predator〈捕食者〉4
「…オレは…どうしたい?教えてくれ…ララァ。オレの中の君の心があの人を救いたいと思っているのか?それともこれはオレ自身の想いなのか?」
シャツの胸元を握り締め、アムロは自身に問いかける。自分が何を求め、何をしたいのかを…。
ーーーーー
「ギュネイ、そこ間違ってるよ、やり直し」
ニュータイプ研究所で、MSの設計図と取説を広げながら、ギュネイに簡単な整備方法、それとMSの特性や性能を説明する。
「はぁ…オレ、こう言うデスクワークっていうか勉強って嫌いなんだよ。直接触って身体を動かしたほうがいい」
「こらこら。MSの特性や性能をきちんと理解しておかないとその性能を十分に発揮できない。今のギュネイの戦い方は、性能の半分も出し切れていない。設計者が見たら泣くぞ」
アムロにペンで鼻先を突かれてギュネイが心底嫌な顔をする。
「半分も?!」
「ああ、ギラ・ドーガはティターンズのマラサイをベースに開発された機体だ。『人間の機能を拡大した汎用性の高い機動兵器』をコンセプトに設計されていて、操縦性も高く、かなり小回りが利く。けれどギュネイの操作はまだまだ大振りで、イマイチこの操縦性を活かしきれていない。」
「あ…」
確かに細かい動きは苦手だ。
「フェイク的な動きをもっと取り入れたり、もっと速く複雑な動きが出来れば敵を混乱させられる。」
自分はいつも真っ向勝負で正面から敵にぶつかっている。だからアムロに動きを簡単に読まれて逆に不意打ちを食らっていた。
「それから武装のビームマシンガンも縦2列の銃口を持っていて速射と単射の2つのモードがある。速射モードで敵を撹乱して態勢を崩し、その後、単射モードを使えば射程ももっと伸びるし命中率も上がる。」
自分はいつも速射モードで、ただひたすら敵に向かって撃っていた。だから命中率も低く、アムロには全て避けられてしまっていた。
「そっか…」
ギュネイは自分の未熟さにガックリと首を項垂れる。
「そんなに落ち込むなよ。だからオレが教えてるんだろ?ギュネイは筋が良いからそれが理解出来ればすぐに活かせるよ。」
髪をワシャワシャと優しく撫でられてギュネイが顔を上げる。
「オレは強くなれるか?」
真剣に見つめるギュネイの視線に、アムロが目を見開く。そして、何故ここまで貪欲に強さを求めるのかと疑問に思う。
「なぁ、ギュネイは…なんでパイロットに志願したんだ?まだ15歳なんだし普通に士官学校に入ってからでも良かっただろう?」
「それじゃ遅いじゃないか!」
「遅い?」
「だって大佐はもう戦争の準備を始めてる。士官学校に行ってたら戦争が終わっちまう。オレは、バカな連邦の支配から独立して、弱い奴らがバカを見るこんな世の中を変えたいんだ。」
「ギュネイ…、君、家族は?」
「前の戦争で…死んだ。戦災孤児は集められてこのコロニーに放り込まれるんだ。住むとこも食う物もまともに与えられず、弱い奴は飢え死にする。力がある奴は掻っ払いとか強盗とかして食いつなぐ。」
「ギュネイ…」
「オレは掻っ払いして捕まった時、大佐に拾われた。ちょっと勘がいい所が誰かと似てるとか言ってた。それで、ニュータイプの素質があるって言ってナナイ大尉に預けられたんだ。だからオレは世界を変える為に、それを成し遂げてくれる大佐の為に強くなる!」
そんなギュネイに、昔、ララァが言った言葉が脳裏をよぎる。
ララァは言った。『自分は自分を地獄から救ってくれた人の為に…シャアの為に戦う』と。
そして思う。自分は今も昔もただ、流されるまま、言われるままに戦ってきた。
ララァにはそれを見抜かれて『あなたには故郷も、愛する人も、守るべき人もいない。なのに何故戦うのか』と責められた。
「…ギュネイは凄いね。」
「アムロ・レイ?」
「君は強くなるよ。オレなんかよりもずっと…ずっと強くなる。」
そう言葉を紡ぐアムロに、ギュネイは何か悲しい思惟を感じる。
普段、アムロは完璧に心を閉ざしてその中を見せようとしない。ニュータイプの素質のあるギュネイやナナイの前では特にだ。
だが、この時は微かだがアムロの思惟を感じる事が出来た。
アムロの心が揺れているのだ。不安定なその心がいつも完璧なアムロのバリアを少し薄くしているのだとギュネイは思った。
ーーーーー
訓練の後、アムロはマックス中尉に付き添われ、エレカでシャアとの会食場所へと移動する。
「え?ジオンの高官も一緒の会食なのか?」
「はい。ああ、心配しなくても大佐を支持する方達ばかりなので前のように『針のむしろ』と言うことはありませんよ。」
「ああ…」
あの後、裏でシャアを貶めようとしていた高官が数人、色々な理由で失脚したと聞いた。最後までアムロを殺すべきだと言っていた高官もその内の一人だ。
シャアもこの組織ではまだ微妙な立場なのかもしれない。ジオンは元々、複数の派閥に分かれている。
ある意味、これを力ずくながらも一つに纏めていたデギン・ザビとギレン・ザビは過激ではあったが、政治家としてはジオン・ダイクンよりも優秀だったのだろう。
「そろそろ着きます。」
マックス中尉の言葉に、緩めていた制服の襟を留める。
会食の会場に着くと、丁度シャアも着いたところで、エレカから降りようとしていた。
と、その瞬間、アムロは殺気を感じてエレカを飛び出す。
そして、シャアの前に飛び出した瞬間。一発の銃声が鳴り響いた。
「シャア!」
「アムロ!?」
シャアの前に突然現れたアムロの身体が、銃声と共に崩れ落ちる。
そして、シャアの胸に縋り付いたアムロの身体にもう一発銃弾が撃ち込まれる。
「うっ!」
呻き声を上げながらも、アムロはシャアを自身の身体で覆い隠すように縋り付く。
「アムロ!」
シャアの護衛が周りを固める中、自身に覆い被さるアムロの身体から暖かいものが流れ出してくる。
シャアはアムロの黒い制服をギュッと抱きしめ、その液体を手で掬う。
それは真っ赤なアムロの血。止め処なく流れるそれを見つめ、シャアはその色とは対照的に色を失っていくアムロの顔に心臓が止まりそうになる。
「ア…ムロ?」
コロニーの人工的な空からポツリ、ポツリと雨が降り始め、その雫がアムロの血を地面に広げていく。
シャアは雨の中、アムロの身体を抱き締めて何度も叫ぶ。
「アムロ…!死ぬな!」と…。
to be continued.
作品名:predator〈捕食者〉4 作家名:koyuho