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それならそうと最初から

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ジムリーダーと言う仕事の都合上、お互いの時間が合ったときしか、逢うことが出来ない。
 コガネジムはリニアステーションがあるためかカントーからの挑戦者も多く、アカネは忙しい毎日を送っていた。もっともコガネは地理的にエンジュからも程近いため、それはアカネに限ったことではないのかもしれないが。それでもアカネはある程度の休みは確保し、ポケギアの着信も気にするし、連絡が取れない時はメールにだって気を回すようにしている。
 恋人であるマツバはそんなアカネの気持ちを知ってか知らずか、最近はあまり頻繁に連絡をとってこなかった。もっともお互いが多忙であるため、アカネ自身連絡が来ても会えなかったであろうタイミングはいくらでもあったのだが。
 それでもたまにポケギアを見ては、マツバへ発信し、会えないかと声を掛けた。が、最近はそれができるタイミングすらも減ってしまっていた。
 そんな多忙な毎日を送っていたアカネであったが、ある日ジム内の一部が老朽化のため倒壊し、業者を入れてジム内の工事・点検を行うこととなった。建築関係に疎いアカネは、ジムリーダーとして業者にくれぐれもジム内のレイアウトを変えてくれるなと念押しはしたもののそれ以上出る幕は無く、やむなく点検期間中はジムを閉めることとした。
 そのため、アカネにとっては願ったり叶ったりな二連休が手に入ったのである。

「…出ぇへんなあ…」
コガネデパートの屋上でポケギアを構えるも、相手――マツバが出ることは無かった。
 ジムリーダーとしての業務を果たしているのか、それとも修行中なのか…もともとマツバ自身は連絡マメなほうではなかったが、ポケギアの着信は割と常に出てくれているのである。アカネは仕方ない、と発信を切った。
 エレベーターに乗って1階まで降り、外に出た。いつも目にしている光景だが、人が多い。アカネはたまたま手に入れて以来、普段乗ることのほとんど無い自転車に跨った。そのままコガネシティのゲートへと走る。
(まぁええわ、急に押しかけて驚かしたろーっと)
ゲート警備員には当然驚かれたわけだが、理由を説明して通してもらう。
 それぞれ各々対戦しているトレーナーを横目に、自転車を走らせた。自然公園を突っ切って、少し入り組んだ森の中を駆け抜ける。自転車に乗ったのは久しぶりだが、この道は歩きなれている。あっという間に、エンジュシティの門をくぐった。
 どこに行けばいいだろう。実家?いや、ジムが開いているはずだからそっちに行った方が早いだろう。挨拶をして仕事が終わるまで待っていてもいいし、暇なようなら話し相手ぐらいにはなれるだろう。そんな思いで、アカネはエンジュジムへと入った。
「あんた、コガネのジムリーダーのアカネだね。何の用だい?」
入り口に立った男性に声を掛けられる。アカネは、ああ、と呟いた。そういえば、ここにアカネが直接来ることはあまり無い。
「マツバに用があるんやけど、連絡とれへんから直接…」
「ああ、生憎今は留守なんだ。確か…ヤマブキに行ってくるとか何とか」
「へっ?ヤマブキ?なんで?」
思わず目をぱちくりとさせる。男性は頭を掻くと、
「何でも、ホウオウの少年に肩入れしててなあ…連絡来るなり、飛び出して行ったよ。バトルやってると思うぜ」
と言われて、なるほど、と呟いた。その少年――ヒビキは、自分も覚えがある。そもそもアカネのポケギアにも、ヒビキの番号は登録されていた。登録はしてあれど会うことも滅多にないし、実際ほとんど鳴らないから忘れていたのだが。
 ヤマブキシティの格闘場は現在は師範が修行中で普段は使われていない状態ではあるが、試合の約束時に限りバトル施設として、その場所をジムリーダーに提供している。

「わかった。おおきになー、おっちゃん」
アカネは溜め息を吐いて、ジムを出た。何というか、不幸なすれ違いであった。もう一度大きく溜め息を吐くが、ぶんぶんと首を振る。ああ、でも、ちょっと泣きたい。自分のジム内であったら、軽く大泣きしてすっきりさせるレベルだろうな、とアカネは思った。軽く大泣き、の表現が可笑しいのは自分の中でも突っ込まないことにする。アカネにとってその表現は間違いではない。
 アカネはポケギアを取り出すと、再びマツバに電話をかけた。ジムの塀を背にして、そのままずるずると座り込む。

『…もしもし』
「マツバ、今どこおるん?」
『ヤマブキのポケモンセンターだよ、ヒビキくんが再戦を申し込んでくれてね。せっかくヤマブキまで来たし修行も兼ねて、今日はあと2~3戦やらせてもらおうと思ってるんだ』
電話口のわくわくした声に、アカネは思わず呟いた。マツバは悪くない、わかってる、わかっているのだけど。どうしても、どうしてもその声を聞いて、いつものように笑って突っ込むことが出来なかった。
「…マツバのあほ」
『え?何か言ったかい?よく聞こえな…』
「あほって言ったんや!ヤマブキっちゅーたらリニアつこうたんやろ、コガネ寄ったんなら一言ぐらい連絡くれてもええやん!したらうちも一緒にヤマブキ行ったりできたのに、うちせっかくやっと会えるー思ってたのに、何でこのタイミングやねんっ!」
『ちょっ、ちょっと待ってくれないか、その言われようは心外だよ…久しぶりに修行に打ち込めると思って君に連絡するところまで気が回らなかったのは認めるけど、君だって最近忙しくしていたじゃないか。最近会えてなかったのはお互い様だと思うんだけど』
マツバの言葉が、ぐさぐさと突き刺さる思いだった。マツバの言いたいことはわかる。気持ちはわかる。でもそれを制御して自分の非を認めるのは、今のアカネには出来そうに無かった。
「…もうええわっ、マツバなんかヒビキにぼっこぼこにされてまえー!!」
せめて言葉をそれだけにして、ぷちっと電話を切る。これでも、随分押さえた。最後は電話口で叫んでしまったけれども。
 そこでようやく顔を上げた。街の人が、しきりに立ち止まってはこちらをじろじろと見ている。しまった。流石のアカネでもこの状況は理解した。ここはエンジュシティの中であり、よりにもよってここはエンジュジムの前であって、マツバの名を知らないものはこの街にはいないのである。
 やば、と小さく呟いてアカネは自転車に跨り、そこからゲートに向かって全力疾走した。いくらなんでも、今のは恥ずかしすぎる。真っ直ぐゲートに突っ込み、警備員には適当に理由を付けて、アカネの足はアサギシティに向かっていた。野生のポケモンの出現しない、狭いがほぼ一本道の道路を全力疾走する。いくつか道なりに曲がったところで、アサギシティが見えた。段差を、一気に降りる。と、そこでバランスを崩した。
 ――ガシャガシャガシャン!
 派手な音を立てて、アカネは自転車もろとも道路に転がった。
「いったぁ…ぁああ何で今日はこんなついてへんの!?もう嫌やああああ」