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代打の代打
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はじまりのあの日1 始めましたの六人

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玄関を掃く。ついでに靴箱も拭く。家族達の靴を取り出すなか、見つける。くたびれた、子供用の靴。茶色い革靴。一年半で履けなくなったけど、捨てることが出来ない靴。彼が来て初めての冬。わたしの、わたしたちの。九回目の誕生日へ、わたしの意識は戻ってゆく―

「どうしてムクれてんのリンレン。何かあったか、カイト」

わたしとレンはフテクサレテいた。九回目の誕生日。朝から、今日はどんな風にお祝いしてくれるだろう。どんな贈り物をくれるだろう。図々しく、子供二人はわくわくしていた。学校の授業中も、おそらく、そわそわ落ち着きが無っかったに違いない。彼が来るまでの三年間。姉兄は、忙しいながらも祝ってくれた。それが嬉しかった。ただ、あの年は状況が違った。ミク姉は公欠で仕事。姉兄も、同様仕事。PROJECTが忙しくなった証。喜ぶべきことだけど、こどものわたしと片割れは、そんなことなど考えなかった。それでも、なにかしらあるだろう。期待しながら帰宅。誰も居ない家。冬。寒かった。白い息を漂わせながら、片割れと会話を交わす。電気ヒーターを点ける

「寒いね、レン。おやつも用意されてないや」
「てきと~に食べようか。ココア入れるよリン」

誰も居ない。仕事だから仕方ないと、片割れと待っていた。家の外はどんどん暗くなる。あの日は、雪までちらついていた。おなかもすく。9歳にしては耐えたと思う。しかし、午後八時過ぎ。バラバラながら、ほぼ同時に帰宅した三人は

「ごめんね~ごはん、簡単な物、今用意するから~」
「あ~しんど、カイトビ~ル~」
「おなかすいた~カイ兄はやく~」

誰一人、言わなかった。わたし達の生まれた日。それでもと、カイ兄が用意してくれた食卓に着く。別に、インスタントラーメンが嫌なわけではなかった。問題は、食事の最中も、その後も。誰もわたし達のことを話題にせず。晩酌、洗い物、風呂へ向かおうとしたことだ

「今日、わたしたち誕生日なんだけどっ」
「何にも無いのかよっ」

とうとう癇癪をおこす

「え、今日って、あ」

ビールを開ける手が止まるめー姉

「え、あ、き、昨日が、ああっ」

皿を落しかけるカイ兄

「あ、きょう、二十七日、だ」

気付くミク姉。青ざめる

「「「ごめん、忘れてた」」」
「「っっっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」
「いや、ほら、仕事」
「みんないそがしくてさ」
「そ、ごめんね、リンちゃん、レンくん」
「リンも」
「ぼくも」
「「仕事してるもんっっっっっ」」

その言い訳で、完全に、不機嫌。もちろん、今なら言い分もわかる。でも、あの日、それからは家族と、言葉も交わさなかった。一人遅く帰って来た、紫の彼。状況を説明するカイ兄。彼は嘆息しながら

「ダメじゃない。いくら忙しくってもさ。特別な日じゃない。カイト、ちょっと運び込むの手伝って」
「え、殿」

言って外へ出て行く二人。車から、戻ってきたその手には

「神威君」
「がっくん」
「がく兄」

包みや箱。簡単な食べ物、菓子類に飲み物

「食事は、カイトが用意してると思ったから、簡単な物しかないけど。ケーキも、バラバラの見切り品。二次会って思ってたから」
「がくさん、まさか」
「買ってたら遅くなった。リン、レン、機嫌直して。これ、誕生日のプレゼント」

差し出される贈り物。赤茶色と黒、同じデザイン、子供用の革靴

「十時ちょい前か、少し遅いけどお祝いしようじゃない。リン、レン9歳おめでとう。ありがとう、生まれてきてくれて。俺と出会ってくれて」
「っがっくん~~~~ううう~~~~」
「がくっ兄ぃぃ~~~~~えっう~~」

彼の優しい言葉。わたしと片割れは、号泣しながら飛びついた

「あっありあっりがとぅ」
「うううれしっっがっがくに」
「はいはい、泣かないナカナイ。笑顔エガオ。みんなもお仕事、仕方なかったじゃない。さ、恨みっこ無しでお祝いしよ」

彼の膝にしがみつき、ひとしきり泣いて。落ち着いて。プレゼントを見て。気分は早くも、お祝いムード。本当に単純だ。いや、純粋と言うのかも知れない。リビング。ソファの前。使うことはできない、イミテーションの暖炉。中世ヨーロッパ風の空間。並べられたのは焼き鳥の盛り合わせ。マカロニサラダ、唐揚げ、赤いウインナー、肉団子からなるオードブル。海藻のサラダ、ナポリタンにおつまみ各種。中世ヨーロピアンとはほど遠い、こども共の大好物

「ほんっとごめんっ。リンも、レンも」
「こんどは忘れちゃヤだよ、めー姉」

手を合わせ、謝るめー姉に返すわたし

「ごめんね、リン。レンも。ありがとう、殿」
「ありがとう、がく兄。カイ兄、忘れないでね~」

弟も、ようやく落ち着いたようだ

「さ、乾杯しようじゃな~い。メイコ、カイトも。安物だけど、この白ワイン美味しいぞ。チビにもおいし~の買ってきた。ココナッツミルク・オレ。甘~いの」
「リンちゃん、レン君、ごめんね。わ~美味しそう、ちょうだいがくさん」
「リンも~がっくん、入れていれて~」
「がく兄、ぼくもそれ飲む~」
「本当~にありがとう、殿」

彼は、わたし達を祝ってくれた。しゃがんでいた、脚の痛みで意識が今へと引き戻される。掃除の続きを始める、あの日も彼に救われた。優しい彼にの思いやりに―