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明日香さん、はなしてください!

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 ……右手の人差し指がタイマーアプリの「一時停止」ボタンをタップした。
 残り時間を見ると「三分十四秒」。二分かからなかった。
 目の前の銀くんは私に向かって頭頂部を見せている。かろうじて下腹部に手を当てるのを抑えてる。でも、ここまでが限界のようね。
 それにしても、と思う。まだ彼女が浴槽につかったところでギブアップとは情けない。脱衣室で服を脱いでいる時にチラ見した白い背中。ブラを外す時に動く肩甲骨の艶めかしい動き。そんなところで顔を真っ赤にして俯きはじめた。まだ肝心な正面すら語ってないのよ!
 空が浴室に入って浴槽の側にしゃがんでかけ湯をして浴槽に入るシーンを説明した時には、彼はうめき声すら発しはじめた。この後、身体を洗って脱衣室で服を着る時の様子がまた可愛いのよ!あなた知らないでしょう!?
 ……まあ、いいわ。それはいつか直接見せてくれた時の楽しみに取っておけばいいでしょう。
 私は一分四十五秒で敗北した少年を尻目に椅子から立ち上がり、ドアに向かう。このまま情欲と必死に戦っている彼と一緒の部屋にいるのは問題でしょう。銀くんが何か私にするとは思わないけど、余計な詮索を受けるような行為は避けた方がいい。遅いかもしれないけど。
 ドアを開ける時、ふと
「部屋に変な匂いをつけたりしないわよね」と考えたけど口には出さなかった。
 部屋から出ると
「明日香さーん」という声が聞こえた。振り向くとミーナがこちらに向かって手を振っているのが見えた。他に弐久寿と空もいる。空が
「今日、緊急ミーティングありましたか?」と聞いてきたので用事があったと言って否定した。なんの用事かまで聞かれなくて良かった。
 空だけだったら理由を説明して中に入れてあげればいいけど、さすがにミーナや弐久寿をあの中に入れるのは忍びない。
 どうやら三人は部室で女子会をする目的で集まったらしい。誘われたけど断った。
 部室とはいえ間借りしている社会科資料室を私用で使うのはいただけないと副部長として意見すればよかったのかもしれない。だけど、部活動として使っていないと言った部屋から出てきたばかりだから説得力はないと思う。
 考えたあげく銀くんに伝えることにした。ドアをノックして空たちが部屋を使いたがっていると……。それが間違いの元だった。
 ついうっかり言ってしまった一言、
「立てる?」
 その言葉に空が反応した。おそらく空は彼が中で倒れてしまったと勘違いしたのだろう。猛烈な勢いで社会科資料室のドアを開けようとする。私は思わずその手を押さえ込んだ。ドアを開けさせないために。
 彼がとても心配なのだろう。我を忘れてる。沈めなきゃ……って、私はナウシカかっ!
 空ひとりだけなら問題なかったろう。事情を話して中に入れれば双方にとっていい結果になったかもしれない。武人くんには申し訳ないけど。
 だけど、ミーナや弐久寿がいる以上、銀くんのプライドを傷つけるわけにはいかない。
「空、落ち着いて。大丈夫だから」
 実際、大丈夫なのだ。ただ単に「勃ってるから立てない」だけだから。時間が経って落ち着けば一人で部屋から出てこれる……はず。
 空は非力で私の力でもドアを押さえることはできる。しかし、今、傍観してくれているミーナと弐久寿が空に加勢しないとは限らない。そうでなくても廊下を歩いている生徒が私たちに注目している。
 この状況を打開するためには銀くんが部屋から自力で出てくる必要がある。でも、それがいつになるかわからない。ああ、部屋に変な匂いをつけてもいいから早く出てきて!
 空の何度目かの
「銀くん!」の言葉にやっと彼が反応した。
「僕は大丈夫だから。自分で開けるから手を離して」
 その言葉に空と私はほぼ同時にドアから手を離した。
 社会科資料室から出てきた銀くんの顔は紅潮しているようだった。おそらく気恥ずかしさと、さっき聞いたばかりの彼女の裸体を思い描いたせいだと思う。
 でも、空はそうは思わなかったみたいで、彼のおでこに自分のおでこを当てて熱を見た。銀くんは自分の呼吸の荒さを悟られないように息を止めた。
「……熱はないみたいだけど心配だから一緒に帰ろう」
 空の言葉を拒否して彼はそそくさと廊下をあとにする。突然彼が
「明日香さん、すみませんでした」と言ってきた。私は
「なんでもない」とジェスチャーで示す。
 彼の姿が見えなくなったのを見計らって、空の側に近づいて
「空、約束は守ったから」と言った。
 最初、彼女は「なんのことだ?」という風な顔をしたあと、突然顔を真っ赤にした。どうやら気がついたようね。
 私も放り投げたカバンを拾い上げ帰ることにする。
 後ろから空の
「明日香さん!ごめんなさい!」という声がした。そうね、「ありがとう」じゃなくて「ごめんなさい」よね。その気持ちはわかるわ。
 私は振り返らずに
「銀くんのフォローしてあげなさいね」とだけ言って手を振った。
 校舎の出口に向かうさなか、ふと廊下の窓を見上げる。思わず
「……また、合宿やらないかな」と口にしてしまった。