predator〈捕食者〉4
predator〈捕食者〉4
アムロが姿を消して一ヶ月、アーガマのブライトの元にようやくその情報が届いた。
「アムロが!?」
ハヤトからの報告を聞き、艦長室の端末を前にブライトが声を上げる。
《ああ、ホンコンシティで連絡員と接触したところまでは確認出来ているが、その後の足取りが一切掴めない。》
「どういう事だ?自分で姿を眩ませたのか?それとも…。」
嫌な予感がブライトの脳裏をよぎる。
《私物はおろか現金すら殆ど持っていなかったんだ。自分で姿を眩ませたとは考えにくい…おそらく…》
『『攫われた』』
二人の脳裏に同じ言葉が浮かぶ。
「しかし、一体誰が?連邦のニュータイプ研か?」
《殺気や悪意に対して敏感なアムロがそう簡単に奴らに捕まるとは思えない…。》
「確かにな…じゃあ一体誰が…」
ブライトの言葉に、ハヤトは少し迷いながらも自身の考えを口に出す。
《クワトロ大尉…かもしれない。》
「何?」
《なぁ、ブライト。クワトロ大尉はまだ見つかっていないんだろう?》
「あ、ああ。かなり捜索したんだが…あの状況だからな…生きているかもわからない」
《つまり…死体も見つかっていないって事だろう?》
「まさかお前、クワトロ大尉がアムロを攫ったって言いたいのか?」
《……》
「ハヤト!」
ハヤトは少しの沈黙の後、重い口を開く。
《アウドムラで一緒の行動していた時…クワトロ大尉はアムロを執拗に宇宙に誘っていた。》
「そりゃ、アムロが宇宙に上がってくれればかなりの戦力になるからな」
《…多分、それだけじゃなかったと思う…》
「どういう事だ?」
《何ていうか…個人的にアムロを求めていた様に思う。》
アウドムラでクワトロ大尉がアムロに声を掛けるのを度々目にした。
初めはブライトの言う通り、戦力とする為、不甲斐ないアムロを奮い立たせているのだと思っていた。
だが、次第にその瞳に違う色が混じっている事に気付く。
まるで、恋人を求める様なそんな熱い色を…。
しかし、それに対してアムロの反応は素っ気なく、『できる事なら関わりたくない。』そんな気持ちが伝わってきた。
そのうち、クワトロ大尉のアムロを見つめる視線が変化し始める。
普段、知性的で余裕のあるクワトロ大尉からは想像もつかない様な、切羽詰まった、激しいものに…。
それはまるで、獲物を狙う肉食獣の様な恐ろし
い視線だった。
その頃から、アムロのクワトロ大尉に対する態度が一変する。とにかく彼を避ける様になった。そして、彼と目が合うたび、肩を震わせ怯えていた様に思う。
それに、これはあくまで想像だが、二人は肉体関係にあったのではないだろうか?
二人の勤務は重なる事が多かった。もちろん非番の時間帯も。非番明けにクワトロ大尉がアムロの部屋から出てきたのを見た事もある。
ただ、合意の上かと言えば、そうではなかったよう気がした。
その後のアムロの様子が、とにかく辛そうだったのからだ…。
しかし、あの時、戦闘でカミーユとクワトロ大尉が苦戦しているのを感知したアムロは「このままではシャアが死ぬ」と、呟くと、それまで、怖がって乗ろうとしなかったMSに、自ら乗ると言い出し、出撃した。
そう、アムロは彼を救う為に、再びMSに乗ったのだ。
二人の間には何か複雑なものがあったのだろう。過去に敵として直接剣を交えたのだから当然と言えば当然だが、それだけでは無かったと思う。
だが、アムロは恐怖しながらも、心の奥底ではクワトロ大尉を求めていたのではないだろうか?
だから、彼が死ぬかもしれないと感知した瞬間、彼を救う為、迷う事なくMSに乗った。
ハヤトはそこまで考えて大きな溜め息をつく。
「ハヤト?」
《…ブライト…もしも……》
そこまで言いかけて、一旦言葉を止める。
「もしも…何だ?」
ハヤトは視線を彷徨わせて少し思案する。
《…これは、あくまで俺の想像なんだが…もしも…もしもだぞ、クワトロ大尉がエゥーゴを見限り、己の手で…例えばジオンを再興して、俺たちの前に立ちはだかったとしたら…どうする?そして、その傍らにアムロがいたら…》
「!!ハ、ハヤト?」
動揺するブライトに、ハヤトが真剣な視線を向ける。
ハヤトのその言葉に、ブライトは密かに自身もクワトロ大尉がエゥーゴから離れたがっていたのを感じていた。
腐った連邦の高官たちの所為で、内部分裂を起こした連邦。内側から連邦を変えていき、スペースノイドの尊厳を守ろうとしていた筈なのに、ティターンズを壊滅させても変わることの無い政府。そして、ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンの介入。
泥沼な状況に、嫌気がさしても無理はない。
《ブライト?》
「…クワトロ大尉は…生きていると?」
《アムロは生きていると言っていたらしい。連絡員が報告をした時、そう答えたそうだ。》
「ニュータイプの感か…アムロの言葉は真実味があるな…」
《ああ、そして、自由になったクワトロ大尉…否、シャア・アズナブルがまず手に入れたいと思うのは…》
「…アムロ…だな…」
《あいつが喜んでついていくとは思えないし、俺たちに何も告げずに姿を消した事から、おそらく攫われたんじゃないかと思う…。彼ならばアムロを無理矢理にでも攫えるだろうからな。》
「……」
ブライトとしては、過去に敵として戦った事があるとは言え、共に死線を潜り抜けた戦友がそんな事をするとは思いたくなかった…。
しかし、クワトロの気持ちも分からなくはなかった。
「だからと言って、俺たちにはどうする事も出来ん…。唯一二人の気配を辿れるだろうカミーユは…とてもそんな状態じゃない。」
《カミーユか…彼の容態は?》
「良くはないな。サイド1に着いたら医者に診せようと思っている。元どおりになるのかも…分からない。」
《…今思えば、一年戦争の時、アムロもそうなっていてもおかしくない状態だったな…》
「そうだな…。あいつは言わないが、多分相当辛かっただろう…。今と違ってニュータイプという存在自体、認知されていなかったしな。自分の能力を理解されず、でも戦闘に有効だからと戦わされて…。そう思うと…そんなあいつを理解出来るのは、クワトロ大尉…いや、シャアだけなのかもしれない…。」
《ああ…多分…》
「とりあえず、こちらも出来うる限りクワトロ大尉の捜索は続ける。そちらもアムロの捜索を頼む。」
《わかった》
お互い無駄だろうと思いながらも、そう言って自分を納得させる。
「それじゃあ、また何かあったら連絡してくれ。」
《了解》
ブライトは通信を切ると、大きな溜め息を吐き、艦長室の窓から見える宇宙に視線を向ける。
「クワトロ大尉…、アムロ…オレは…お前たちを相手に戦えるか?」
連邦の兵士で有る限り、嫌が応にも戦わねばならない事は重々承知している…。
しかし、出来る事ならば、そんな事にならないで欲しかった。
しかし、数年後、ブライトのその懸念は現実のものとなるのだった…。
ーーーーー
「アムロ大尉、アムロ大尉」
誰かが肩を揺らして名前を呼ぶ。
「ん…、シャ…ア?」
「アムロ大尉、起きて下さい。」
シャアとは違うその声に、アムロは驚いてガバリと起き上がる。
「うっ、痛っ!」
アムロが姿を消して一ヶ月、アーガマのブライトの元にようやくその情報が届いた。
「アムロが!?」
ハヤトからの報告を聞き、艦長室の端末を前にブライトが声を上げる。
《ああ、ホンコンシティで連絡員と接触したところまでは確認出来ているが、その後の足取りが一切掴めない。》
「どういう事だ?自分で姿を眩ませたのか?それとも…。」
嫌な予感がブライトの脳裏をよぎる。
《私物はおろか現金すら殆ど持っていなかったんだ。自分で姿を眩ませたとは考えにくい…おそらく…》
『『攫われた』』
二人の脳裏に同じ言葉が浮かぶ。
「しかし、一体誰が?連邦のニュータイプ研か?」
《殺気や悪意に対して敏感なアムロがそう簡単に奴らに捕まるとは思えない…。》
「確かにな…じゃあ一体誰が…」
ブライトの言葉に、ハヤトは少し迷いながらも自身の考えを口に出す。
《クワトロ大尉…かもしれない。》
「何?」
《なぁ、ブライト。クワトロ大尉はまだ見つかっていないんだろう?》
「あ、ああ。かなり捜索したんだが…あの状況だからな…生きているかもわからない」
《つまり…死体も見つかっていないって事だろう?》
「まさかお前、クワトロ大尉がアムロを攫ったって言いたいのか?」
《……》
「ハヤト!」
ハヤトは少しの沈黙の後、重い口を開く。
《アウドムラで一緒の行動していた時…クワトロ大尉はアムロを執拗に宇宙に誘っていた。》
「そりゃ、アムロが宇宙に上がってくれればかなりの戦力になるからな」
《…多分、それだけじゃなかったと思う…》
「どういう事だ?」
《何ていうか…個人的にアムロを求めていた様に思う。》
アウドムラでクワトロ大尉がアムロに声を掛けるのを度々目にした。
初めはブライトの言う通り、戦力とする為、不甲斐ないアムロを奮い立たせているのだと思っていた。
だが、次第にその瞳に違う色が混じっている事に気付く。
まるで、恋人を求める様なそんな熱い色を…。
しかし、それに対してアムロの反応は素っ気なく、『できる事なら関わりたくない。』そんな気持ちが伝わってきた。
そのうち、クワトロ大尉のアムロを見つめる視線が変化し始める。
普段、知性的で余裕のあるクワトロ大尉からは想像もつかない様な、切羽詰まった、激しいものに…。
それはまるで、獲物を狙う肉食獣の様な恐ろし
い視線だった。
その頃から、アムロのクワトロ大尉に対する態度が一変する。とにかく彼を避ける様になった。そして、彼と目が合うたび、肩を震わせ怯えていた様に思う。
それに、これはあくまで想像だが、二人は肉体関係にあったのではないだろうか?
二人の勤務は重なる事が多かった。もちろん非番の時間帯も。非番明けにクワトロ大尉がアムロの部屋から出てきたのを見た事もある。
ただ、合意の上かと言えば、そうではなかったよう気がした。
その後のアムロの様子が、とにかく辛そうだったのからだ…。
しかし、あの時、戦闘でカミーユとクワトロ大尉が苦戦しているのを感知したアムロは「このままではシャアが死ぬ」と、呟くと、それまで、怖がって乗ろうとしなかったMSに、自ら乗ると言い出し、出撃した。
そう、アムロは彼を救う為に、再びMSに乗ったのだ。
二人の間には何か複雑なものがあったのだろう。過去に敵として直接剣を交えたのだから当然と言えば当然だが、それだけでは無かったと思う。
だが、アムロは恐怖しながらも、心の奥底ではクワトロ大尉を求めていたのではないだろうか?
だから、彼が死ぬかもしれないと感知した瞬間、彼を救う為、迷う事なくMSに乗った。
ハヤトはそこまで考えて大きな溜め息をつく。
「ハヤト?」
《…ブライト…もしも……》
そこまで言いかけて、一旦言葉を止める。
「もしも…何だ?」
ハヤトは視線を彷徨わせて少し思案する。
《…これは、あくまで俺の想像なんだが…もしも…もしもだぞ、クワトロ大尉がエゥーゴを見限り、己の手で…例えばジオンを再興して、俺たちの前に立ちはだかったとしたら…どうする?そして、その傍らにアムロがいたら…》
「!!ハ、ハヤト?」
動揺するブライトに、ハヤトが真剣な視線を向ける。
ハヤトのその言葉に、ブライトは密かに自身もクワトロ大尉がエゥーゴから離れたがっていたのを感じていた。
腐った連邦の高官たちの所為で、内部分裂を起こした連邦。内側から連邦を変えていき、スペースノイドの尊厳を守ろうとしていた筈なのに、ティターンズを壊滅させても変わることの無い政府。そして、ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンの介入。
泥沼な状況に、嫌気がさしても無理はない。
《ブライト?》
「…クワトロ大尉は…生きていると?」
《アムロは生きていると言っていたらしい。連絡員が報告をした時、そう答えたそうだ。》
「ニュータイプの感か…アムロの言葉は真実味があるな…」
《ああ、そして、自由になったクワトロ大尉…否、シャア・アズナブルがまず手に入れたいと思うのは…》
「…アムロ…だな…」
《あいつが喜んでついていくとは思えないし、俺たちに何も告げずに姿を消した事から、おそらく攫われたんじゃないかと思う…。彼ならばアムロを無理矢理にでも攫えるだろうからな。》
「……」
ブライトとしては、過去に敵として戦った事があるとは言え、共に死線を潜り抜けた戦友がそんな事をするとは思いたくなかった…。
しかし、クワトロの気持ちも分からなくはなかった。
「だからと言って、俺たちにはどうする事も出来ん…。唯一二人の気配を辿れるだろうカミーユは…とてもそんな状態じゃない。」
《カミーユか…彼の容態は?》
「良くはないな。サイド1に着いたら医者に診せようと思っている。元どおりになるのかも…分からない。」
《…今思えば、一年戦争の時、アムロもそうなっていてもおかしくない状態だったな…》
「そうだな…。あいつは言わないが、多分相当辛かっただろう…。今と違ってニュータイプという存在自体、認知されていなかったしな。自分の能力を理解されず、でも戦闘に有効だからと戦わされて…。そう思うと…そんなあいつを理解出来るのは、クワトロ大尉…いや、シャアだけなのかもしれない…。」
《ああ…多分…》
「とりあえず、こちらも出来うる限りクワトロ大尉の捜索は続ける。そちらもアムロの捜索を頼む。」
《わかった》
お互い無駄だろうと思いながらも、そう言って自分を納得させる。
「それじゃあ、また何かあったら連絡してくれ。」
《了解》
ブライトは通信を切ると、大きな溜め息を吐き、艦長室の窓から見える宇宙に視線を向ける。
「クワトロ大尉…、アムロ…オレは…お前たちを相手に戦えるか?」
連邦の兵士で有る限り、嫌が応にも戦わねばならない事は重々承知している…。
しかし、出来る事ならば、そんな事にならないで欲しかった。
しかし、数年後、ブライトのその懸念は現実のものとなるのだった…。
ーーーーー
「アムロ大尉、アムロ大尉」
誰かが肩を揺らして名前を呼ぶ。
「ん…、シャ…ア?」
「アムロ大尉、起きて下さい。」
シャアとは違うその声に、アムロは驚いてガバリと起き上がる。
「うっ、痛っ!」
作品名:predator〈捕食者〉4 作家名:koyuho