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分厚い手紙

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「昔のことは忘れてください…」

思わぬところで上げ足を取られたメデューサは、力なく返すことしかできなかった。


                 ☆


資料室を飛び出した俺は最下部の庭園に向かった。フランが何か用事があるとき以外のほとんどをそこで過ごしていることを知っていたからだ。
入り口を抜けると、思っていた通りすぐ近くの木陰で本を読む彼女を見つけた。

「隣、いい?」

「ウゥ」

そばに寄っていって尋ねると、フランは本に視線を向けたまま頷く。その反応に、とりあえず同席する許可は得た、と判断して彼女の横に腰を下ろした。
そんな俺をよそにフランが読んでいるのは、さっきジルさんが話題にしていた本、つまり俺がついこの前まで借りていた本だ。

「その本面白い?」

黙り込んでるのも妙な気がして、適当な質問を投げかける。無表情にページをめくる彼女はまさに無関心そのものの声音で、ウウ、と答えた。どうやらつまらないらしい。

「その本は全部読むの?」

薄々彼女の意図に気づいていながら、そんな質問をしてしまう。

「ウ」

短く答えた彼女の言葉はおそらく同意だろう。必要最低限の返答に話題が広がることもなく、またも沈黙が訪れる。このままではいつもと同じだ。
ろくに会話も続かないままで終わってしまう。
実は、何をすればいいのかも分かっている。
ジルさんが気づかせてくれたフランの行動の真意を、直に聞いてしまえばいい。けれど、どう尋ねればいいのだろうか。『なんで俺と同じ本読んでるの?』なんて、ストレート過ぎて聞けるわけがない。
焦燥感に駆られて隣に視線を向けると、ふと、俺を見るフランと目が合った。
焦点の合わない彼女の眼から感情を読み取ることは難しかったが、さっきからそわそわしている俺に何かしらの疑念を抱いているらしい。
不思議そうにこちらを見ている彼女の様子に、俺だけが勝手に焦っていたことに気づかされた。
 
「ふう」

一度、息を吐く。熱くなっていた頭を冷やし、何をすべきなのか考えた。

「ねえ、フラン」
 
「ウゥ?」

こちらを向いているフランに声をかける。

「俺もさ、けっこう本を読むんだよ」

考えても、特別なことは思いつかないから、

「だから、カルデアに来てくれたサーヴァントが読書好きだったりするとすごく嬉しいんだ」

ただ俺の思っていることを伝えてみよう。

「初対面でも会話が弾むし、お互いの好きな本を読んで感想を言い合ったりするの、すごく楽しいから」

「…ウゥ」

俺の言葉に考え込むように返事をするフラン。

「それに、読んだ本を通してその人の人となりも分かると思うんだ。好みとかけっこう出るからね」

この言葉にフランはわずかに反応した。その様子に勇気づけられて、俺は持ってきていたものを差し出す。

「この本、読んでみない?」

それは、少々厚みのある本だ。カルデアに来ることが決まった時に簡単に降りることのできない環境だろうから、と家から持ってきたものだ。

「もし、フランが本を読むことが好きなのなら」

本を通して俺のことを知ろうとしてくれているのなら、

「俺が一番好きな本も読んでみてくれないかな」

そうすればきっと、もっと互いのことが分かるから。

「そして、フランがこれまでに読んだ本で気に入った本があったら、それを俺に教えて欲しい」

「どうかな?」

 自分でも驚くほど、自然に言葉が出てきた。正直、もう一度言って欲しいと言われて答えられる気はしないが…。
 フランはしばらくの間、目の前の本を見つめていたが、ゆっくりと手を伸ばしてそれを受け取ってくれた。

「良かった。…ありがとね」
 
果たして、これを読んだフランは何を思うのか。それは彼女自身に教えてもらおう。本に視線を落としているフランを眺めながらそんなことを思う。

「それじゃ、俺はそろそろ行くよ。フランもあんまり根を詰め過ぎないようにね」

気づくとここに来てから結構な時間が経っていた。目的は叶ったし、この場から去ろう立ち上がった俺の袖をフランがつかむ。そして、木陰に積まれていた本の中から一つを選び出し、俺の胸に押しつけた。

「これは…?」

「ウウ…。ウウゥゥ!」

お前が言い出したのだろうとばかりに唸る彼女は、きょとんとしている俺に呆れたようにため息をつく。 そして、初めに居た時と同じように座り直し、読書を再開した。
取り残された俺はどうすべきか迷ったが、「隣、座るね」と返事も聞かずにフランの横へ行き、さっき渡されたばかりの本を開いた。

「ウゥゥ」

横合いから不満げな声が聞こえてくるが、追い出されるようなことはないようだった。不機嫌そうな表情でページをめくるフランが微笑ましく、顔がほころぶ。

「さて、と」

声を出すことで気合を入れ、本を開く。沈んでいた気持ちは、もうここには無い。少し軽くなった心を感じながら、手元の文章へと意識を跳ばした。



柔らかな日差しの中、二人分のページをめくる音だけが静かに響いていた。



作品名:分厚い手紙 作家名:たもん