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さよならの距離は

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 アルマとしてアップタウンに来る前のこと。まだ子供だったミニードゥは父親、母親とはぐれ、迷子になってしまったことがある。その時はもう二度と両親と会えないのではとすごく泣いた。その時の気持ちによく似ていた。

 ……親しい人に憑依やたまいれをしてもらう時、温かみを感じることがある。両親のぬくもりが体から抜けたような……そんな感覚だった。

「ううっ……」

 感情とともにあふれ出しそうな涙を、下唇を噛んで耐えた。

 飛空庭に戻ると、イリスカードの入った額縁が割れていた。
 中にあったイリスカードは──『つたえたいことば』だった。

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 ミニードゥは昨日オリジンが言っていたことを思い出していた。

「操っていると言うと物騒なので、私たちを守ってくれていると言った方がいいかもしれません。町の外に行けばたくさんのモンスターがいる危険な世界なのに今までさしたる危機もなく生きてこられたのは、何か運命のようなものを感じませんか? 『誰か』が私たちを知らないところで操り、危ない目に遭わないように守ってくれていたということです。しかし、なんらかの事情でそれができなくなった、と」

 この喪失感は『誰か』と離れ離れになってしまったことによるものなのかとミニードゥは考える。失くしてはいけないものを失くしてしまったような感覚だった。

 オリジンはこうも言っていた。

「例えばミニードゥの前ににんじんがあるけれど、ミニードゥは目を閉じているからそのにんじんは見えません。さて、にんじんはあるんでしょうか? 存在を確認できなければ、ないのと同じなんです。例えあったとしても、ないです。日本という場所から私たちのいる世界への繋がりがなくなり、存在を確認できなくなった。そうなると、日本からはこのアクロニアは見えず、感じることもできないので、ないのと同じなんです。でも確かに私たちはここに存在しています。世界の終わりとはそういうことなのかもしれません。世界はなくなってしまったけれど、ある」

 話が難しすぎて半分も理解できなかった。元々、頭の出来はあまり良くない。

 でも、アクロニアの各所にある危険から守ってくれていた存在がなくなり、これからは一人で生きていかなければならないということだけは感覚的にわかった。

 ミニードゥは天まで続く塔まで来ていた。

 普段はエレベーターホールでドミニオン世界やタイタニア世界へ行き来する場所だが、今は最上階まで上っていた。
 そこは文字通り、天がすぐ近くにある場所。手が届きそうな位置に雲がある。

 ここに来た理由はただひとつ。伝えなければいけないことがあったから、いてもたってもいられず、一度も来たことのないこの場所へ足を運んだ。

 ミニードゥは深呼吸する。

 ……まだ、かすかな繋がりは残っているのかな。
 今、気持ちを伝えなければずっとその機会は奪われてしまう。
 独り立ちする子供が親に向けるように、心よりのメッセージを感謝とともに伝えた。

「ミニーたちはもう大丈夫です。今まで支えてもらったから一人で生きていけるくらいに強くなりました。パートナー老師さんに転生させてもらって、手加減してくれるエミルドラゴンさんにも勝てそうな気がします。それくらい強くなりました。だから、これからは支えがなくても生きていけます。…………でも、でもね。さびしいです。今、すごくさびしい気持ちでいっぱいです。なので、時々は会いにきてください。それが無理なら、時々でいいから思い出してください。つながりが切れてしまったとしても、ミニーたちはここにいます。アップタウンもミニーもみんなも確かにここに存在しているのです。お別れの言葉を言うとほんとにお別れになってしまいそうなので、言いません。ありがとう──またね!」

 別の世界に届くように、ありったけの想いをこめて叫んだ。

 名前も知らない。顔も知らない。けれどその温かみだけは知っている”キミ”に向けて。
作品名:さよならの距離は 作家名:みなと