はじまりのあの日6 海と花火と膝の上
シートの上に座るIA姉、さっそく冷やしきゅうりをカジる。カル姉も、お好み焼きのソースで、口の回りを汚ごす。思い思い、腰を下ろす。わたしは当然彼の膝の上。一升瓶の蓋を開け、プラスチックのコップに注ぐ彼。めー姉に手渡してあげる
「少し風出てきたね。涼し~」
「このくらいの風あっと良いんだぜ、レン。煙が飛んでくから」
屋台の焼きそばを食べながら、レン。その頭を撫でつつ、たこやきを摘まみあげるリリ姉。さきいかや、チータラを肴に、大人組も盛り上がる。まだ、うっすら明るい、宵の口。花火が気になる様子のメンバー、気持ちが高まってゆく。周辺の人たちの高揚感とも相まって。さざ波のような人の声。と、突如、鳴り響くファンファーレ。ナレーション、開始告げる。火ぶたを切る、スターマインの閃光と轟音
「すっげええええ」
「It’s a beautifuoooo」
「こんなのはじめてだよ。めーちゃん、すごいね」
「お酒もおいしいし、最高のシチュエ~ションだわ~」
仰天する片割れとアル兄。姉も兄も見とれる。打ち上げられる、尺玉。その下では、花火によって、光の滝が海面へ向かい形成される。左右へ飛び交う、光の球。視界の全て、180度。星の洪水、轟く爆音。こんな花火ははじめてだ
「すごいねっ、がっくんのふるさと花火」
「こんなの観たことないよ~神威のに~さ~ん」
「まだまだすんごくなるじゃな~い」
そんな彼の言葉通り。三尺球が連発されたり、クマのキャラクターの花火が上がったり
「がっくん、子供の頃から観てたんだ~。わ~羨ましい」
「その頃より、かなり等級上がった感があるけどな。俺も初めて見るようなのが幾つもあるじゃない。さてリン、何か食べたいのある」
「あ、やきそば食べた~い」
いつものように図々しい。カイ兄に頼んで、焼きそばを取って貰う彼
「じゃ~あ」
「「いただきますっ」」
二人、手を重ねて手を合わせる。割り箸を割って、当然のように
「はい、リン、あ~ん」
「あ~ぅ。ん、ういひい(おいしい)」
口へと運んでくれる。今思えば、よくも公然と甘えていたものだ
「あら、コチラでもスターマインが打ち上がっていますわぁ」
「花火とがくリン。いや~高画質モ~ドって素晴らしい」
ルカ姉が、うちわで扇ぎながら、ミク姉、新式のスマホを構える
「なに言ってるんだ、ルカ、そ~言うのは、カイメイ様に言おうじゃない。ミク、良い構図ならそこかしこに転がってな~い」
指摘され、今まで寄りかかっていためー姉から離れようとするカイ兄。時既に遅し。構図が強制膝枕へと昇華
「シャッタ~チャンスっ」
激写をはじめるミク姉に
「え~、というワケなのでリリィさん、ご移動頂けると幸いなのですが」
「え~、別に良くね、撮って貰お~ぜ、逆に」
リリ姉を膝枕する、先生が焦りはじめる
「ぐ、グミさん、この焼き菓子、もちもちで美味いすけど、どっすか」
「ありがと~勇馬君。お礼にこれ、美味しいよ、冷やしパイン」
ちゃっかりとめぐ姉の隣。勇馬兄が勇気をだす
「う~む、素晴らしい花火大会」
「ふはっ、ミクとは趣旨が違うけど、良い思い出になるんじゃない。楽しいな、リン。楽しそうだな、おまえ達~」
「すっごく楽しい~。あ、またファンファ~レ、スターマインだ~」
特大のファンファーレ。ラストの、市民様ご一同の寄付で行なわれる、特大最大のスターマイン。すごかったな。鍋ぶたが、カタカタ音を発てる。その音で、意識が今へと帰る。あの日も、わたしを、わたし達を思ってくれた優しい彼。そういえば、彼は言っていた『そんなに変わった土産はない』と。でも、おまんじゅう、地酒に、地ビール地サイダー。ようかんに、魚の形のおかき。美味しかった魚の干物まで買い込んで。結局はおみやげ盛りだくさんで、越後の国から帰ってきた。彼は今日、どんな手土産を持って帰るだろう。図々しくも考える。いや、まずは『彼が帰って来てくれること』が、最大お土産。わたしにとっては。うふふ、おのろけごめんなさい。誰に聞かれるでも無し。盛大にのろけよう―
作品名:はじまりのあの日6 海と花火と膝の上 作家名:代打の代打