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はじまりのあの日2 幼い頃の思い出

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歩く、歩く、商店街。車は、駐車場においてある。張り出されている広告が目に入る。家、格安物件の広告。幸せなことに、私がいま暮らしている家は格安ではない。彼が、彼らが。赤い汗を流す思いで、仕事をし、周囲に頭を下げて、用立てし、建てた家だ。意識は、またも記憶の彼方へ飛んでゆく。彼が、彼らが。家を建てたあの頃へ―

「三人、まとめて合格だすのなんて、はじめてだよ」
「でも、三人ともはずしたくねえなって。しかもまさか」
「妹よ。お前ら、本当に来たのか」

プロデューサーと彼の言葉。そう、三人同時にオーディション合格なんて、後にも先にもない。世間様に認められつつあるPROJECT。稼ぎ頭に成長したミク姉の曲は、何本かミリオンセラーを記録。その上で、メンバー全員が、百万ヒットの歌を出していた。そこにやってきた、わたしにとっては三人の姉。神威の一族。彼の妹

「初めまして~皆さん。神威めぐみ17歳です。ブラコンですっ。憧れのみなさんに加えてもらえて嬉しいです。よろしくお願いしま~す。そだよ~。ぽ兄ちゃんを追いかけてきたよ~」

かわいらしいルックス、抜群のスタイル。柔らかな歌声で、たちまちミク姉と、向こうを張る歌い手になった『暖かな恵音(あたたかなめぐみね)』めぐ姉

「よろしくすっ、みんな。カムイ・リリィ13歳。ウチも、おにぃの歌、みんなのカッケエ歌、聞いて。おにぃと同じ道、進みたくって。参加できて超ウレシ~」

学生らしからぬ、かっこいい、容姿と声『雷鳴の叫び声(らいめいのハスキーボイス)』は、伸びしろが計り知れないと、高評価のリリ姉

「あにさま、おひさし。みなさん、初めて。歌好き、あにさま好き、みんな好き。うれしいうれしい。よろしくよろしく。11歳のカムイ・カル」

『美妙なる声(みみょうなるこえ)』は文字通り。不思議キャラと、くりくりと大きな目があいまって可愛い。と評判のカル姉

「まじか~、お前ら~」
「「「まじだよ~」」」

そういって三人に、飛びつかれた彼。熱烈にハグされる。でも、なんとなく嬉しそうだった。そうだろう。遠くに離れた。彼は以前、寂しげに言っていた。わたしが9歳、六月のある日、彼にとって大切な妹達の歓迎会

「わ~二年ぶり~。ぽ兄ちゃんのごはん」
「がっくん、昔から作ってたの」

わたしの問いかけ。めぐ姉の声に微笑みながら

「俺の親父もさ、音楽関係の仕事してんだけど。世界中飛び回ってて、家にいるほうが少ない。オフクロは、俺が5歳の時、逝っちゃった」
「神威君も苦労人ね」

気の毒そうな顔をするめー姉

「はは、気にするな、メイコ。で、俺が8歳の時再婚。ま、そのオフクロも忙しい人で、家に居ない。10の時めぐが生まれた。二人、生活は全部自分たちでやってたからな。学費だの生活費は、親父が入れてくれたけど」
「ぽ兄ちゃんがお父さんみたいな感じ。わたし達の面倒、みてくれた」
「そのうち、ウチらも一緒に住むようになったんだ。ガッコ、通うのに近かったから。その辺りから、おにぃの稼ぎも家に入れてくれて」
「あにさまが歌い手。自慢だったけど寂しかった」

彼は歌い手として。わたし達だけでなく、妹達まで養っていたことを知る。めぐ姉は実の妹。リリ姉、カル姉は親族。そう彼は話した。初めのうちは共同生活していたけれど、さすがに手狭になる。彼らは少し無理をして、我が家の隣に家を建てた。木造平屋建て、広々とした、日本家屋を。マンションが建つ丘の上には、スペースが幾らでもある

「お隣さんだからいつでも会えるんだけど。引っ越しちゃうと、やっぱりちょっと寂しくなっちゃうよねぇ」
「ほんとよね~。いつの間にか、そんなに一緒に過ごしてたのね、あたしたち」

完成していく家を観ながら、何度か交わされた会話。そう、たった二年とは思えないほど、密度の濃い時を過ごした

「さびしくなるよ~がっくん。たくさん、遊びに行くよっ。いっぱい、遊びにきてね。きっとだよ、絶対だよ」
「何言ってんだカイト。いつまでも、世話になれないだろ。よそものの俺が。まあ、寂しくないって言ったら嘘か。なら、ちょいちょい。ご飯会でもしようじゃない、メイコ、リン」

引っ越しを手伝いながら、またも交わしあった会話。もはや、家族も同然の彼。しかし、彼は言った。自分の事を『よそもの』と

「ああ、カイト。これ、神威家の合い鍵」
「ん。殿」
「悪党なんざ居ないじゃない。好きに使ってくれ」
「神威君、アタシからも」

合い鍵交換。もちろん、個々の部屋の鍵はまた別だが

「ありがとう、メイコ。なんだか実家の鍵みたいじゃない」
「実家みたいなモノでしょ、神威君。ご飯会しましょうね」
「ああ。そうだ、今度落慶式やるから、みんなで来てほしいじゃない」
「らっけ~しきって何、がっくん」
「家が出来たお祝いと、これからよろしく住まわせて~ってお祈りの式」

そう言って、できたばかりの『自分の家』に帰った彼。四六時中聞いていた声が、音が。少し遠くから聞こえるのは。姿が見えないのは。やっぱり寂しいものだった。だから、彼の家に、しょっちゅう遊びに行った。遊びにさそった。でも、家に帰るときには、彼が、彼らが、家へ帰っていくときは、寂しくて。彼の気配がしない家。彼の私物が無いマンション。彼が引っ越して、思い知った寂寥。あの距離感が、思慕の念をよりいっそう、深いものに変えていったんだ。今のわたし、ふと気付く―