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はじまりのあの日5 過ぎゆく時・育む想い

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甘党の向けに、チョコレートスティックを籠の中に盛っておく。ついでに、ホワイトの、クランキータイプのモノも。チョコか。11歳。NYから帰った二月後。始めてお小遣いで買って、彼に送ったあの日。記憶の部屋、いつの間にか、入り込む―

「がっくん、バレンタイ~ン」

夕刻。家(マンション)のリビングに顔を出す彼。腕には、なにやら袋を下げ、両手持の大きな箱。バレンタインは明日だけど、本日はメンバーの都合が合いやすい。だからみんなで盛り上がろうという、めー姉の提案だった。メンバー同士のチョコレート交換も、この日から始まった

「お、ありがとうリン。こんなことに、わざわざお小遣い使わなくても良かったのに」
「えへへ、バレンタイン。みんなへの感謝を示す日なんだって。ルカ姉が言ってた~。その袋持ってあげる~」
「そっか。ありがとう、嬉しい。お利口さん」

一度箱を適当な台に置き、かがんで撫でてくれる彼。彼に贈ったのは、板チョコながら、少し高級なホワイトチョコレート。わたしに袋を預けてくれる。その中から、一つ、包みをとる。白の袋でラッピングされ、黄色のリボンがついている

「そんなリンに、はい、チョコレート。作ってみた。中に、生キャラメルが入ってる」
「ええっ。ありがと~がっくん。うっわ~聞いただけでおいしそ~う」

市販のチョコレートなど、遙かにしのぐ、彼のチョコ。手に持って、暖炉、ソファのスペースを抜け、大テーブルの間へいたる

「あ、待ってたよ殿」
「がく兄、今日は料理、おれらにお任せって事だったから」

朝から、腕をふるっていたカイ兄。わたしとレンも手伝った。午前中は仕事だっためー姉、キヨテル先生。さっきチョコを手に帰って来た、めぐ姉、リリ姉は午後仕事。ミク姉、ルカ姉は一日仕事。夕方には帰ると言っていたが、まだ戻っていない。どうやら、押しているらしく、先に食事をしていてと連絡が入る

「おお、ありがとな。美味しそうじゃない」

テーブルの上、湯気を立てるホワイトシチュー。カニのフライに麻婆春雨。スープに浮かぶワンタンと、定番の野菜サラダ。紫の彼がカイ兄に直伝した、ふろふき大根

「ぽ兄ちゃん」
「おにぃ」
「あにさま」
「「「はい、チョコレート。だ~いすき」」」

妹達に飛びつかれる紫の彼。めぐ姉たちもそれぞれに、わたしたちとチョコレート交換をしてくれた。ただ、リリ姉は、キヨテル先生だけに少し高めのチョコを渡していた

「っと~、待てまて、妹よ。落としそうだったじゃない。デザートに、これ、作ってみた」

テーブルに置かれる箱。開かれる。出てきたのは、大きなツヤツヤのチョコレートケーキ。感嘆の声が上がる

「すっご~い殿。もしかして、料理オレ達に振ったのって」
「がく兄これケーキなの~」
「そ、これ作るため。ザッハトルテ。オーストリアの、伝統的なチョコレートケーキ。カイトの誕生日も近いじゃない。バースデーケーキも兼ねてってトコロかな」
「え、ホント、殿。うっわ嬉しい、ありがとう」

子供のように喜ぶカイ兄

「わわわ~、ぽ兄ちゃん。おいしそ~」
「本格的~神威君。チョコレート苦手だったのうそみたいね」
「これは芳しい(かぐわしい)ですね、神威さん。甘党のわたしには堪え(こたえ)られませんません。このルックス」
「だよねセンセ。すっげ~おにぃ、こんなの作れんだぁ」
「リンのおかげ。克服できたじゃない」

撫でてくれる彼。そのての感触が、ひたすら心地良い

「それから、みんなにチョコ作った」
「え、作ったの、殿」
「マジ、ウチのもあんの、おにぃ」
「決まってんじゃない。はい、リリ。中に蜂蜜入ってる」
「ありがとーおにぃだ~いすき」

飛びつくリリ姉。彼が、どんなチョコをくれるか、もはやみんな、心待ち。一同、彼の前に整列

「メイコにはブランデー入り。カイトは中にバニラクリーム。レンはバナナのペースト。めぐはいちご、煮詰めてクリームと混ぜた。カルはマシュマロをチョコでコーティング。テルには、コーヒークリーム。ああ、ケーキ冷蔵庫にしまって、カイト」
「了解。殿、チョコレートもケーキも嬉しいよ。ありがとう」

チョコを受け取って、ケーキをしまいに向かうカイ兄

「ミクとルカは後からだな」
「ありがとね神威君。わ~うっれしい~」
「よし、まず乾杯しちゃおうじゃない」

始まった、バレンタインのご飯会。でもあの日、主役だったのはごはんよりも、彼の作ってくれたザッハトルテ。そしてチョコ。途中から全員、気にかかってしょうがない。自分たちで作った料理は、早々に撤収。また明日以降、食べれば良い

「さ~あ、神威君。食べさせて頂戴なっ」
「あんま期待しないでほしい。初めて作ったモンだ、まずかったらイヤじゃない」
「がく兄、あの見た目でマズかったら、ウソだから」

冷蔵庫より、彼が持って来たる未知の洋菓子