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Lovin 'you ~If~ 後編

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翌朝、少し緊張した面持ちで皆、朝食を摂る。
「ブライト、兄はこちらに来れそうなの?」
セイラが沈黙を破ってブライトに尋ねる。
「ああ、午後には来られるそうだ。」
「そう…、それで…アムロの事は話したの?」
「…いや、すまん。なんて言っていいか思いつかなくてな…言っていない。」
バツが悪そうに答えるブライトに、セイラがそっと首を横に振る。
「気にしないで、寧ろその方が良かったかもしれない。」
「そうね。私もそれで良かったと思うわ。」
ミライもそれに頷いた。
と、そこに医師のアルフレッドが飛び込んで来た。
「セイラさん!大変です!」
「どうしたの?アル」
「アムロが…アムロがいないんです!」
「「え!?」」
皆一斉に立ち上がり、アルフレッドを見つめる。
「今朝、検温の時には居たんです。その後、少し目を離した隙に居なくなってしまって!まだ遠くには行っていないと思うんです。すみません!探すのを手伝って下さい!!」
「赤ちゃんは!?」
「赤ちゃんもいません!多分アムロが連れて行ったと…」
「アムロはそんなに歩き回れるのか?」
ブライトの問いにアルが答える。
「体力的に長距離は無理ですが、足に障害がある訳ではないので…ただ、自分が何をしているのか分かっていないんです。だから些細な事も危険に繋がります!」
「分かった!皆で手分けして探そう」
皆が席を立つ中、カミーユが両耳に手を当てアムロの気配を探る。
「カミーユ!アムロの気配は分かるか?」
カミーユは必死に気配を探すが何かが邪魔をする。
「それが…何かが邪魔をして…アムロさんの気配を隠しているんです。」
何かは分からない。だが、何かの意思がアムロを包み込む様に隠している。
ただ、“それ”からは悪意は感じられず、更にカミーユは混乱する。
「とりあえず近くを探してみましょう。私とアルで中庭と病院の方を当たってみるわ。ブライトとミライは屋敷内を、カミーユとファはテラスから海岸の方をお願い出来て?」
「分かりました!」


その頃、クワトロはブライトからの呼び出しに応じる為、エレカで指定された場所へと向かおうとしていた。
「あれ?クワトロ大尉お出かけですか?」
私服で出掛けようとするクワトロをデッキの上からアストナージが呼び止める。
「ああ、艦長からの呼び出しでね。夕方には戻れると思う。トーレスに後は任せてあるから何かあればトーレスに言ってくれ」
「了解しました、お気を付けて!」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
手を振るクワトロを見つめて、デッキのフェンスにもたれたアストナージが溜め息を吐く。
「どうしたんだ?アストナージ。溜め息なんて吐いて。」
「あー、アポリー中尉。なんていうか色男は何着ても似合いますね。」
クワトロの後ろ姿を指差すアストナージに「ああ」と頷く。
「久しぶりに大尉の私服姿見たけど、何ですかあの人。普通のスラックスとシャツ着てるだけなのに何であんなに格好良いんすかね!」
紺色のスラックスに薄いブルーのシャツを襟元を少し緩めて着ているだけの姿だが、醸し出す雰囲気のせいだろうか、男が見ても思わずドキリとする色気がある。
「普段、あの真っ赤な制服を着こなす人だぞ?何着たって決まるだろう?」
アポリー中尉の言葉にアストナージが大きく頷く。確かに自分がアレを着たら笑い物にしかならない。
「次元が違うんだ。あんまり気にするな!さぁ、艦長達が帰って来る前に修理終わらせるぞ!」
「了解~」
アストナージはクワトロから背を向け、スパナを手に作業に戻った。


「そっちはどう?」
「こちらにもいないわ」
屋敷内にも中庭や病院内にもアムロの姿は無かった。
「やっぱり外に出てしまったのかしら?」
「もしかしてニュータイプ研究所にバレて攫われたりなんて事!」
「それは無いわ。屋敷内のセキュリティは完璧よ。外から中への侵入はあり得ない!」
『しかし…中から外へ出るのは…可能だ』
「防犯カメラの画像は!?」
「ああ、そうね。確認するわ!」
画像を確認すると、検温のすぐ後に赤ん坊を抱いたアムロが、シルクの夜着のままフラフラとテラスから外に出て行くのが映っていた。
「やっぱり外へ!?」
「海岸の方かしら、それならカミーユ達が…」
「いや、海岸からは敷地の外に出れてしまう。すぐ横を私道が走っているし、急がないと危険だ!」
アルの言葉に緊張が走る。
「セイラ、貴女はここで待っていて!もしかしたら戻って来るかもしれないわ!」
ミライはセイラをその場に留めると、皆を連れて海岸へと急ぐ。
『アムロ!無事でいて!』
セイラはアムロの無事を祈りつつ、カミーユの言っていたアムロの気配を隠す存在の事を思い出す。
『一体…誰が…何の為にアムロの気配を隠しているの…カミーユは悪意は感じないと言っていたけれど…』

カミーユとファが海岸へと続く階段を降りていると、カミーユの脳裏に突然『助けて』と子供の声が響く。
カミーユは立ち止まると顔を上げ、辺りを見渡す。
すると突然、さっきまで霧で覆い隠す様にして感じることが出来なかったアムロの気配を感じる。
「アムロさん!?」
カミーユは耳に手を当ててアムロの気配を追い掛ける。と、砂浜を赤ん坊を抱いて歩くアムロの姿が脳裏に浮かび上がった。
「いた!海岸だ。」
しかし、アムロの歩いて行く方向がおかしい事に気付く。
「アムロさん!?ダメだ。そっちは海だ」
アムロは夜着のまま水の中へとどんどん入って行く。その表情はやっぱり虚ろで、瞳も何も写してはいなかった。
「アムロさん、気付いて無いのか?!そっちはダメだ!」
カミーユの様子にファが驚いて、思わず立ち止まる。
「カミーユ?アムロさんがどうしたの!?」
「アムロさんが海に向かって歩いてるんだ!多分本人は分かっていない!このままじゃ溺れてしまう!」
「ええ!」
「こっちだ!急がないと!」
カミーユとファは急いでアムロの気配に向かって走り出す。
『間に合ってくれ!!』


その頃、クワトロはブライトに指示された場所へと向かう為、海岸沿いをエレカで走る。
その時、ふと目の端に人影が映った。
何故か妙に気になって、人影が見えた海岸へと視線を向ける。
すると、長い髪を風になびかせて、服のまま海の中を歩く姿に、慌ててエレカを路肩に停車させて海岸へと走り出す。
人影に近付くにつれ、赤ん坊の泣き声が聞こえて来る。
「子供を抱いているのか!?」
土手を滑り降り、砂浜に足を取られながらも必死に人影に向かって走る。
「アムロ!止まれ!!」
無意識に叫んだ言葉に気付く間も無く、海の中へと迷いなく入って、その後ろ姿を追い掛ける。
もう既に、胸近くまで水に浸かっているにも関わらず、どんどんと歩みを進める背中に必死に手を伸ばす。
と、突然何かに足を取られたのかその背中が傾き、水の中に沈んでいく。
「まずい!」
クワトロは必死に沈みゆく腕を掴み、泣き叫ぶ赤ん坊を腕に抱く。
しかし、母親がそのまま沈んでいく。
「ちっ!」
子供を抱いている為、潜る事も出来ずに焦っていると水音と共に知った声が聞こえる。
「クワトロ大尉!!」
「カミーユか!子供を!!」
クワトロは咄嗟にカミーユへと子供を手渡すと、すぐさま海に潜って母親の姿を追う。
作品名:Lovin 'you ~If~ 後編 作家名:koyuho