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はじまりのあの日2 幼い頃の思い出

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荷解を終え、一息つく。テレビを点ける。写し出される小さな双子。再放送のドラマだろうか。思い出すな、昔を。ちびだった頃を。ああ、意識の一片がまた、記憶図書館の扉をくぐる―

「面白ろくね、先輩(パイセン)このコンビ」
「確かに。この二人だけってのは、無かったね今まで」
「初めてがこれ曲って~のも良くねぇ」

夜、真夏の暑さが引いて、過ごしやすくなった季節。喉の渇きを覚えて目が覚めた。キッチンに向かおうとする。その途上、たまたま、打ち合わせで泊まることになったプロデューサー。マンションの二階には、二人の仕事部屋もある。その部屋の前、二人の会話を立ち聞きした。部屋の外、息を潜めて

「いってみよ~か」
「がくリン、おもしれ~な」

大好きなミク姉と、共に歌ったお気に入り。昔々を舞台にした、ちょっと悲しい、恋の歌。彼と私に、歌わせてみようと。初めて二人だけで歌わせようと。なんて素敵な提案だろう。と心躍らせた。お礼を言おうと思ったそのとたん

「だけど~」
「吉原で」
「リンで~」
「がくだろ」
「「な~んかハンザイくさいな~」」

目の前が真っ暗になる。彼とわたし。歌っただけで「罪」なのか。10歳のわたし。失意、悲しみ。言いしれぬ憎たらしさ

夢遊病者のように、マンションを出る。どんな風に抜け出したか、今になっても思い出せない。それほど『ハンザイ』と言う言葉に痛めつけられていた。真夜中に、彼の家を訪ねたのは、初めてだった。家族の誰にも言わず、抜け出すのも。呼び鈴をおしても、彼が出てくる保証もなかったのに。胸に芽生えたもやもやを。胸元の、黒い塊を、消したくて。彼に、彼だけに、逢いたくて





「どうした、リン。こんな夜中に」

出迎えてくれたのは、幸いにも彼だった。心配そうな、そして深夜の外出を、少しだけとがめるような、声と視線。開口一番私は言った

「がっくん、わたしと歌って。この歌、歌って」

楽譜を見せる。分かりかねている、彼。泣くまいと思っていたのに、涙がでてくる。驚いた彼の顔。視界がだんだん、ぼやけてゆく

「わたしは、がっくんと歌いたい」

歌いたい。彼と歌いたい。想いが、涙となってあふれ出る。彼のゆびが、頬に触れる。涙をぬぐってくれる

「歌おうリン。俺は、リンと歌いたい」

膝を折り、わたしの目の高さで、至近距離から、彼の瞳に射抜かれて。わたしを、肯定、してくれて。心のタガが外れた。いよいよ、本格的に泣き始めたわたしは、気がつけば彼の腕に抱かれていた。腕の中、泣きじゃくりながら、彼の部屋へと運ばれる。とんとんと、背中をさすってくれる













「落ち着いたか」
「ん」

ひとしきり泣いて、落ち着いたわたし。彼の部屋。六畳間。座卓、敷き布団。電気スタンドの明かりのみ

「飲め、落ち着くぞ」
「ん」

差し出してくれるホットココア。口をつける。甘く煎れてくれたのは、彼の思いやり。涙のワケを、決して彼から聞こうとしない。それが彼のやさしさなのだと感じた

「あのね、プロデューサーさん達がね、この歌、がっくんとわたしが歌うとハンザイくさいって。わたしと歌ったら、がっくん、わるい人なのかな。わたしと歌うの、ダメなのかな。わたし、がっくんと歌いたくて―」

「リン」

「うっうたい―」

治まったはずの涙が、また、あふれ出しそうになった時、彼の手がわたしの頭に乗る

「っあ~いつら―」

わざと、強めになでてくれる

「気にすんな。そんなこと。勝手に言わせとけ。俺はリンと歌いたい。それでいいだろ」

そう言って、わたしの両肩に、手を置く。目を見ながら

「ここまできたら歌うぞ、二人で、絶対に」

どこまでも真摯に、言ってくれた。沈んでいた気持ちが、たちまち高揚する。破顔して

「いいの、がっくん」
「俺はリンと歌いたくなった。歌うぞ、二人で」
「ありがとうがっくんっ約束だよ」
「約束だ」

彼は、小指をさしだして、指切り。こんなことで、簡単に機嫌が直る。子供だった。でも、その子供に、どこまでも真摯に接してくれた彼。言葉が、想いが。本当に嬉しかった。彼のその言葉で、もやもやも、胸元の塊も消え、彼に手を引かれて家に帰った。彼の声を聴いたから。その後は、何も気にすることなく眠りにつけた














「ほんとごめんね、リン」
「がくが、本気でぶち切れてさ」

後日談。腫れ上がった顔。貼られた膏薬、絆創膏。わたしに、謝罪の言葉を述べながら、プロデューサー二人から聞いた話。そうだ、あのとき彼は確かに言った『あいつら』と。普段、尊敬の念を込めて、決してそんな呼び方をしない二人を。だから、その時点で、彼はハラワタが煮えくりかえってていたんだろう。お酒を飲みながら二人で盛り上がっていると、修羅の形相の彼が現れたという。そして怒り狂った彼に、弁解の余地なく、問答無用でぶっとばされたという。そのとき彼が叫んだという言葉を聞かされて、わたしはまた嬉しかった

「てめぇ等リンを傷つけてんじゃねえぞぉぉぉぉぉ」

思い出して、今もにやにや、するわたし。そうだ、彼の好きな、茄子の煮浸しも作ろう―