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景琰と林殊

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使いやすい物だからと、祁王がそれ迄大事に使っていた物を、景琰にくれたのだ。
華美な装飾は無いが、使い込まれた小刀で、景琰の手にも馴染み、景琰な嬉しそうに磨いては眺め、とても大切にしていたのだ。
ああ、そうなのね、、、、と、静嬪は理解する。
景琰はこれを林殊に見せたのだ、そうしたら、林殊は小刀を欲しがったのだろう。
静嬪はしゃがんで目線を景琰の高さにして、景琰の頭を撫でながら微笑んでいた。

母には嘘はつけない、きっと林殊とケンカをした原因が分かっているのだ、そう景琰は思った。
「林殊にはまだ小刀は早いよね、小さい子が触ったら危ないんだよ。」
「私位に大きくなったら、あげるって言ったのに、全然言う事、聞かないんだよ。」
「私の小刀を取ろうとするんだよ、ダメだよね。」
「とっても危ないのに、聞かないんだ。」
珍しく景琰は雄弁に話すが、視線は下を向いていた。
「ふふ、、景琰の物だもの、自分で決めれば良いのよ。」
これは景琰と林殊の問題だ。
きっと他の者が話に入ってしまったら、簡単な話がこじれてしまうだろう。
後宮の妃嬪が子供の事に口を挟み、大事になってしまう事が少なくない。そうなってしまっては、当事者の子供達が可哀想なだけのだ。
これはそんなに難しい話では無い。
これはきっと二人で解決出来る、静嬪はそう思った。
静嬪は笑って景琰の頬を撫でて、ゆっくりと立ち上がり、シ羅宮の建物の中に入って行ってしまった。

静嬪は怒っている訳ではないのだ。
景琰は、母親の静嬪に全て見透かされた様な気がした。
景琰は林殊に自慢したかったのだ。
林殊に羨ましがって欲しかった。
まさかこの大事な小刀を、欲しがるとは思わなかったのだ。
━━━だって、これは駄目なんだよ、危ないんだから!!━━━
━━━林殊は小さいから、分からないんだそういう事。━━━
でも、見せびらかすだけなんて、自分も意地悪だったのかも知れない、、、そんな風にも思えてならない。
景琰は、じっと動かずに小刀を見つめていた。
━━━誰かが、あげるべきだって言ってくれたら、、、、そしたら、、、私は林殊にあげられるかも、、、━━━
ただ、後味が悪かったのだ、、、、。
何だか自分が悪かったみたいな気分になってしまった。
祁王がくれた大事な大事な小刀なのだか、、、林殊にあげれは、このもやもやした気分は晴れるのだろうか、、、。
でもこれは手放したくない。
━━━母上は私が何を考えていたか、分かっているのかも、、、。母上には、自分で決めなさいといわれてしまった。━━━
景琰は、ちらりと近くにいる小春を見た。
小春も何か察しているのだろう。
小春は自分の顔の前で、無理です無理です、と手を横に振って、景琰に背を向けてしまった。
もう、誰にも相談出来ない。
景琰はその場にあぐらをかいて座り込み、頬ずえをついて、小刀を見ながら悩み続けていた。

中々、宮の建物の中に入って来ないので、静嬪は幾らか心配になり、何度か様子を見に建物の入り口まで出てきたが、ずっと同じ姿勢で悩み続ける我が子が、可愛らしく思えた。
何か言葉をかけてやりたくもなるが、、、、。
景琰と林殊はきっと答えを出せる、、、そう信じて、景琰が自分から動き出すまで、静嬪も我慢をしたのだ。




「行って参ります。」
元気に声をあげて、シ羅宮を後にする景琰の姿があった。
その日の午後一番に、景琰は太監を一人連れて、皇宮の外に出る事になった。

その顔は晴れ晴れとしていた。

景琰のその手には小刀が握られている。

今日はきっと、景琰の帰りは遅くなるだろう。



静嬪は、走って行く景琰の背中を見て微笑んでいた。






────────糸冬─────────


作品名:景琰と林殊 作家名:古槍ノ標