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はじまりのあの日2 幼い頃の思い出

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商店街で食品を仕入れ、我が家へと帰ってくる。一度、台所で荷物を置く。手を洗う。週末はいつも、誰かが誰かを連れてくる。今日もきっと、連れてくる。縁が深まったメンバー。誰かが誰かと連れだってやってくる。形態は変わったけれど、楽しい事に変わりは無い。ずっと続いてる恒例行事。記憶の日記、またもわたしは手をかける―

「「「「こんばんは~」」」」

ホールから、愛しい声が聞こえてくる。今日も玄関の扉が開く

「生活は別になるけど、仕事や用事がないかぎり。週末、夕食だけは、せめて歌い手全員で食べようじゃない」

縁(えにし)が深まった、メンバーの決まり事。優しい彼の、発案で

「いらっしゃいっ。がっくんっ、めぐ姉っ、リリ姉っ、カル姉」

歌っているときを除けば、一番楽しい楽しい時間。不謹慎な物言いだけど、歌さえしのぐかもしれない、楽しい時間。わたしは、いの一番に出迎える

「やっほ~リンちゃんっ。今日の差し入れはシュークリームだよ~」

めぐ姉とハイタッチ

「おにぃの煮込みハンバーグと、肉じゃが、コブサラダもなっ」

リリ姉に腕が肩に回り

「あにさまごはんも好きすきす~。カイさまごはんも楽しみしみ」

カル姉に頭をなでられる

「「「さあ、いこ」」」
「リ~ンちゃん」「リ~ン」「り~んりん」

わたしは、幸せにもみくちゃにされる。神威家の妹、わたしにとって、新しくできた三人の姉。わたしを本当の妹以上にかわいがってくれる、大好きな、姉。すべてが愛おしくなる声と音に囲まれて、でも

「こらこら、あまりはしゃぐなよ」

わたしが聞きたくてたまらない彼の声。神威家の大黒柱にして、PROJECT男性歌い手の要。カイ兄と実力を二分する、PROJECTの要。この時、すでにそこまでの評価を得ていた彼の声は、一番最後に訪れる

「こんばんは、リン」

ぽんぽん、頭をなでてくれる。至福の感覚に、気持ちが高揚していく

「まってたよっがっくん」
「ん、ああ、ありがとう」

自分の手を見て、なぜか疑問符を浮かべた彼。その理由をわたしは後で知る。リビングに入りながら彼が言う

「お疲れ~。これ、バーボン。もらいもんだけど、メイコに~」
「神威君ありがと~。あ、純米、用意しといたよ」
「これはまた、ありがたいじゃない女王様」

お酒好き二人、意気投合で意気揚々

「いらっしゃ~い、がく兄」
「はじめようか、殿、め~ちゃん」
「発声は~リリィ~」
「アザ~ス。みんな、おにぃ、おつかれ~。ここに、ウチが居んの、マジうれし~。これからも、みんなで歌お~ぜ、じゃあコップ持って」

週末の晩餐会開幕

「「「「「「「「かんぱい、おっつ~」」」」」」」」

並んだ料理。カイ兄が作ってくれた、魚介のパスタ。トロトロ玉子のオムレツ、酢豚。彼作の、煮込みハンバーグ、めだまやきまで乗っている。ホクホクの肉じゃが。コブサラダ。口をつけるわたし達

「神威君のサラダ、最高のおつまみだわ~。バーボンもありがと」
「はいはい、めーちゃん、飲み過ぎないでよ」
「うう~がくさんのハンバーグたまんな~い。三つ星店以上~」

紫の彼が作った料理の感想。全員、感嘆、良い笑顔

「おいおい、ミク。簡単なもんじゃない、そんなの」
「かいさまのオムレツふわとろ、うまうま」
「っおいしっ、このパスタどうやんの、カイト」
「ありがとカルちゃん、リリちゃんそれは―」

カイ兄の料理へのお褒めの言葉。会話を聞きながら、おいしく食べていると

「リン」

思い出したように、彼に呼ばれた。手招きされる

「がっくん」

嬉しくなって、よっていくと

「レン」
「ハテナ」

弟は、不思議そうによってくる。立ち上がり、わたしたちの頭に手を当てて、背を測る

「ん、やっぱりな。さっき会ったとき思って。始めて会ったときより、だいぶ背、でかくなってるじゃない」

ぽんぽん、わたしたちの頭に手をのせて

「旨いモノ、たくさん食べて大きくなれよ」

と微笑む彼

「ありがと~がっくん。大きくなるから、おいしいの、たくさん食べさせてねっ」
「まかせるじゃな~い」
「おれも~。絶対リンよりでかくなってやる~」
「ふ~ん、負けないも~ん」

彼の言葉がうれしかった。はやく。少しでも早く、彼に見合う存在になりたい。何故だか、そんなことを思う時期だった。また少し、記憶の図書館に短期滞在をしてしまった。荷解を始めるわたし。少し上の棚。ついでに買った、ラップを置く。踏み台はもう、要らなくなった―