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静雄さんは心配性!

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静雄さんは心配性!




(あれ?)

目を覚ました帝人は驚いた。天井が違う。そして、なぜかベッドに寝ている。苦学生である帝人は布団で寝起きしており、天井は古びた木の色で、目の前にある、少し灰色にくすんでいるが高級なマンションを彷彿させるそれと間違えようがない。混乱のうちに起き上がったが、一度煙草の匂いに気づくと、その答えはすぐに導き出された。

(静雄さんの家だ、ここ)

起き上がろうとして、足首に引っかかる存在に気づいた。猫の首輪のような皮のベルトが左足首に取り付けられ、そこから長い金属の鎖が繋がっていて、ベッドサイドと繋いでいる。驚きに瞬間頭の中が真っ白になった帝人だが、あまりの非日常にスイッチが切り替わり、心当たりを記憶からかき集め、数秒後には落ち着いていた。この部屋は静雄のものであり、ならばこれを帝人に施したのは彼以外に考えられず、そして犯人がわかると犯行理由もしごく納得がいった。あくまでも、帝人にとってであり、セルティや正臣などが聞けば、それはおかしいと言うに違いないのだが。

(とうとう、ここまできちゃったか)

犯行手段についても、昨日静雄が帝人のうちに泊まったことを思い出せば、疑問の余地はない。しかし、寝ている帝人に気づかれずに運び出すとは、今回の静雄の仕事は本当に慎重に遂行されたようだ。単に帝人が図太いだけかもしれないが。



最初のきっかけは本当に些細なことだった。帝人にとっては。

それは一ヶ月ほど前。西口公園で二人で雑談をしている時に、茜が静雄を見つけ、彼女にとっては日常的なコミュニケーションの一環として、スタンガンを静雄に押し付けようとした。静雄にはそんなもの蚊に刺された程度のダメージでしかない。だが、その手前で茜が転んだことにより、その被害は隣にいた帝人が被ってしまった。たとえ平和島静雄にとってはたいしたことではなくても、普通の人間にとってはありえないほどの電流だ。何が起こったかを理解する前に帝人は気を失い、気づいたときには新羅の家だった。幸運なことに何の障害も残らず、心配する静雄に送られ、帰宅した。帝人はそれ自体は、非日常との遭遇の一つとくらいにしか認識しておらず、特筆すべきことは、その後、泣きそうな茜と黒服の集団の訪問され治療費という名の分厚い封筒を受け取らされたことくらいだ。

それを契機にして、静雄は帝人に対し心配性になった。これは帝人の憶測でしかないが、あまりの帝人のひ弱さにびっくりしたのだろう。希少で脆弱な絶滅危惧種のように大事に大事にしてくれるようになった。

毎日メールや電話で無事を確認される。池袋に行く際には必ず事前に静雄に連絡するように約束させられた。

帝人は、なぜ静雄がそこまで心配するのかがわからなかった。確かに帝人は常人並かそれ以下の体力しか持たず、小さな身体つきと童顔とが相まって頼りなく写るのかもしれない。だが、全く後遺症は残っていないし、そうほいほい怪我をするわけもない。被保護者として接されることに、多少の不満もあった。池袋の騒乱から守らなければと思われることが、自分は池袋の非日常にふさわしくないと言われているようで悲しくもあった。

静雄のそれがエスカレートしたのは、折原臨也に遭遇してからだった。

静雄を待っていた帝人を臨也が発見し、いつものように絡んできた。彼と待ち合わせ相手との鉢合わせを恐れた帝人はさっさと帰ってもらおうとしたが、そんな帝人に気を悪くしたのか臨也はしつこく構ってきた。そこに静雄が現れたのだ。結果は推して知るべし。ただいつもと違ったのは、臨也が投げたナイフで帝人が怪我をしたことくらいだった。単に頬に掠り傷を負った程度だったが、静雄は標識を放り投げ、帝人に走りよった。興冷めしたのか、これ幸いと思ったのか、臨也はその隙にいなくなっていた。

臨也のナイフは帝人を狙ったものではなく、単なる余波を受けたに過ぎない。だが、静雄は怒り狂い、帝人を新羅の家に担ぎ込むと臨也を探しに駆けていった。取り残された帝人は、軽く手当てを受け、セルティや新羅と談笑し、黒バイクで自宅まで送ってもらった。

問題は、帝人が天敵と交流があることを静雄が知ってしまったことだった。元同級生の質の悪さをよくよく理解している静雄は、さらに帝人を心配し、しまいには学校まで迎えに来るようになった。休憩時間をずらしてもらっているらしい。毎朝毎晩慣れないメールで帝人の無事を確認し、学校の帰りは家まで送られる。僕だって高校生だし、遊びに行きたいんですと言えば、セルティか門田に連絡を入れ、彼らの元まで送り届けた後、再び仕事に向かう。明らかに無茶な生活だった。

それならいっそ、自分のもとへ置いておこうと静雄が考えても無理はない。いや、明らかに無理はあるが、こんな生活を続けていけばいつか破綻を迎えることは誰の目にも明らかだった。

帝人は驚かなかった。誘拐監禁などは静雄に最も似つかわしくない行動だが、おそらく彼は自分がしていることをわかっていない。ただ帝人を守ろうとしているだけだ。純粋な人なのだ。その分たちが悪いとも言える。

何を言っても無駄だろう。だが、唯一、帝人は妥協できない点があり、このことだけは説得しようと考えていた。少々発想がついていけないところもあるが、根はまっすぐな人だ。きっと静雄もわかってくれると帝人は信じていた。

静雄は今仕事に行っているのだろう。壁の時計を確認すると、既に10時を回っている。今日は欠席だなと帝人はため息を着いた。







「おかえりなさい」

「た、ただいま」

ドアの開く音を聞きつけて、玄関に向かって声をかける。少し顔を赤くして静雄は答えた。

「あー、悪かったな、何も言わずにこんなことしちまって。なんか付けとかないと、お前帰っちまうと思ったんだ。それ嫌だったらはずしてもいいぞ」

「はあ、いいんでしたらはずしますけど」

下僕志願の後輩とは違って、帝人に縛られて喜ぶ趣味はない。

「静雄さん、あの、お願いがあるんです」

「なんだ?帰ること以外だったら何でもきいてやる」

「そんなに僕の家は駄目なんですか?」

「あそこはイザヤに知られてるだろ。それに、あんなセキュリティも何もねえとこだったら強盗だって入ってくるかもしれねえし。俺んちのがまだマシだ」

「そう、ですか」

人間としての枠を超えた強靭さを持つこの男は、何かの拍子に帝人が傷つくことを酷く恐れている。なぜ静雄がそこまで帝人に執着しているのかはわからないが、きっと彼から見れば帝人は今にも死にそうなか弱い人間に見えるのだろう。彼の周りにも臨也だとかトムだとか強い人間が揃っているので、あっけなく傷つく帝人に驚いたに違いない。

茜よりもひ弱だと思われているのかと思うと少し情けなくなったが、茜は彼女の周りを囲む面々が強いからそこまで心配する必要がないだけだろう。そう信じたい。

静雄がこれほど強く望むのであれば、帝人には抵抗のしようがない。ブルースクエアを使えば話は違うのだろうが、こんな純粋な人の純粋な心配にそんな姑息な手段を使うのは申し訳がない。
作品名:静雄さんは心配性! 作家名:川野礼