はじまりのあの日6 海と花火と膝の上
そうこうして、目的地にたどり着く。主催者さんと打ち合わせ、会場の下見。当日、手伝ってくれるボランティアスタッフの大学生が紹介される。紫の彼のファンだという学生さん。髪型は彼と同じ。少し短かったけど。優しい彼は、肩を組んで写真撮影に応じてあげた。夕方には移動して、用意された温泉ホテルでくつろぐ。部屋は男女分けの四人一組。合計四部屋。でも四人には広い部屋。結局は、一部屋に集まって。メンバー全員集合で話していた
「がっくん、このおまんじゅうもちもちで美味しいね」
「気に入ったならリン。お土産に買って帰ろうじゃない」
テーブル、お茶を煎れてくれる彼。わたし、彼の膝に腰を下ろす。対面に座るめぐ姉とカイ兄
「オレもほしいな~。美味しいよこれ。このおまんじゅうもご当地なの、グミちゃん」
「そ~なの、カイトさん。黒糖入りの皮と餡がおいしいよね」
「もったいない、全国で売って頂きたいおいしさです。これは、多めに買って帰りましょう」
「おいし~だろ、センセ~。ウチの好きな蜂蜜も入ってんだ~」
キヨテル先生の膝に頭を乗せ、寝そべるリリ姉
「日本に帰ってきたら、ご当地グルメまんさ~い」
「そうでごザルカ。拙者ハ、全てが新鮮でゴザル」
「グミサンの地元も、楽しみっす」
IA姉、おまんじゅうをツイバム。アル兄はお茶を啜る。勇馬兄は、ガイドのペーパーを見ながらまったり。そんなふうに、皆一緒。楽しく時を過ごした。眠ったのは別々だったけど。日付が変わって公演当日。その日は朝から熱い日だった
「室内なのに、蒸しますわ、神威さん」
「うっわ。高温注意が出てるじゃない、ルカ」
うちわで扇ぐ、ルカ姉。携帯で、情報を確認する彼
「ホントなの、神威君。ならあんたたち、水分しっかりとるのよ~」
「め~ちゃんの言うとおり。でも、冷たいのじゃなくて、温め(ぬるめ)くらいのをね」
お味噌汁で、ご飯を流してめー姉。カイ兄、箸を置く
「冷タすぎると、腹を壊す故。塩分もタイセツでゴザルナ、カイト殿」
「では、梅干しを買っておきましょう、アルさん。売店にありました」
言い終わり、豪快に塩鮭でご飯を掻き込むアル兄。梅干し購入を提案、キヨテル先生。朝食を食べながら、大人組の気遣い。あの日、滝のように汗をかいたけど。倒れなかったのはそのおかげ
「おっはよ~、みんな。衣装できてるよ。まずは、口火を切る服ね」
「この服のオソロ。結構な破壊力だぜぇ~」
「ま、本当の勝負は『歌』だけどね」
ホテルのバスで、午前中に会場入り。まずは、近くのユースホステルで衣装合わせ。本日、はじめの曲はメンバー全員が同じ衣装。炭酸飲料を連呼した歌の時の、黒のボンテージ。ただでさえ、熱が籠もるレザー地の。歌うの曲のイメージにも合うからと。神威のプロデューサーが推して。全員で着るのは、当日がはじめて
「うっわ~、ルカ反則~。大人びたもんだね~」
「あら、カイト兄様、お言葉そのままお返ししますわ」
着替え終わって、お互いの姿について感想を言い合う。めー姉、ルカ姉、めぐ姉は、文句なし、大人の色気。紫の彼、カイ兄、キヨテル先生も、大人の色香が凄まじかった。リリ姉の小悪魔感も反則的。身長に反して、恵まれた体つきのIA姉。今にして思うと、変な反則感があった。アル兄も、まあ、反則は反則。逆に、わたし、レン、ミク姉は、明らかにミスマッチ
「しかしな、主らよ。悪影響じゃない、子供に着せるなよ。これを」
彼に言われ、ちょっと悲しくなる。そういえば彼や先生は、少なからず、わたしたちがこのボンテージを着ることに反対していた。悪ノリした、神威組のプロデューサーはムチまで持たせようとして、キヨテル先生が個室で『話し合い』をしていた。干からびてプロデューサーが出てきたことを覚えている。その口から『おっかねぇ』と零れていたことも
「何いってんだ、がく。それが狙いだぜぇ~」
「本気で言ってんのか、我が主よ。正気と思えん」
顔をしかめる、紫の彼。咳払いをする、キヨテル先生。目をそらす、神威のプロデューサー
「がっくん、リン達そんなに変かなぁ」
「や、そういう意味じゃない。似合ってるじゃない。リンレン、ミクもカワイイよ。だ~か~らこそ。変な目でみてほしくないじゃない」
「あいかわらず過保護ねぇ神威君。まちょっと言い分もわかるけど」
困り顔の紫様に、苦笑いのめー姉応える
「いまさら変えられないから仕方ないけどな。今日も精一杯やるぞ、可愛い双子もミクも」
「ダンスがんばろ~ねがっくん」
機嫌を直す単純さ。われながら、あきれたものだ。一度練習着に着替え直し、リハーサルを行なう。熱心なファンは、この時点で見学に来て下さる。野外ステージなので丸わかりだが、昨日のボランティアスタッフ。紫様ファンの学生さん。陣頭指揮の警備によって、近くでは見られない。リハを終えて、シャワーで汗を流し、昼食を済ませる。午後三時、ステージに大声援で迎えて貰う。暮らしていた期間が長い彼。ミク姉のふるさとよろしく、お帰りなさいの声
「ありがとう、たっだいま~」
大声で応える彼。盛り上がる会場とわたし達大盛況のうちに、ライブが終わる。アンコールの声まで頂いて、もう一曲
「また逢おうな~お・ま・え・達~」
「バイバ~イ」
歌い終わって、ミク姉と紫の彼。観衆の大歓声に応える。このライブも大成功と言って良かった。先程、衣装へ着替えをした、ユースホステルでシャワーを浴びる。今度は、私服へ着替えを済ます。花火鑑賞モードへと移行する
「はい、リンちゃん。一層かわいくなりました~」
「ありがと~。でも、めぐ姉の方が、かわいいよ~」
着付けが出来ない私。着付けてくれるめぐ姉
「さ~花火見に行こ~」
高めのテンションで。同室のミク姉が言う。二人と手を繋いで浜辺へ。あつまるメンバー。男性陣は甚平さん。女性陣は色とりどりの浴衣で。ありがたいことに、ここでも記念写真や、サインの声が上がる。ひとしきり応え、リラックスタイムに移行させていただく
「花火始まるね~ルカ姉」
「たのしみですわ、ミクちゃん」
ミク姉、今度は待っていたルカ姉と手をつなぐ。うちわで扇ぎあう
「レジャーシート、引いておいたでゴザル」
「屋台で、食べ物も買って参りました。甘い物も。どの屋台主様からも、申し訳無いことに―」
「テルサンに付き合って買ってきたす。めっちゃサービスの品、貰っちゃったっす」
「感謝しなきゃ~なぁ。メイコ、飲みながら観ようじゃない」
特別席、主催者様サイドが用意してくださる。そこに、敷物を敷いてくれるアル兄。美味しそうなモノを両手いっぱいに、先生と勇馬兄。半透明の一升瓶を片手にやって来る彼
「待ちかねたわよ~神威君」
「ゎたし、花火をおまちかね~」
「始まる前のむずむず感、わくわくわく」
屋台の発泡酒で、すでに上機嫌のめー姉が言う
作品名:はじまりのあの日6 海と花火と膝の上 作家名:代打の代打