寿に問いかけます。
「いちおうコメントを書くためにアカウントを取ってるけど、たぶんこれって捨て垢だと思うよ。『LoveAg_notAg2S』だからね。これで個人を特定するのは難しいでしょう」
「なにそれ?アカウント?パスワードみたい」
「Agは銀の元素記号ですね。Ag2Sは硫化銀。銀に付着する錆のことです」ピンときた私がミーナさんの疑問に答えます。「意味は『銀くんが好き、銀くんを錆びさせる空気はノー』じゃないでしょうか」
「空気って……?」
「私、伏木《ふしき》空を差してるんだと思いますよ」
 おや?一瞬で空気が凍りつきましたよ。
「うわあ、仲良くする気ないじゃん」
 あのミーナさんが目いっぱい引いてるのがわかります。弐久寿も好意的だと言った手前バツが悪そうです。
「でも、空気中に含まれる硫化水素は微量ですからそうそう銀を錆びさせることはないですよ」
 私は凍りついた空気を和らげようと冗談めかして言葉をつなげます。
「いや、そうじゃなくて。空が銀くんを錆びさせるなんて思ったこともないよ。問題なのは好意的な振りをしてるその子でしょう」
 ミーナさん怒ってますね。ありがたいです。私のために助けてくれたり、怒ってくれたり。本当にBISに入れてBB部に入部できてよかったです。こんな素敵な仲間に出会えたのですから。
 でも、かえって私は気が楽になりました。むしろ燃えます。できれば堂々と戦ってほしいです。
「でもさ、その推測が間違いで本当に銀くんの二人目の彼女になったら空ちゃんどうするの?」
 いきなり弐久寿が燃えたぎる私の心をくじきます。
「……その時が来たら考えます」
 とりあえず昨日の今日です。そんな難しい問題は保留にさせてください。
 頭の中で「空さん、この子が僕の二人目の彼女です」と紹介してる映像が浮かんできます。頭を振って、その妄想を追い出します。
「しかし、銀くんの元素記号がAgだとは気がつかなかったね。もう少し柔らかい物体かと思っていたのに」
 ミーナさんが気を取り直してジョークを飛ばします。